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06 迷族はアリの巣コロリされる

 迷宮は、一部を除いてアリの巣のような構造をしている。


 人族の領域の地下に無数に伸びた通路は複雑に絡まり、所々で大小の部屋に合流する。


 5階層に拠点を構える迷族もまた、そのうちの大部屋を拠点としていた。


 なにかあった時すぐに逃亡できるように、複数の通路の合流した部屋。

 魔物除けのアイテムを常備し、常に拠点に人を配置することで奪った宝が消失しないようにしている。


 拠点からつながる行き止まりの部屋には簡易な柵を設けて牢屋とし、襲った冒険者を奴隷として売り飛ばしたり、自分たちの欲望を解消するために使用している。


 もちろん、どれだけ環境を整えたとしてもここは迷宮の中だ。

 淀んだ空気が支配する薄暗い空間。

 住めば都というが、住みやすさはお察しである。


「宝箱だと?よくやった!おい、すぐに解錠しろ」


 しかしそんな迷宮の中にあって、迷族の頭は気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 頭は上機嫌だった。


 両脇に二人の女性をはべらせ、部下に指示を飛ばす。

 人族の女性の顔は悔し気に歪み、もう一人の獣人の少女の瞳には生気がなく、全てを諦めたような表情をしている。


 頭の指示を聞いて、心得がある迷族が宝箱の解錠を始める。


「おい、酌をしろ」


「だれが!お断りですわっ…ぐ、ぐぅ…」


「口の減らない女だ。変態貴族様がさぞ喜ぶだろうよ」


 頭は毛だらけの汚れた太腕で、人族の女の髪をつかんで引き寄せる。


 この女といい、ようやく俺にも運が回ってきやがったか。


 ここのところ良いことが続いている。

 宝箱の中身も、きっと素晴らしいものに違いない。

 この貴族の女と宝箱の中身を売り飛ばして、しばらくは遊んで暮らすか。


 貴族の女は高く売れるだろう。

 同じ貴族の変態や、貴族にコンプレックスのある大商人などが嗜虐心を満たすためにこぞって買い求めるからだ。


 見てくれも大事だ。その点こいつはかなりの上玉だ。

 生意気な鼻っ柱をへし折ってやりたいが、そうすると価値が下がるからな。


 高慢な貴族の女を泣かすのはさぞかし気持ちが良いだろうが、金の方が大切だ。

 奴隷の首輪でもあれば話が早いが、あれはそれなりに高価なものだ。


 代わりに欲求不満はすべてもう一匹のケモノ女にぶつけたが、なにせ20人分だ。早々に反応しなくなったからあまり楽しめなかった。


「頭、解錠できました。ですが、開くのはちょっと危なそうですぜ。思ったよりも複雑な構造だったから、ひょっとしたらやばい罠があるかもしれねぇ」


 強力な罠か。下手に開けさせれば手下を失いかねんな。どうしたものか。

 …あぁ、役に立たなくなったおもちゃがあったんだったな。


「よくやった。罠なら心配ない。このケモノ女に開けさせれば良い」


「あぁ、そういえば。使い物にならなくなってましたし、ちょうど良いですな」


「えぇ、もったいねぇ。使うだけなら問題ないのによ」


「じゃあお前が代わりに宝箱を開けるか?」


「いいねぇ、ギャハハハッ」


「くだらないこと言ってるんじゃねぇ。おいケモノ女、お前も早くやれ!」


 頭は獣人の少女を宝箱の方へ蹴り飛ばした。

 くぐもった悲鳴を上げ、宝箱の足元に転がる獣人の少女。


 少女に向けられるのは、罠で無残に死ぬことを期待する好奇の目。

 あるいは便利な道具が壊れることを悲しむだけの視線だ。


 死を待つだけの少女に拒否権などあるわけもない。


 周囲のヤジと好奇の視線を受けながら、少女は震える手で宝箱を開く。



―――瞬間、箱の中で何かが光る。


 同時に空気を切り裂く音。


 迷族たちがそれを刃物だと認識した時には、すでに5人の首が落ちていた。


 長大な薄い刃がまるで鞭のようにしなり、生き物のようにうねる。

 刃の鞭はさらに何人かの迷族の首を落とした後、宝箱に吸い込まれるように消えていった。


「な、なにが起きた…。っが!?」


 一瞬で半数の仲間を失い呆然とする頭。そして、それが彼の最後の言葉となった。


 何かが爆発したような音。空気の震える音。衝撃。


 宝箱から放射状に発射された矢が、残る全ての迷族を射抜く。

 迷族たちの革鎧はもちろん、頭が身に着けていた金属鎧すらも、まるで紙のように突き破る。


 矢は迷族たちの急所を貫通し、迷宮の壁に深く突き刺さる。

 見る者が見れば、それがただの矢ではないことに気づくだろう。


 だが、それを確認できる者は皆死んだ。


 宝箱の中から立ち上る煙が迷宮の中に拡散して消えるころ、その場に生きているのは人族の女性と獣人の少女、そして宝箱だけとなった。


読んでくれてありがとう。

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