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第二十一話 レリア

 いつまでも落ち込んでいてはいられない。

 今は皆んなに甘えて、戦闘は支援に徹する事にする。

 大事なのはこの3人も含めて、第2部隊を前線基地まで全員無事に連れて帰る事だ。

 僕の覚悟の問題は帰ってから、よく考え直そう。


「よし、この地点を殲滅できたのは良かったかもしれないですね。退路ができました」

「そうだなー。退路確保は俺の役割だったけど、これよりいい抜け穴はそうそう無いな。ここが落とされたと気づかれる前に一気に助けに行った方がいいな」

「ヴォーヴェライトもたまにはいい事を言う」

「ええ?!たまにかよー」


 エルズさんもヴォーさんをからかったりして、僕の気を紛らわせてくれている。

 いかんいかん、隊員に気を使わせてどうする。


 近くに敵部隊がいるかもしれないから、ここからは慎重に進んでいく。

 第2部隊が居る正確な場所は分からないから、この辺りを探し回らないといけないけど、うっかり敵の陣にまた出くわしてしまわないようにする。

「着弾誘導スキル」で付けた目標地点はもうとっくに過ぎてしまった。

 洞窟に逃げ込んでいるというからには、平らなところよりは崖の下辺りが怪しいだろう。


「おお、小隊長!あれじゃ無いか?あそこだけ暗くなって洞窟があるように見える」


 ええ?どこ?みんな同じように見えるんだけど。


「ああ、あれですね。中にマナの気配があります」


 マナの気配って何よ。

 よくそんなのわかるな。

 やっぱりエルズさんは人族じゃないのか。


 二人に教えてもらってようやく場所がわかった。

 1ハロンも離れた小さな洞窟の入り口なんてどうやって見つけたんだよ。

 今でもちょっと目を離すと何処だか分からなくなるくらいだ。


「あとはあの中に入るだけなんだけど、絶対この近くに敵も潜んでいる筈。洞窟にたどり着く前に敵から襲われる可能性があるから、出来るだけ速度を出して一気に行ってみましょう!」

「そんなんでいいのかいな」

「皆さんの身のこなしがあるから出来るやり方です。僕が先頭で左右に迂回しながら進みますけど、皆さんは真ん中を全速力で駆け抜けてください」

「その、小隊長殿…」

「はい、エルズさん。どうしましたか?」

「いえ、小隊長殿を疑うわけでは無いのですが、我々が1ハロン程度を全速力で駆けるのに、小隊長殿が迂回したら流石に一人遅れてしまうのでは無いでしょうか」

「大丈夫ですよ。まあ、遅れたら遅れたで僕の事は置いていってください」

「ダメ〜。そんなのダメ!ツィスカはそんなリンくんキライ〜」

「ええっ?どうしたんですか?ツィスカさん」

「も〜。自分が犠牲になってまで私達を洞窟まで行かせようとしてもそんなのはダメダメだよ〜」


 あ、そうか、そう言う風に取られてしまうか。


「そうでは無いんです。実際には僕が遅れる事は無いから大丈夫ですよって言いたかったんです」

「へ?そうなの〜?」

「はい。心配してくれてありがとうございます。僕も自分を犠牲にするなんて出来ないですよ。怖がりですから」


 さて、皆んなを守りつつ、誰も犠牲にならず、無事皆んなを洞窟まで連れて行ってみよう。


「じゃあ、行きますよ。皆んなは真っ直ぐに洞窟を目指してください!」


 僕は皆んなの進路を挟んで左右に回り込みながら森の中を走る。

 後ろを見ると3人とも付いてきている。

 間が空き過ぎないように気を付けながら、敵が潜んでいないか警戒しながら突き進む。

 薮は前線基地から持ってきたギベオンソードで薙ぎ払う。

 ようやく使えたと思ったら薮を斬るだけとか、ギベオンソードからしたら不本意な使われ方だろう。

 でも、スパスパ斬れるから速度が全然落ちずに走れる。


 薮の少し向こうに人影を見つける。

 やっぱり敵が近くに潜んでいた!

