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第十九話 ノルド戦線

 翌朝、良く寝れなかったから眠い。

 再び戦線に向けて出発する。


 もうお姉さん二人に挟まれるのに抵抗するのも諦めた。

 というか眠くてその気も起きなかった。

 昨日はあんなに緊張してたんだけど、今日は慣れたのかこの定位置もちょっと心地いいかも。

 移動を開始してからすぐに寝てしまったみたいだ。

 はっと気がつくとエデルさんの肩に寄りかかって寝ていた。


「あ!ご、ごめんなさい!」

「ううん、いいよ。昨日寝れなかった?」

「あぁ。だから早く変わってって言ったのにぃ。リンくん目が覚めちゃったぁ」

「ごめんごめん。またこうなったら今度はツィスカの番ね」


 ああああっ。やってしまったあ!!エデルさんに寄りかかったなんて、嫌がられてたんじゃないか?

 この二人の会話を聞く限りは平気なのか?

 最近誰かに嫌われる事が多いから分からなくなってきてるよ。

 ああ、それでも眠くなって来た。

 ダメだ今寝たら、またどっちかに寄りかかってしまう。

 眠気を覚ます、スキルとか、無いか。


「ねむけ」

「ん?」

「なあに?リンくん」



 [ねむけ]検索結果 0件


  みつかりませんでした


  [戻る]



 ダメだ。

 眠い。


「かいふく」

「えっと、大丈夫?」

「体調、悪いの〜?」



 [かいふく]検索結果 5件


  体力回復魔法SLv1

  生命力回復魔法SLv1

  創傷回復魔法SLv1

  病気回復魔法SLv1

  欠損回復魔法SLv1

 


  [戻る]


 これ、かな?

 体力回復と生命力回復を同時に作ってみる。

 だ、ダメだ、どっちもビルドタイムが30分だ。

 キャンセルして、他の何か、を、作る、か。

 どう、しよ、う。



 はっ!

 しまった、またやってしまった!

 今度はツィスカさんに寄りかかってた!!


「ごめんなさい!ごめんなさい!またやっちゃって!」

「いいのいいのぉ。こういう時に頼られるのは嬉しいんだよぉ」


 二人が優しい人でよかった。

 あの赤目の子だったら、剣で切り刻まれてたところだよ。

 あ、もう回復魔法が出来てた。

 という事は30分以上寄りかかっていたのか?!

 ホントすみません、ツィスカさん。


 また眠気が来たらいけないので、魔法で回復してみよう。

 そういえば魔法って初めてかな?

 魔法って事はマナを消費して発動するんだろうな。

 長い呪文を唱えるのが面倒だけど、眠気を飛ばすために頑張る。


「ヴェルフリッシングの種」


 んー。変わったかな。

 体力回復魔法を使ってみたけど良くわからないや。


「レーベンの泉」


 今度は生命力回復魔法だ。

 お、今度は眠気が無くなったのが分かるぞ。

 へぇ、眠気は生命力に繋がってるんだ。

 まあ、ずっと眠らなければ命に関わるもんね。


「回復魔法!?た、大変!リンくん怪我してるの?ツィスカ!回復!」

「わ、分かったぁ!リーフデの癒しぃ!!」

「大丈夫です!怪我はしてませんよ!眠かったから魔法で眠気が消えないかなって思っただけですよ」


 周りの皆んなに呆れた顔をされてしまった。

 魔法で眠気覚しとかやったらダメだったのかな。


「ま、魔法で眠気覚し……。回復魔法にそんな効果があったの」

「体力回復の方はダメだったみたいです。効果があったのは生命力回復のほうでした」

「ビックリしたぁ。ビックリしたぁ。ツィスカ心配したよぉ」

「す、すみません」


 やっぱり眠いと変な行動をしてしまう。

 でも、魔法のお陰でスッキリした。


 そういえばこの後戦場に行くんだから、こういう回復魔法は持っていても損はない。

 SPに余裕はあるから何か戦闘に役立ちそうなスキルや魔法を今の内に作っておこう。

 とは言ったものの、音声入力をこの状況でするのには難易度が高い。

 さっきも結構小さい声で言ったつもりだけど、聞かれてしまったからな。


「町の方、雷雲が出てる。今頃マルネは夕立ちかもね」

「えっと、エデルさんは……『かみなり』って苦手だったりしますか?」

「んん?リンくんはそういうの怖がる女子が好みなのかな?」

「そ、そう、ですかね」

「ほうほう。その辺もうちょっと詳しく聞かせたまえ〜。ツィスカはねぇ、雷苦手だよ〜」


 話題が急過ぎたかと思ったけど、別の意味で食いついて来たから大丈夫そうだ。



 [かみなり]検索結果 2件


  雷属性魔法SLv1

  雷耐性SLv1


  [戻る]



