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第十七話 出立

 今日はこのマルネ支部の中にある寄宿舎に泊まる事になった。

 一度帰らせて欲しいと言ったんだけど、明日は早いらしいのと、ここの人達に慣れて欲しいからという理由で建物から出してくれなかった。

 それは口実で本当のところは僕が逃げ出さないようにするためだと思う。

 実際に今日帰れたら仲間を連れてエルツ族の国に逃げようかとも思ったから、この拘束はあながち間違いでは無い。


 皆んなどうしてるかな。

 説明はしているって言ってたから大丈夫だと思うけど、ちゃんと僕の口から話したかったよ。


 寄宿舎の裏庭に出てくるともう外は真っ暗になっていた。

 いい天気みたいで今日は青の月が出ていた。

 教会でスキルを貰った頃は赤の月だったけど、それより僕は青の月の方が好きだな。

 エルツ族のキレイな蒼い髪に似て見ていて落ち着く。


 フィアは何してるかな。ラナは寂しがってないかな。

 マルモとブロンはもう寝てるか。

 レティは……食事ちゃんと取ってるか一番心配だよ。


 ヴー、ヴー、ヴー。


  メッセージが1件届いています


  メッセージを開く



 何だこれ?

 空気が振動した感じがしたと思ったら小さなウィンドウが開いた。

 メッセージ?そう言えばラナと主従契約をした時にメッセージスキルというのが作られたっけ。

 という事はこれはラナが何かしたのか。

 メッセージを開く、というボタンを押す。


『あ。これで入力できるね。あれ、どうしよう、喋るとどんどん文字になっちゃうよ。ねぇフィアー。これどうやって消すのー。お姉ちゃん私には見えないんだって、見える設定にしてよ。ええー。やり方わからないよ。もう一度やり直して見たらどう。あそうか、これかな、えい』


 ここで間違って送信を押したって事か。

 こっちからも返事がかけるかな?


「落ち着け」


『落ち着け』

 メッセージを送信しました。


 音声入力で返信を返せた。

 するとすぐにまたラナからメッセージが来た。

 あれ?早いな。


『ご主人ごめんね。さっきのは見なかった事にしてね。それでね、騎士団の人に説明をうわっ何?あ、ご主人からだ。ねぇねぇフィア、ご主人から、ほら。だから、私には見えないんだってお姉ちゃん。何々、落ち着け、だって。あはは。そうそう、それでね、騎士団の人に説明を聞いたんだけど、ご主人本当に大丈夫?最前線に行くんでしょ?危なかったらすぐ帰ってきてよ。ほらフィアも何か言って。え?これって私も話したら入力されるの?そんなの私聞いてな、あ、ちょっと長いから一度送るね。ほい』


 もうちょっとまとめてから話して欲しいな。

 まあ、僕も途中の文章を消す方法なんて分からないから間違えたらやり直しになるだろうけどね。


『大丈夫だよ。すぐ終わらせてなるべくはやくそっちに帰るよ。それまで待っててね』


 そう返事をしたけど、これじゃあ夫婦の会話みたいだな。

 あれ?返事来ないな。

 もうこれでいいのかな?

 ちょっとさみしいけど、まあいいか。


 メッセージのウィンドウを閉じて、顔を上げると目の前には女の子が立っていた。


「うおっ。ああ…ども…こんばんは」

「……」

「えっと…今日から第1部隊に入った…リーンハルト・フォルトナーです」

「…ぶつぶつ言ってキモい」


 なっ?!なんだこの子は。フィアかラナくらいの歳に見えるこの子は猫の目のような赤目で僕を睨んでいる。

 そりゃあいきなりだったし、動揺してちょっと小さい声になっちゃったけど、キモいはないんじゃないかな。


「き、君はどこの部隊なのかな?」

「…何?配属早々ナンパ?最悪…」

「ち、違うって!挨拶みたいなものだよ!」

「挨拶がわりにナンパとか……やっぱキモい」


 くっ、何言ってもダメそうだ。

 この騎士団には一定数、こういういきなり攻撃的になる人がいるっていうの?

 もういいや、あっち行こう。


 ヴー、ヴー、ヴー。


 おっとメッセージだ。


『ザフィーアです。ラナに借りてます。あのメッセージは誰宛なのでしょうか。ラナ宛なのだとしたら、断固抗議します。あんな、ふ、夫婦の会話のような発言はと、取り消していただきたいと思います。ねぇフィアーもういいでしょー。姉様は黙ってて。もうそんなこと言って、もしかしてフィアちゃん私に嫉妬し』


「ぷっ、何これ」


 あ、しまった。声に出しちゃった。

 ああああ、まださっきの子が居たし、がっつり聞かれてたし!