 あっちも僕の事に気付いたみたいだ。

 戦闘態勢に入ろうとしているけど、僕の方が断然早い!

 ギベオンソードは斬れ過ぎそうだから両断とかならないように軽く掠るように振る。

 それでも鉄製の鎧はスパッと真っ二つに斬れて、その中の敵の身体にも傷を付ける。

 致命傷にならないように、でも、行動不能にはなるように攻撃するのは中々難しいけど、多分レベル差が2はある筈だからだろう、相手が殆ど止まって感じられる。

 そこにギベオンソードを丁寧にそうっと薄皮一枚斬る感覚で横に動かすだけだ。

 時間感覚は戦闘行動中には普段より物凄く早くなるから、僕にとっては戦闘というより、精密作業をしているみたいだ。


「す、凄い。あれだけの攻撃をしていながら、それでも私達より先を行っている」

「かーっ。あの速さで斬りつけてるのに、致命傷は避けてるとは、恐れ入ったぜい!」

「はあはあ、何をしてるのかよく見えない〜。ああ〜もうあっちに行っちゃった〜」


 何人かの敵が潜んでいたけど、速攻で無効化できた。

 そして、無事、全員洞窟の中に入れた!


 洞窟の中には第2部隊の隊員達がいたのはいいけど、いきなりこっちに襲いかかって来ていた。


「わああ!待ったー!味方です!救出部隊です!」


 敵が侵入して来たと思われたみたいだ。

 皆んな剣を振り上げた所で止まってくれた。


「あ、危ねえ。小隊長ー。事前に連絡しておけば良かったんじゃねえのか?」

「うっ、そうでした…。僕はリヴォニア騎士団の第1部隊所属のリーンハルト・フォルトナー5段剣士です!」


 それでもまだ疑ってるらしく、ジリジリと間合いを詰めて来ている。


「待って!その人は本当にリヴォニア騎士団よ!私の知り合い!」

「そうなのか?ヴァレーリア・アウグステンブルク!」

「はい!その人は、その、私の身内みたいなものです」


 僕の身を証明してくれるのはいいけど、なんで身内扱いなの?

 いつの間にか好感度上がってた?


「私の父が用意した私の監視役なんです」

「そ、そうか、貴様も大変なんだな」


 あ、それまだ信じたままなんだ。

 まあ、それで信憑性が上がるなら今はいいけど。


「失礼した。私は第2部隊隊長のルードルフ・ローデンヴァルト6段騎士だ」


 隊長のその一声にようやく皆んなの緊張が解かれる。


 お互い自己紹介しあってから洞窟の奥の方に進み状況説明をする。


「第2部隊からの救援要請を受けて、団長の命令によりまずは我々の小隊が先行して来ました。このあと中隊を編成してくる筈ですが、時間がかかるみたいです。作戦としては状況に応じてこのまま皆さんを連れてここを離脱する事も考えられます」

「しかし、こう言ってはなんだが、いくら第1部隊とは言え4人増えただけではここを抜け出すのは難しいのではないだろうか」


 そう思うのも仕方ないだろう。

 僕もそう思うけど、団長さんもアーディさんも僕達だけで救出出来るものと当然のように信じて疑っていなかった。


「ここにくる前に敵の一部隊を潰しています。そこからこの包囲を抜け出せると思います」

「それは本当なのか?ここを包囲している敵部隊は一つに数十人はいた筈だ。それをこの4人だけで潰したというのか」


 信じては貰えないだろうな。

 この3人はとても強い。

 第1部隊自体が精鋭が集まった最強部隊なのだそうだ。

 ただ、皆んな一癖ある人ばかりらしく、いくら強くてもまともな人は第2部隊の方に入れられるらしい。

 あれ?僕もその中に含まれるのか?

 おかしいぞ。なんで僕も第1部隊なんだよ!

