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第十二話 試験官

 翌日はクランとして初クエストを受けていた。


 パイライトタイガーという、これも報奨金が高いターゲットだ。

 この魔物も皮の利用価値が高く、皮から取れる素材を使って薬や畑の肥料、爆薬の材料にもなるなど、用途が多いため高額になる。


 表皮が硬く、鉄の武器では火花が出るだけで全く歯が立たない。

 ところが水には弱く、表皮が湿るだけで脆くなるため、生息地は常に乾いている所に限定される。


 町の南にある、砂漠化し始めている広い荒地に来て、パイライトタイガーを探している。

 砂地に穴を掘って、獲物を狙っている事が多いそうだ。


 いた。砂を被って隠れているけど、後ろから見たら耳とか尻尾が見えている。それでも、獲物の動物たちからしたら、気付かれないものなのだろう。

 ここで、マナ変換のスキルを起動する。

 これで、戦闘している間に、何か経験値が溜まるようなことをすれば、SPに変換されるはずだ。


 フィアが水魔法を使えるというので、気付かれる前に打ち込んでもらう。


「メールの水塊」


 ほとんど砂が水を吸ってしまったけど、まあ、湿らせる事が出来たし良いかな。

 こっちに気付いたパイライトタイガーが襲ってくる。

 僕は短剣を表皮の湿った辺りを狙って突き刺す。

 水分が足りないのか、ガキッと音がして、短剣が皮に少しだけ刺さって止まる。

 このまま、力を入れると、短剣が折れてしまう。


「もう一度、水を!」


 フィアに水魔法を短剣の刺さっている辺りにぶつけてもらう。

 今度は砂が落ちた分、うまく水が体表に当たり、急激に脆くなる。

 ズズッと短剣が刺さり、周りの皮がバラバラっと落ちる。

 深く刺さった所で倒す事が出来たようだ。


 高額で買い取りをしてくれる皮を剥ぎ取り、ストレージに放り込む。

 ストレージはフィアに驚かれたけど、これも持っているスキルだと教えた。

 このスキルが使えないと、大きい素材を持ち帰れなくなってしまうから、教えない訳にはいかない。


「うまく行きそうだね。また、さっきみたいに頼んだよ」

「わたし、役に立てたかしら。昨日は何もしないでいたから、ちょっと不安だったのよ」

「もちろん、助かってるよ」


 ちょっと会話が良い感じになってきた気がする。

 フィアって呼んでも怒られなくなったし、もしかしたら、仲良くなってきている?


「役に立てているならいいの。お金に関係している事は、ちゃんとしないといけないと思うから。特に親しくもない人とは余計にね」


 だよね。分かってたよ。


 その後もパイライトタイガーを見つけては、フィアの水魔法をかけてもらい、短剣を突き刺すという方法で、着実に倒していった。

 今回も昨日以上に報酬がもらえそうだ。



 数日の間、僕たちはクランクエストをこなしてお金を稼ぎ続けていた。

 毎日、ギルドと魔物の住処を往復する日々を過ごす。

 生活費の他にクエストに必要な薬などの消耗品を買ったり、短剣が折れてしまったので買い替えたりと、出費はあるものの、着実に目標の金額に近づいていた。

 早くフィアのお姉さんを助ける為にたくさん稼いでいかないといけないけど、もしお姉さんを救う事ができたら、もうフィアと一緒にクエストできないのかぁ。

 いやいや、それはラナを助け出してから悩めばいいや。


 今日は朝からギルドに来ている。フィアも一緒だ。

 クエストを探しに来たのではなく、段位試験を受けに来たんだ。

 昨日6級に上がったので、すぐにでも初段を取りたかった。


 今はクランとして活動できているのでそこそこの稼ぎにはなっているけど、研究会所属はまだ正式なギルド会員ではない為、本当ならクランは作れないはずだった。

 それをレティがちょこちょこっとしてくれたお陰で、上手いこと作れるようにしてくれていたんだ。

 具体的には、こっそりレティもクランメンバーとして、登録してあったためだ。

 レティはギルド職員だけど、正会員の4段冒険者でもあったみたいだ。知らなかったよ。


 メンバーに段位保持者がいれば、クランは作れる。

 ちなみに、クラン・ロート・ファフニールのリーダーはレティになっていた。まあ、それはそうか。


 クランとして活動はできているので、何とかなっているけど、正会員になっていた方がクランの格も上がるし、そうすれば、報酬も上乗せが多くなってくる。


 その為にも段位をとって、早く目標額まで貯めるのだ。


 昇段試験は王国騎士団から試験官が派遣されてきて行うらしい。昨日の今日で来てくれるのかよ、と思ったけど、任務のシフトの一環に下部組織への支援任務と言うのがあって、その時間が事実上の休暇のような扱いになるようだ。