 猫のような赤く鋭い目を細めて、まるで汚い物を見るかのようにジトッと見られていた。


「あ、あ、これは」


 そう声をかけると彼女はビクッとしてから両手で身体を守るようにしながら、急いでこの場を去ってしまった。

 そんなに身の危険を感じなくてもいいじゃないか。

 僕ってキモいのかな。

 ティルにはナヨナヨしてるからもっとしゃんとして、とかは言われる事は良くあったけど、そう言う所なのかな。

 最近は出会う女子とは良い感じだったような気もするんだけど、そうか、あれは僕の勘違いで実は皆んなに気持ち悪がられてたのかな……。

 そう言えばフィアと最初に出会った頃は結構気持ち悪がられていたような気もする。

 お、落ち込んできた。


「リンくん?えっと大丈夫かしら?さっきの子、凄く怯えてたけど、あの子に何かしたの?」

「うえっ?!アーディさん、あ、じゃなかった、ディッテンベルガーさん」


 いきなり愛称で呼ぶとか、僕のこういう所がダメなんじゃないか!


「アーディでいいわよ」

「あ、でも、家名で呼んでって」

「ああ、あれは団長の立場だからよ。団員は皆んなそう呼んでるからリンくんも是非そう呼んでね」

「あ、は、はい、アーディさん」

「ふふふ。それで、さっきの子は名前はヴァレーリア・アウグステンブルク、7段騎士ね。第2部隊所属なんだけど、13歳にして騎士団に入ってすぐにいくつもの武功を挙げて一気に7段まで駆け上った剣の天才よ。最近では赤目の剣姫って呼ばれてるわ。そんな子があんなに怯えるなんて、いきなり襲ったりとかしたの?」


 そんな凄い子だったんだ。

 そんな子に僕はあれだけキモ悪がられたのかよ。

 なんだかショックだ。


「さっきあの子に気持ち悪がられまして。ただ声を掛けただけなんですけどね。僕ってそんなにキモいですかね」

「え?そんな事ないわよ。かわいいと思うし、団長と戦った時はちょっとカッコ良かったわよ」

「そ、そうですか?お世辞でも嬉しいです」

「お世辞じゃないわよ。それにクランではかわいい女の子にたくさん囲まれてモテモテだったじゃない」


 あれは成り行きでああなっただけで、別にモテているわけじゃないんだよな。

 どっちかと言うと僕の事は家族扱いっぽいし。

 でも、一緒に居てくれるって事は気持ち悪がられては居ないのかな。


「アーディさんは優しいですね。少し自信を取り戻せたような気がします」

「そう?それなら良かったわ……。あ!そうだった!リンくんに伝える事があって来たのよ!すっかり忘れてたわ」


 なんだろう。

 もう帰っていいよ、とか?

 そんな訳ないか。

 早く帰って皆んなに会いたくなってきたよ。


「リンくんはまだ2段冒険士だったから、騎士団には入れないんだけど、団長がね、さっき無理矢理書類を通してリンくんの事を昇段させちゃったの。後で王宮と揉めそうなんだけどね。そう言うわけで今からあなたは5段剣士になります。もう、本当は団長が辞令を出さないといけないんだけど、私が代理で渡します。はい、これが辞令ね」


 そう言って羊皮紙に書かれた辞令を渡された。

 そこには5段剣士になる事とついでに騎士団に正式に入った事も書かれていた。

 こういうのって、ついでで書いてもいいのかな。


「あり、がとう、ございます。……あまりありがたみがないですね」

「そうよね。私も渡していてそう思うわ」


 明日は早いから早く寝るのよ、と言われ自分にあてがわれた部屋に戻ってすぐに横になった。

 横になったらいつの間にか寝ていたみたいだ。

 よっぽど疲れていたみたいだ、主に精神的に。


 翌朝早くにウェーリンガーさんに叩き起こされた。

 そう言えば出発は早朝って言ってたっけ。


 外に出るともう皆んな集まっていた。

 もう出るのかな。

 まだ朝ごはん食べてないんだけど。


「みんな揃ったな。これよりノルド戦線に向かう。かなり戦線はこちらに迫って来ているから、2日もあれば前線基地に着くだろう。すぐに戦場だ!今から気を引き締めて行け!」


 団長さんが皆んなに檄を飛ばしている。

 第1部隊だけじゃなく、他にもたくさんの部隊が一度に戦線に向かうみたいだ。

 僕のいる部隊が第1部隊で、すぐ隣には第2部隊がいる。

 あ、あの子、えっと、赤目の子、なんて言ったっけ。

 確かヴァレーリアなんとかだ。

 あ、目があった。

 ぐふぅ。物凄い嫌な顔をされて、他の人の後ろに隠れてしまった。

 これ、もしかして僕が彼女の事をジッと見てたって思われた?