 あとで団長さんに文句言ってやる。


「ああ、小隊長、ここは戦術士として発言するけど、第2部隊と俺達合わせると20人近くいる。この人数であのルートを抜けるのはちっと難易度高めだな。もう一手何かあるといいんだがな」


 ふむ、もう一手か。

 敵が一瞬でも行動不能になったりすればいいのかな。


「うん。ちょっとやってみよう。少し洞窟の外に出てみるので誰か見張りを頼めますか。集中するので敵が近づいて来ていないか見ていてほしいんです」

「わかった。私が見ている」


 レリアが手を上げて一歩出て来た。

 学校ってこんな感じで手を上げて発言するんだったっけ。

 都市メールスにある学校に行けばこんな風に手を上げて話をしたりするんだろうか。

 レリアは貴族の娘だからそういう所にも通っていたのかもしれないな。

 いいな。


「?私だとダメ?」

「あ、いや、ダメじゃない!むしろいいよ!」

「ほうー。小隊長はやっぱり剣姫の事が好きなんじゃーん」

「な!そ、そうなの?」


 ヴォーさん!やめてよ!

 レリアが嫌がってるじゃないか。


「レリア違うからね。ヴォーさんはいつも変な事を言ってる人だから気にさないでね」

「あ、レリアって、家族しか呼ばない愛称……。やっぱりあなたは私の事……。ふ、ふん!それもお父さ、アイツの作戦なのね!私の事が大好きな人なら私も心を許すとか思ってるのかしら!そ、そ、そんな訳、なななな無いじゃない!」


 話し方が元に戻るくらい物凄く動揺しているところ悪いけど、僕は君の事を大好きとか言ってないんだよ。ヴォーさんが勝手に言ってるだけなんだ。

 愛称は未だに名前を覚えられないから仕方ない。貴族の人は名前が仰々しくて覚えづらいんだよ!


 とにかく僕が洞窟の入り口から顔を覗かせている間、レリアには周りを警戒していてもらう。

 ちょっと大きな魔法を使うから集中する必要がある。

 とは言っても使うのはティルやフィアが使っている「メールの水塊」だ。

 魔法の効果が強くなるか弱くなるかは、発動前にマナをどれだけ込めるかで決まるらしい。

 体内のマナというのは普段は循環マナといって身体中を駆け巡っている。

 魔法を使う時はその循環マナから水を汲み上げるイメージで集中すると活性化マナというものに変換される。

 活性化マナが作られた時に魔法名をコールすればそのマナの量に応じた強さで魔法が発動する。

 循環マナはステータスウィンドウや収納系スキルで常に使われているのだが、余っている分を使って活性化マナを作る事ができる。

 だから余計な常駐スキルが多い人は魔法はあまり大きくは使えない。


 僕はレベル7まで上げたから循環マナにはかなり余裕があるみたいだ。

 ステータスが見えないから実際のところはわからないけどね。


「敵が来たら教えてね。少し時間がかかるから……」

「わ、わかった……。ねぇ、あなた、名前なんて言ったかしら」


 ええええ、今更名前かよ!って人の事言えなかった。

 僕もこの子の真の名、すっかり忘れ去ってる。


「僕の真の名、情報料、銀貨3枚」

「え?」

「あ、いや、冗談だよ。僕はリーンハルト・フォルトナーだよ」

「ごめんなさい。前に名乗ってもらった気がするんだけどあの時はあなたの事、疑ってたから」


 ああ、集中が乱れたから少し活性化マナが循環マナに戻っちゃった。

 活性化マナが作られると胸の辺りが暖かく感じる。

 これが多分活性化マナなんだと思う。

 魔法が発動するとその暖かさも消えるから確かだ。


「今は違うわ。あなたは私の事を命懸けでて助けに来てくれた。そんな人今まで居なかったわ。いくらお父様に言われても命までかける人はあなただけよ」


 ええ?何でそんな解釈になるのさ。

 団長の命令で第1部隊として来たってさっき言ったじゃないか。

 相変わらず人の話を聞かない人だな。

 いかん!またマナが体内に戻っていく!