 よしよし、良さそうなのが見つかった。

 この調子で会話に混ぜてタイミングよく音声入力すれば、馬車の移動中にも色々作れそうだ。


 道中、会話をしつつスキルや魔法を作りながら、ようやく前線基地に到着した。


「着いた〜。もうツィスカはヘロヘロよ〜」

「お疲れ様。リンくんも疲れたでしょう。ここは簡易的にだけどベッドのある小屋や食堂もあるわよ。最前線に行くのは明日でしょうから、今の内に休んでおきましょう」

「は〜い」


 他の第1部隊の皆んなも思い思いに散らばって休憩をとるようだ。

 隣の第2部隊を見るときちんと整列して隊長らしい人が今後の話とかをしていた。

 第1部隊はやらなくていいのかな。

 あまり第1部隊はきちんとしてない人が多いような気がする。


「第2部隊はこれより威力偵察に向かう!2日如きの移動で根を上げている場合ではない!あと一時間で出発の準備をしろ!以上、解散!!」


 ええええ、これから偵察に行くの?

 こういうのって他の部隊と連携もしないものなのかな。

 意外とバラバラなんだな。

 第1部隊は今日は何もないみたいだし、何か食べて休もうかな。


 食堂に入るとたくさんの人が食事をしていた。

 元々この基地にいた部隊の人はみんな疲れ切っていた。

 僕達はたった2日馬車に揺られただけなのに、休憩とかしてていいんだろうか。

 第2部隊はそういうのも考えて、すぐに偵察に行くんだろうな。

 少し気が引けて来たから食堂を出る。

 かと言って何かする事も無いのでその辺りをブラブラするしかない。

 そこで見知った顔を見かけた。


「アーディさん、グレーナーさん。お疲れ様です」

「あら、リンくん。お疲れ様。移動大変だったでしょう?」

「どもっス。いきなり最前線配備なんてさすがっスね」


 グレーナーさんは昇段試験以来だ。

 ここに居たのは二人だけではなくさっきまで僕を両側から挟んでいたお姉さん二人もいた。

 このメンバーは知り合い同士なのか。


「皆さんお知り合いなんですか?」

「私とツィスカが同期でエデルさんとグレーナー君が同期なの」


 あれ?ツィスカさんって15歳とかだったよな。

 アーディさんってそんなに若いの?!