 ますます、キモがられてないか?

 はぁ、しばらくは第2部隊には近づかないようにしよう。


 団長のいる部隊は特殊で、第零部隊といって、アーディさんもそこの所属だ。

 この部隊は指揮部隊ともいって、騎士団全体の指揮をとって各部隊を動かす役目を持っている。

 実際には戦わないのが前提なので、実質一番戦力が高いのはこの第1部隊になるらしい。

 本当は団長さんがこの中で一番の実力者のようだけど、実行部隊の中ではテオなんとか隊長とかあの赤目のなんとかさんとかあの辺りが実力トップとなるみたいだ。

 なんだか僕は実力者に嫌われやすい運命なのかな?


「第1部隊より出発!続いて第2部隊だ!」


 第1部隊が先頭みたいだな。

 騎士職の人は馬に単騎で乗る人もいるし、馬車で何人か纏めて移動する人もいる。

 僕は馬に乗れないから馬車に乗せてもらうことにする。

 幌が付いているから中は少し薄暗く目が慣れるまでは見づらい。

 僕が馬車に乗り込もうとしていると後ろからグイグイ押されて奥の方に押し込まれた。


「はぁい、リンくんはそこに座ってねぇ。私がその奥に行くからねぇ」

「ああ、ずるいわツィスカ。じゃあ私はこっちに座ろうかしら」


 一番奥にツィスカさん、僕を間に挟んでエデルさんが座る。


「いや、ちょっと、僕反対側で良いですよ。あ、ほらウェーリンガーさんの隣とか」

「ええぇ?リンくん男の人の方がいいのぉ?そういう人だったのぉ?」

「え?そうなの?」

「ち、違いますよ!分かりましたよ、ここで良いですよ」

「んー。なんだか私達に魅力がないみたいで悔しいわね」

「屈辱〜」


 両側からぎゅうぎゅう挟まれてくる。

 こういうのはどう反応したらいいか分からなくなるからとっても困る。

 前に座るウェーリンガーさんからの冷たい視線が痛い。

 その隣にもう一人知らない男性が座った。


「かー!入って早々、イチャイチャしやがってよお!俺なんか誰も相手してくんないんだぞ!くそっ!俺と場所変われ!」


 その知らない人に怒られた?!

 どっちかと言うと羨ましがられた?!

 昨日はいなかったみたいだけど誰なんだ?


「ああ、この人はマルクス・ヴォーヴェライト5段戦術士だよ。昨日まで戦線に行って状況確認をして来てくれていたんだ」

「昨日の深夜に帰ってきたのに、今日また戦線送りだぜぇ。人使いが荒すぎるってんだよ!」

「まあまあ、道中に伝達してもらう事で出来るだけ最新の状況を知る事ができるんだから、ヴォーさんの活躍のお陰ですよ」


 戦術士ってジョブはそう言う仕事もするんだな。

 大変そうだ。


 全員各馬車に乗り込んだら先頭の騎馬から出発する。

 僕の乗る馬車もゆっくりと進み始める。

 御者は皆んな交代でするみたいだけど、僕は馬車の操車なんてした事ないよ。


 一行はマルネの町を出てしばらくは草原の中を進む。

 大きな街道の間は踏み固められているから馬車もあまり揺れずに比較的快適に過ごせていた。

 だけど、すぐに細い道になり路面は荒れてくる。


 馬車が大きく揺れるようになってくると左右のお姉さん方に挟まれてちょっと苦しい。

 いやいや、ウェーリンガーさんもヴォーさんもそんな睨まないでよ。

 こっちだって、ここで「でへへ」とか喜んだら絶対女性陣に引かれるんだから、心を落ち着かせるので精一杯なんだって!

 なんかヴォーさんは歯をギシギシさせて悔しがってるし。

 それを見てツィスカさんも「あぁ揺れたぁ」とか言って抱きつかないでよ!

 絶対わざとヴォーさん達を悔しがらせてるんだよ。

 早く着かないかなぁ。



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