表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/162

第三話 戦果

 小さい声でスキル作成の窓を出してから、検索する。


「けいけんちぞうか」 検索結果 2件


  経験値増加(割合) SLv1

  経験値増加(固定値)SLv1


 これが、体力増強のために作ろうと候補にしていたスキルだ。

 体力を増やすという夢はまだ諦めていない。

 経験値を増やしてレベルを上げれば体力も同時に増えていくだろう、というのを狙っている。

 ただ、昨日は割合と固定値とでどちらにしたらいいのか悩んでいた。

 固定値の方は、レベルが低いうちは増加分の経験値がかなりお得だろう。

 だけど、いくつかレベルが上がれば、誤差範囲程度になってしまいそうで、もったいない感じがする。

 割合の方ならレベルがいくら上がっても、お得感はずっと同じはずだ。

 最初だけ頑張れば段々と楽になっていくと考えると、こちらの方が魅力的だ。

 と、昨日は考え、村に着いたら割合の方を取ろうとほとんど決めていた。

 だけど、状況が変わった。



 経験値増加(固定値)SLv1


  経験値取得時に経験値500pを追加する。


  パッシブスキル

  ビルドタイム:300s

  使用SP:3.2M


  残SP:3.7M


  [戻る] [作成する]



 これを作成して、一気にレベルを上げる。

 どれだけ上がるかわからないけど、普通の大人でもレベル3なら高い方だ。

 村一番のモーリッツさんでもレベル3だ。

 予想通りならこの戦闘中にモーリッツさんより上のレベルにさえもなれるはずだ。

 アカガネ狼が僕たちを子供と思って舐めている間に、レベルを上げられれば勝てる可能性がでてくる。


 覚悟を決めて、作成ボタンを押す。

 これで行くしかない!


 経験値増加(固定値)SLv1


  ビルドタイム:300s


  スキル作成中………

  ……経験値modダウンロード中

  [*         ]1% 残り299s


  残SP:0.5M


  [戻る] [作成中断] [作成中止]


 何ぃっ!

 作るのに時間がかかるのかよ!

 ビルドタイムって作成時間のことだったのか!

