その星花女子学園入学希望者は、天才少女。
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「先生、失礼します」
「はいよ」
返事を聞いて私が扉を押し開くと、星花女子大学教授、六天院ノブ子先生は書斎の机の上でなにか作業をしているようだった。
「先生。入学手続き、済ませてきました」
「そうかい」
相変わらずの仏頂面。私は、先生が笑っているところを見たことがない。
「論文……ですか?」
「ああ。……ったく、どれもこれもぱっとしないねぇ」
どうやら、先生は生徒が提出してきた論文のチェックをしていたらしい。全く老いを感じさせない鋭いその視線が、一字一句をしっかりと追っていた。
「まだまだ突き詰めていかないと、ですかね」
「情熱は伝わるんだよ。けどね、全てが本人の中で完結しちまってんのさ。これじゃあ読み手にはなーんも届きゃしないよ。……で、どうだったんだい」
「あ、はい、無事に受理されました。……でも、珍しいですね。先生が誰かのために動くなんて」
「ふん、余計なことを言うんじゃないよ」
「……それにしても、入学試験を満点でパスするなんて…………」
「あったりめーだ。なんせ、私は天才だからなぁ?」
気配がなくて気がつかなかった。この広い書斎。そのほぼ中心に位置するソファーで寝転んでいたらしいその「少女」はむくりと起き上がり、無邪気なような、それでいて生意気なような笑みをこちらへ向けてきた。
「……おや、いたのかい。小娘には聞かせらんない話をするから、こっから出ていきな」
「あ? ……はっ、まあいい。ちょっくらゲームでもしてくっかな」
「そのまま帰ってくんじゃないよ」
「うっせぇクソババア」
にやけながら私達を一瞥して出ていった、口の悪いその少女。パタンと扉が閉まると、この書斎は今度こそ私と先生の二人だけが支配していた。
「……先生。あの子はいったい、何者なんですか? ……確か、願書には『倉田麻子』と書かれていたような……」
「はぁ……。アンタは覚えていないのかい。あの火事も、そのあと流行った都市伝説も」
「都市伝説……ですか? ……えっ!? まさか、あの『アサコちゃん』ですか!?」
「ようやっと気づいたかい。そんなに鈍感だと、この先アタシの秘書なんか務まんないよ」
「す、すみません先生! ……でも、本当に生きていたなんて、驚きで…………」
「世の中、何が起こるかわかったもんじゃないよ。覚えておきな」
「は、はいっ!」