 レティくらいかと思った。


「リンくん〜?今失礼な事考えてなかった〜?」

「い、いえ!何も!」

「まあ、いいけど」


 4人に混ぜてもらい和やかに雑談をしていると皆んなが一斉に僕の後ろを見た。


「ねぇ」


 僕も後ろを振り返るとあの赤目の子がいた。

 この子の名前なんだったっけ。


「え?僕?」

「今日、戦果あげるから見てなよ。それをおとう、アイツに報告、ちゃんとしてよね」


 ああ、みんなの前だとこんな話し方で通すんだ。

 この子の剣姫のイメージってこんななんだ。

 僕と話してる時の方がかわいくていいのにな。


「分かった分かった。キミのお父様とは関係ないけどちゃんと見てるよ。でもあんまり無茶したらダメだよ」

「くっ!アイツの用意した地位も名誉もクソ喰らえよ!あなたが何言われてここまで来たか知らないけど、アイツの思い通りにはさせない。私が自分で勝ち取る!」


 そのまま向こうに行ってしまった。

 あの子も貴族の親に甘やかされているのが嫌で自分でなんとかしようと頑張ってるのかな。

 功を焦って無謀な事をしなければいいけど。

 あれ?やっぱりあの子の名前、思い出せないや。

 なんて言ったっけ。

 家名が長かったのは覚えてるんだよな。

 名前はレ、レ、レリーとかレリアとかだったような。


「リンくん、赤目の剣姫と付き合ってるのぉ?」

「ぶっ!ツィスカさん、何言ってるんですか?レリアとは知り合ったばかりですよ!」

「あら、ヴァレーリアさんをそんな愛称で呼ぶなんて人、他にはいないわよね。あやしい」


 しまった、何となく覚えてたから間違えてた。

 名前ヴァレーリアだったのか。


「い、いや、これは」

「へぇ、師匠も中々やるっスねぇ。あの剣姫とですかい」

「えっと、グレーナーさん、その師匠って言うのはなんですか?」

「何言ってるっスか。団長の剣を軽く折ったんスから。団長はオレっちに剣を教えてくれてる先生なんで、その上っていったらもう師匠しかないっスよ」


 よく分からない理論だな。

 まあ愛称みたいなものか。


「ふえぇ。リンくん、だんちょさんの剣を折っちゃったの〜?ホント〜?」

「もしかして、もの凄く強いのかしら?こんなにかわいいのに」


 お姉さん二人が疑いの目で見てくる。

 本当の事だけど、こんな事は信じなくていいです。

 きっと団長さんの剣にヒビが入ってたとかそんなところだよ。


 あ!グレーナーさんの師匠呼びが気になって、レリアと付き合ってるとか言われたのがそのままになってた。


「あ、あの、さっきの話の事なんですけど」

「おい!明日は早いんだから、貴様らは早く充てがわれた部屋で仮眠を取れ!フォルトナー!だらけた顔してるな!」


 ええええ。顔は関係ないでしょ。

 テオ隊長って皆んなが仲良くしてるのが羨ましくてこうやってわざわざ来るのかな。

 あ、しまった!とうとう隊長の名前覚えちゃったよ。

 もっと有意義なものを覚えたいよ。

 あ、あれ?レリアの名前なんだっけ。

 あああ!さっきエデルさんが言ってたのに!

 レリアの真の名が出てこない!



 この前線基地に来た時とは反対方向、つまりノルドの方に向かう街道の辺りに第2部隊が集まっていた。

 レリアもその中に居た。

 名前を思い出すのはもう諦めた。

 まあ、名前を覚えられないんだから、僕にとってはそんなに気になる存在じゃないんだろう。

 たまたま、レリアから言いがかりを吹っかけられたってだけだ。


 お、レリアがこっち見た。

 というか目があった。

 うん、って頷かれたけど、何の頷き?

 僕も頷き返した方がいいのかな。

 ああ、またレリアがうんうんやってるよ。

 涙目になってきて可哀想だから、こっちも頷いてあげたら納得したみたいだ。


「第2部隊は大変だねー。オレらはこっちで良かったぜい。なあ、フォルトナーよ」

「はあ」


 ヴォーさん、酒臭いな。ここまで来てお酒を飲んでるのか?

 というか、お酒あるんだ、前線基地。

 酒でも飲んでなきゃやってられねぇぜ、っていう事かな。

 父さんが母さんに叱られて土下座した後によく言ってたな。


 第2部隊が威力偵察に出発するのを見送った後は軽い食事をしたらやる事が無くなってしまった。

 いや、早く寝ろよ、と自分でも思うのだが、興奮して寝れそうにない。

 いきなり騎士団に入隊したと思ったら、すぐにノルド戦線まで来て、明日には最前線だ。

 これで気分が落ち着いていられる筈が無い。

 自分用の部屋に戻ってベッドの上でゴロゴロしてるけど、全然寝れる気配がない。

 はあ、明日どうなるんだろう。

 命の奪い合いとかになるんだよな。

 戦争だもんな。

 この国は10歳の子供に何させてるんだよ。

 まあ、何とかの加護が付いてるからいざとなったら守ってくれるかな。

 女神の名前をすっかり忘れてるからダメか。

 クロ、クロの何とか。

 ダメだ、名前覚えるの苦手だ。


 ヴー、ヴー、ヴー。


 お、ラナからのメッセージだ。


『はいは〜い。今日もラナさんがお送りする定時連絡のお時間ですよ〜。ご主人、元気かな〜。寂しくなってないかな〜。私とは主従契約でいつでも繋がってるからね〜。ほら、フィアちゃんも。あ、ど、どうも。ザフィーアです。以上。ええええ?フィアちゃんそれだけ〜?もっとこう、なんかあるでしょ?ほら、ほら。うっ、でも、その、は、早く帰ってきて、ね。うわあああ』


 二人とも元気そうで何よりだ。

 最後は恥ずかしさのあまり、送信を押してしまったのかな。


『二人とも何事も無いみたいだね。マルモとブロンも元気かな?』


『今日も問題なしよ。マルモとブロンはご主人が居なくてちょっと寂しがってるわね。今日は夕方急に雷雨になっちゃって、雷でマルモが泣いちゃったけど、あれは雷が怖くてじゃなくてご主人が居ないから泣いたのよ、きっと』


 やっぱり雷雨だったんだ。


『あ、そうそう。今日レティの所にご主人の村の人が訪ねてきたみたい。何話してたのは分からないんだけどね。レティの知り合いだけど、ご主人とも知ってる人だって。テル?テレル?なんかそんな人?』


 ラナも僕以上に名前が覚えられないみたいだ。

 そんな人知らないぞ?

 あ、ティルか?

 レティの所に遊びに来たのかな?

 そう言えば、レティに付いてマルネの町まで来たけど、あの時はみんな麻痺毒で寝込んでたから挨拶も無しに村を出たんだよな。

 後で手紙を送ったけどティルは怒ってるだろうな。

 ラナみたいにメッセージを皆んなと送り合えるといいんだけど、主従契約しないと出来ないのかな。


 その後も何回かラナやフィアとメッセージのやり取りをしたら、気持ちが落ち着いてきて、いつの間にか寝てしまっていた。


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