 こんな事なら先に作っておけば良かった…。


「みんな、ごめん!少し時間を稼いでくれないか!5分経てば何とかできるかもしれない」

「わ、わかったよ。頑張ってみるよ」

「俺だけでも倒せるが、仕方ない。リンにも良いところを見させてやる。早くしろよ!」


 ウーヴェとヴォルフが答える。他の子たちも頷く。

 だけど、僕は今、何もできない。

 経験値を増加する前に派手に動いてしまい、絶望的に少ない体力を無くすわけにはいかない。

 ただただ、時間が経つのを待つしかない。


 その間にルナの防御強化の魔法が起動する。


「ウィントの盾。」


 ルナがウーヴェに向けた手の先から、風が吹き始める。

 その風はウーヴェにまとわりつき始め、次第にウーヴェを守るように体全体の周りを風が吹いていた。

 アカガネ狼が牙をむいてウーヴェに襲いかかるけど、風に当たると勢いが削がれて、牙が盾に当たっても押し戻され無くなっていた。

 ウーヴェの防御力が上がり、防ぐのに少し余裕が出てきたようだ。

 逆に盾を押し込みアカガネ狼を少し後ろに離して、みんなに一息つかせるような事もできるようになった。


 その隙にティルの氷魔法が完成した。


「エイスの氷槍!」


 針のような細い氷が数本、ティルの周りに浮かんでから、アカガネ狼の顔面目掛けて打ち出される。

 何本かが顔に当たり、赤銅色の硬い毛を破って突き刺さった。

 氷の針は刺さるとすぐに崩れて消えたけど、傷はしっかりと付いてそこからほぼ黒に近い色をした血が吹き出る。

 目には当たらなかったけど、魔法による傷の痛みはかなりあるらしく、アカガネ狼は声をあげて苦しんでいる。

 魔法の氷は見た目以上に硬いのか、金属のような毛に丸い穴を何個か作り出している。


 しばらくすると、痛みに耐えたのか、子どもに傷付けられたことに怒ったのか、今までより攻撃が激しくなってきた。


  スキル作成中………

  ……マナ転換器ダウンロード中

  [*****     ] 56% 残り138s


 ちらっとウィンドウをみてみるけど、まだ半分しか経っていない。

 ルナにはスヴェンに速度強化をかけるように指示する。

 ヴォルフには攻撃するよりウーヴェと一緒に防御に回ってもらう。


 長い。待つだけの時間は長く感じる。

 みんな大きなダメージは受けていないけど、疲れが溜まってきている。

 ヴォルフの短剣も刃こぼれが酷くなって、ウーヴェの盾もボロボロになってきた。



  スキル作成中………

  ……解凍展開中

  [**********] 99% 残り1s以内



 ようやく出来上がりそうだ。

 いつでも動き出せるように準備をしておく。



  スキル作成中………

  ……セットアップ中

  [**********] 100%残り1s以内



 何だよ!1秒以内になってからもう何秒も経っているぞ。

 まだなのか。



  経験値増加(固定値)SLv1を作成しました。


  有効にしますか?


  [閉じる] [有効化する]



 やった、できた!

 すぐに「有効化する」を押す。



 経験値増加(固定値)SLv1


  経験値取得時に経験値500pを追加する。


  パッシブスキル


  作成済み


  残SP:0.5M


  [戻る] [無効化する]



 よし。あとは僕が1pでも経験値を貰えれば、一気にレベルが上がるはずだ。


「みんな、待たせた!僕が攻撃をするから、援護頼む!」


「ふん。まだのんびりしていいんだがな。ウーヴェ、スヴェン、一斉に行くぞ!」


 ヴォルフの言葉に二人も頷くと、同時に攻撃をして隙を作ってくれる。

 そこに、僕がナイフで切り込む。

 アカガネ狼の体毛にナイフが弾かれる。こんなに硬いのか。手が痺れる。

 アカガネ狼が僕に向かって、嚙みつこうとするけど、三人が防いでくれる。


「攻撃が通らない!一撃でも通らないとだめなんだ!」


 ただ攻撃をしただけでは、経験値は入らないみたいだ。

 有効な一撃を喰らわせる必要がある。


「リンくん!私の攻撃跡だったらどうかな?」


 そうか。それだ!左腕を横にして突き出し、アカガネ狼にわざと噛み付かせる。ティルの悲鳴が聞こえるけど、あとで土下座して謝るから!

 動きが一瞬止まった隙を逃さず、ティルが氷魔法で開けてくれた顔面の傷痕の一つを目掛けてナイフを突き立てる。


 ガッ


 ナイフは傷痕に刺さるけど、まだ浅い。

 有効な一撃とは判定されていないらしい。

 ぐっぐっと押してもビクともしない。

 それならと、手首を捻りながらナイフを押し込む。

 すると、バキバキと音を立てて、アカガネ狼の体毛にヒビが入り、ナイフはそのまま奥まで刺さってダメージを与えた。


 グォーッ


 アカガネ狼が体を捻って苦しみ、左手が口から外れる。

 僕はその反動でナイフを離しそうになるが、必死にしがみ付いて耐える。

 その時、ブワッと毛が逆立つ感覚がすると、温かい何かが身体中を駆け巡る。それと同時に胸の真ん中辺りが熱くなる。

 それが立て続けに、全部で三回起きた。

 これが思った通りの感覚なのだとしたら、僕は今レベル4になったはずだ。

 ナイフを握る力が急に強くなったのを感じる。

 刺さったままのナイフを更に押し込んで、下に引き抜く。

 さっきまでなかなか通らなかったナイフがパンを切るような軽さで、赤銅色の体毛ごとアカガネ狼に深い切り傷を付ける。

 下に振り切った腕を逆手にしてナイフを上に向け、今度は下からアカガネ狼の喉めがけて振り上げる。

 ストッと軽い音を立てて、ナイフが深く刺さる。

 左手をナイフの下に当てて、更に上へ押し込む。

 その勢いでアカガネ狼の巨体が軽く浮かび上がる。

 いつまでこのままやれば倒せるのかわからない。

 もう倒せたのか?力を緩めたらまた動き出しそうで気が抜けない。

 そう考え始めた頃、またさっきの、毛が逆立つ感覚と温かい何かが巡って胸が熱くなるのを感じる。

 討伐の経験値によるレベルアップだ!