 逆に言うと、王国騎士団には正式な休暇がない、という事になる。大変そうだなぁ。


 試験官が来たと言うので、ギルドの裏にある、訓練センターに来ていた。

 ギルド会員ならいつでも無料で利用できて、体を鍛える器具や地下には魔法を試射する射撃場や防爆ルームなんていうのも備えている。


 試験はこの施設の中で一番広い、練兵ホールというところで行うらしい。

 フィアと2人で、少し待っているとぞろぞろと人が入ってきた。

 あ、先頭はレティだ。

 あれ?なんだか緊張してる?


 後ろから、軽武装の男の人が2人と白いローブ姿の女性が1人入ってくる。


「では、これより昇段試験を開始します。試験監督はわたくし1等監査官のレティシア・バルシュミーデが務めさせていただきます。試験官は8段騎士カールハインツ・アウエンミュラー騎士団長と6段戦術士ユストゥス・グレーナー様、5段魔法剣士アーデルハイト・ディッテンベルガー様にお願いいたします。受験者は6級冒険士リーンハルト・フォルトナー、試験段位は初段です。皆様よろしくお願いいたします」


 騎士団長?何でそんな人が初段試験なんかの試験官に来ちゃってるの?それに試験官3人とか、そんな大層な試験なの?


「ふむ。君があのフォルトナー君か。本当にまだ子どもだな。アーディ、どうだ、今ここで分かるか?」

「はい。フォルトナーくん、ちょっと手を握らせてね。……確かにあるみたいです。実際にみても、とても信じられませんけど、あの内容と辻褄は合うのかと思います。あと、団長、公の場では家名でお呼びくださいって何度も言ってますのに」


 え。何?

 綺麗なお姉さんに手を握られて、焦っていたらフィアに睨まれた。

 でも、2人の会話からすると、嫌な感じしかしないんですけど。

 僕何かした?しかも、ギルドにはリンで登録してるはずなのに、レティも僕の事を本名で言っちゃってるし、この騎士団長さんも僕の家名を知っていたみたいだし。

 それに、このお姉さんに何かを見られているって感じがする。

 ちょっと怖いんだけど。



「あの、騎士団長様、試験をお願いいたします」

「ああ、すまなかったね。グレーナー、おまえが相手をしてやれ。フォルトナー君、昇段の条件はこのグレーナーを倒す事だ。そうだな、泣いて謝るか、尻尾を巻いて逃げた場合でもいいだろう。軽く相手をして、実力を少しだけ見せてくれれば良い」