 集中集中!


「ねぇ、私、おかしいの。あなたは私より年下で、まだ子供なのにそうは見えないの。何故かしら。あなたが来てくれた時、ああ、やっぱり来てくれた!って思っちゃったわ。それって変よね。あんなに嫌っていたのに」


 嫌われてたんだ。

 落ち込む。

 それにしても貴族の人は話に脈略がなさ過ぎる。

 思いついた事を好きに話すのが当たり前なのか。


「レリアは今、身の危険をずっと感じていたから少し現実逃避したいんだよ。後で落ち着いた時に恥ずかしくなるだろうから、今は何も考えない方がいいと思うよ」

「あなたは、本当に子供なの?私の知っている大人達より例え学校の先生よりずっと大人だわ。あ、そうだわ、悪い魔女に子供の体になる呪いをかけられたのでしょう?」

「ぶっ!何それ!」


 ああ!活性化マナが全部霧散してしまったー!

 また最初からやり直しだ……。


「キミはさ。もう少し自分の考えが的外れの時があるって理解した方がいいと思うよ。レリアと話していると、そう感じる時の方が多いくらいだよ」

「あら、でも、今のこの気持ちは間違っているとは思えないわ。小さい頃お父様に感じていたのとは少し違うの。これは家族に対する想いではないわ!そうよ!これは」

「わー!レリア!ちょっと待った!もう準備できたから警戒を強めてくれるかな。これから魔法を打つから」


 さっきからマナが霧散しているから、全然準備なんか出来ていないんだけど、あれ以上あの話を続けさせたら絶対おかしな方向に行ってしまっていたと思う。

 チラチラとフィアとかラナとか、あとついでにレティの怒った顔が浮かんでくる。

 仲良くしたいとは思ったけど、そういう話になるとは思わなかったよ。

 これで勘違いだったら僕はなんて自惚れているヤツなんだって話だな。


「それじゃあ、魔法を打つから、周りの警戒よろしく」

「え、ええ、分かったわ。後でさっきの続きを話しましょう」


 結局、話すんかい。

 これが終わったらすぐに移動開始してこの話題は忘れてもらおう。


「メールの水塊!!」


 一気に活性化マナが吸い取られる感覚がして力のある見えない塊が空中に浮かぶのが分かる。

 そして、その力の塊から大量の水が溢れ出してくる。

 対象範囲を限界まで広げたから力の源たる不可視の塊は上空に上がっていき、水が広範囲にばら撒かれる。

 水の量がどんどん増えていき、とうとう豪雨のようになってくる。

 僕達のいる洞窟の辺りは範囲外になっているから、今まで通りカラカラに乾いている。


「はあ、凄いわね。まるでスコールね」


 この雨に見える水は魔法で作り出した魔法の水だ。

 触っても飲んでも問題ないけど、魔法を通しやすく、魔法の効果を強化するという特徴もある。

 水に弱い魔物には直接ぶつけて弱体化させるために使うけど、こういう使い方もよく使われる。


「ブリクスムの雷鳴!!」


 バリバリバリバリ!!


 誰もいない所を目掛けて打ち出した雷の魔法はメールの水塊を伝わり、森の奥へと増幅しながら広がっていく。


 しばらくすると奥の方で呻き声がいくつも上がり、バタバタと倒れる音がする。

 周囲4ハロンは対象にしたから、ここを取り囲んでいた敵は全部この魔法でしばらくは痺れさせたり気絶させれたんじゃないかな。


「よし、こんなものだね。一旦洞窟の中に戻ろうか」

「え?え、ええ。そうね」


 あれ?引かれた?

 それともぼーっとしてるから雷に少し当たった?


「今のは何だ?ブリクスムの雷鳴にしては規模が違いすぎるようだったが、まさか戦術級魔法なのか!」


 第2部隊の隊長さんは何を言ってるのかな?

 第2部隊で流行ってる冗談とか?





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