 つまり、今こいつを倒したんだ。


 ホッとして、手の力を緩めると、ナイフが根元からパキッと音を立てて折れる。こいつもぎりぎりだったか。ありがとうな。

 ズンとアカガネ狼が地面に落ちると、みんなも戦闘が終わったことが判り息を吐く。


 後ろを見ると大人たちの戦闘ももう終わりそうだ。

 ヨロヨロになったアカガネ狼に留めを刺そうとしていた。



「あっちも終わりそうだな」

「た、助かったー」

「ふん、本来なら俺の剣技スキルがもっと炸裂するはずだったんだ。くそ!もっとスキルレベルを上げてやる!」


 男子達もみんなボロボロになっていた。

 安物のナイフや盾でよく持ちこたえられたと思う。

 正直最期のいいところだけを僕が持っていった様なものだ。


 女子達の所に合流すると、ティルが泣きながら怒って来た。


「もー!リンくんのバカー!あんな風に自分の腕を噛ませるなんてしたらダメじゃないのー!ううっうええぇん」

「ティルちゃんびっくりしてたんですから。私もちょっと怒ってます」


 ティルはいつもこうやって泣いて怒って、少ししたら元通りだけど、今日は珍しくルナにも怒られてしまった。


「謝っておいた方がいいと思うぞ。あれは僕でも驚いた」

「うんうん。リンくんが悪いと思うよ。腕千切られたかと思ったもん」


 ウーヴェとスヴェンにそう言われる。

 そ、そうかぁ。まずかったかぁ。

 相手の動きも止められるし、距離感も分かりやすかったしいいやり方だったと思ったんだけどなー。


「俺はリンの戦法は嫌いじゃなかったぜ!」


 味方はヴォルフだけかー。

 これは僕が悪かったんだと自覚できたよ。


「ティル、ルナ。驚かせてしまってごめんね。もう少し見えない角度にするとかの配慮が足りなかったよ」

「ちがーう!もー!リンくん嫌い!」

「バカなのですか?」


 あれ?謝り方間違えた!?

 ティルとルナに物凄く睨まれるとそのまま二人はマルガさんの所に行ってしまった。


「今のはお前が悪い!」


 ヴォルフにも怒られた。


 大人達が後始末を終えてこちらにやって来た。


「おーい。お前ら、そっちにもアカガネ狼が出たって本当なのか?ってデケェなそいつ。マジかよ。よくお前らだけで倒せたな…」

「かーっ!俺らでも手こずったのに、それ以上の大きさじゃねえか」


 どうやって倒したかをヴォルフ達に聞いている。

 特にヴォルフは俺の剣がどれだけ活躍したのかを身振り付きで説明していた。

 結論としては、みんなのスキルの相性が良く、偶然にもアカガネ狼を倒せたのだろう、ということに落ち着いた。

 冷静に考えればそれだけで倒せる敵ではないのは分かるのだが、実際に倒せてしまっている事や僕がレアスキルを持っているなんて思いもしないだろうからそう思ってしまっても仕方ない。


 まあ、スキルが良かったのは間違いない。

 みんなのスキルのバランスがまず良かった。

 偏っていたら、僕のスキル作成が間に合わなかったかもしれないし、経験値を得るための一撃を通せなかったと思う。


 アカガネ狼に噛ませた左腕は比較的傷は浅かった。

 すぐにナイフを突き立てたので、あまり深くは噛まれていなかったのだ。

 2、3日で普段の生活に支障が出ないくらいには治るだろう。


 その後は魔物に襲われずに村まで帰ってこられた。

 なんだか大変だったな。

 でもまあ、結果的にはレベル5にまでになれたんだから、体力増強という目的も果たせたわけだし、良かったと思う。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