「え?逃げてもいいんですか?それだと簡単じゃないですか?」


「いや、君が逃げるのではない。グレーナーを泣かすか逃げ出させるかだよ。ああ、あと殺さないようにな。こいつでもいなくなるのは少し勿体無い」


 ええっ少しなんスか、とかグレーナーさんが抗議している。

 あれぇ、このグレーナーさんて、騎士団のメンバーだよね。

 事務方とかで弱いのかな。

 強そうに見えるんだけどなぁ。


「よろしくっス。グレーナーと言います。あのー。お手柔らかにお願いっスよ。まだ死にたくないんで」


 ああ、あれか。

 初めての昇段試験に緊張しないように、なごましてくれているのか。


「こちらこそよろしくお願いします」


 他の人は離れ行き、僕とグレーナーさんだけになる。

 2人とも両手持ちの木剣を構える。


「いつでもどうぞっス」


 それじゃあお言葉に甘えて、こちらから行かせてもらいます。

 まずは、軽く近づいて上段から木剣を振り下ろす。

 あれ?グレーナーさんは剣を構えたまま動かない。

 打ち込んでこいってことかな。

 さすが騎士団員だ。まあ、子どもの一撃くらいじゃなんともないか。

 よし、やっぱり思いっきりいってみよう。


 振り下ろした瞬間、ガキッと音がして、木剣が止まる。

 途中から見えていたけど、横から団長さんが長剣で僕の斬撃を止めたのだ。

 これってもしかして、グレーナーさんと戦わせると思わせて、団長さんがこうやって僕の斬撃の威力を受けて、実力を見たかったとかかな。

 しまったな。どういう意味なのか分からなかったから、そのまま打ち込んじゃったけど、戸惑った分、威力が落ちちゃったよ。


「全く。殺さぬようにと言っただろう。まあ、この歳で手加減は難しいか。いいだろう。私が相手しよう。アーディ、私に身体強化と物理衝撃低減、速度上昇を掛けてくれ」

「もうこれでいいのでは?わざわざ団長自らが命の危険に晒されなくてもいいと思います」

「構わぬよ。早く掛けてくれ」


 渋々アーディさんが団長さんに支援魔法を掛けまくる。

 えっと、僕には掛けてくれないのかな。

 まずい、もしかして、怒らせちゃった?

 最初に軽くとか思ったのが、バレたとか。

 早く謝らないと。


「よし。流石に負けるわけにはいかんからな。こちらから行かせてもらうぞ。ふんっ!」


 うぎゃあ、怒ってるー!

 いきなり攻めて来た。

 くっ、ギリギリだけど、初撃は躱せた。

 っていうか、団長さんの剣って、刃が付いた真剣ですよね。

 僕、木剣のままなんですけど。


 ここで何を言っても仕方ない。

 僕は下段になっていたから、そこから切り上げる。

 団長さんの胸当てに剣先が掠る。惜しい。

 だがザンッと音がして胸当てがパックリと割れてしまった。

 え、何?壊しちゃった?王国騎士団の装備品を?

 うああ。もう壊れそうだったのかも知れないけど、あれ高価そうに見えるよ。

 何だかどんどんまずい方にいってる気がする。

 今土下座して謝ったら、死なない程度で許してくれないかな。

 団長さんは振り下ろした所から、刃を返して、僕の喉元目掛けて刺突をしてくる。

 あとで幾らでも怒られるから、今死ぬわけにはいかない。

 刺突を逸らすために、振り上げたままの木剣を団長さんの剣に合わせて、刀身目掛けて思いっきり振り下ろす。


 キンッ


 うわわわわっ。本格的にまずい!いや、今までもまずかった。けど、これはもうどうしようもないぞ。

 団長さんのすごく高価そうな長剣を真っ二つに折ってしまった。

 何で木剣で真剣が折れたのかはわからない。

 でも、紋章みたいなのが入っていて装飾も豪華なこの剣を折ってしまった事実は無かったことにはならない。


「す、すみません!胸当てだけじゃなく、剣までも。その、何年掛かるかわかりませんけど、弁償します!」

「ああ、いい。これは予備の物だし安物だ。胸当ても気にするような物でもない。それよりも剣に当ててくれて良かったよ。腕なら切り落とされていただろうしな」

「団長ー。ヒヤヒヤしましたよー。止めに入ることすらできなかったですし!もー。嫌いです!」


 アーディさんが涙目で、団長さんの胸をポカポカ叩いている。


「代わってもらって良かったス…」


 周りを見ると、グレーナーさんが真っ青な顔をして、呆然としている。

 レティは目を見開いたままで固まっていた。

 フィアは何故か呆れた顔で、やれやれね、とか言っている。


 怒られる雰囲気は無さそうで良かったけど、嫌な感じはさっきより増していると思うんだよ。


「ここまでとはな。本気を出せば勝てると踏んだのだが、実力差があり過ぎると、こうまでも見誤る物なのか。フォルトナー君、色々と悪かったね。おめでとう。昇段試験は合格だ。これからも、ギルドの為、王国の為に精進して欲しい」

「あ、ありがとうございました」


 3人とレティはそのまま外に出て行ってしまった。

 合格した、のかな?


「ふぃー。疲れたー。一気に歳をとった気分だよ」

「お疲れ様。やり過ぎ感はあるけど、合格だったのだから、良かったじゃない」


 フィアの労いの言葉に安堵の気持ちと不安も湧き上がる。


「やり過ぎ、だった?手を抜いたと思われたんじゃなくて?」

「あれで、手を抜いていたというのかしら?本気ならどうなっていたのよ」


 最後は割と本気だったよ。

 でも何で、団長さんの武装はあんなに簡単に壊れちゃったんだろう。


「……。もしかして、自覚無し?」


 ん?何の自覚?

 うわ、「面白いから内緒」って言って教えてくれないし。



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