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66 白竜の最後と新たな脅威

 クリスタルブレスによって生じた霧が晴れていく。

 圧倒的な冷気に覆われた地面が現れる。


 銀世界。

 白竜は氷に閉ざされた空間を確認し、満足そうに瞳をすぼめ、


 ――そこにいるはずのない者たちがいることに気付く。


 茶と黒の尾を持つ獣人。

 大柄な人族の男。


 氷に覆われた空間の中で、その二人がいる場所だけは冷気が払われていた。

 獣人と人族の手には赤色の石が握られている。


 二人の正面に幾重にも展開されているのは赤色の壁。魔法使いたちの、忌々しい炎の壁だ。


「竜よ、何を驚く。これは戦闘班全員の戦いだ。少々、兵士の力も借りることにはなったがな…。元より一騎打ちではないのだ。卑怯とは言ってくれるなよ?」


「こ、氷漬けになるかと思ったぜ。シオンの嬢ちゃんのおかげで避難が間に合った。立役者を殺させるわけにはいかねぇ。残念だったなぁ」


 獣人と人族が不遜に笑う。


 白竜は人間の言葉がわからない。だが挑発されているということは理解できた。


 矮小な存在が。何度も自分のブレスを防ぐことなど許されない。許さない。

 いいだろう、それならば全てが氷に閉ざされるまで喰らわせてやるだけだ。

 白竜は再びブレスの準備にかかる。


 先ほどまで誰と戦っていたかを忘れて。


 白竜がブレスを吐くために口を開いた瞬間、赤銀の閃光が口内へ飛び込んだ。

 火の援護魔法に守られたシオンだ。

 圧縮された魔力の隙を縫うように白竜の体内へ侵入していく。


 シオンはトシゾウに連れられて属性竜を倒しているため、白竜の急所が喉にあることを知っていた。

 表面は鱗と厚い皮に守られているが、内部からなら。

 敵は度重なる攻撃とブレスの自爆でかなりの傷を負っている。

 シオンは、白竜の急所に一撃入れることができれば勝機があると判断した。


「これで終わりです!」


 祖白竜の短剣を握る両手に力を籠める。

 火の援護魔法により凍傷は癒え、逆に力がみなぎる。


 シオンは【超直観】により導き出した急所へ的確に短剣を突き入れた。



「いやぁ、見事な一撃じゃった。まさか白竜の口内に飛び込むとは、恐れ入ったわい」


「あ、ありがとうございます。魔法のおかげで最後まで戦うことができました。助けてもらわなければブレスも避けられなかったし、白竜の口の中で凍ってしまっていたと思います」


「相手が白竜だったのは幸いじゃったの。火の援護魔法を使うのに、これ以上適した相手はおるまいよ」


「コウエンさん、ドルフさんも。火の魔石で守ってくれてありがとうございました」


「ギルドメンバーとして、戦友として互いに助け合うのは当たり前のことだ」


「おう!嬢ちゃんよくやったな!嬢ちゃんが戦ってくれなければ俺たちはお陀仏だったからな。助けられたのはこっちだぜ。俺の代わりに軍団長やらねぇか?」


「え、と、遠慮しておきます」


「冗談だよ、冗談」


 笑い声が聞こえる。周囲からは割れんばかりの大歓声。


 シオンたちが互いの健闘をたたえ合っている。実に良い光景だ。

 昔40層に訪れた冒険者たちも、竜を倒した時は全員で喜んでいたものだ。


 その後に宝箱を発見したばかりに手ぶらで帰ることにはなったが。…良い思い出になったことだろう。


「…あ、ご主人様!第2波を乗り切りました。ご主人様のおかげです」


 シオンが俺に気付き、駆け寄ってくる。

 援護魔法の効果か、いつにもまして速度が速い。


「うむ、よくやったなシオン。シオンは俺の予想以上に強くなっている」


 シオンにエリクサーを手渡しながら、頭を撫でる。


「はい!ありがとうございます…えへへ」


 褒められて喜ぶシオン。撫でる動きに合わせて頭を動かしてくる。あざとかわいい。かわいいが、言うべきことは言っておく必要がある。


「シオン、俺は所有物を甘やかすつもりはない。シオンが強くなり、その価値を高めるためには、修羅場を潜る必要があった。今回の白竜撃破は、とても素晴らしいことだ。だが…」


「は、はい…」


 シオンが首を傾げる。はち切れんばかりに振り回されていた尻尾の動きが緩やかになる。

 褒められつつも、俺の言葉に含まれた不穏な空気を感じたのだろう。


「だが、最後に油断したな。本来なら、シオンは死んでいる」


 俺は懐から新たに用意した不死鳥の尾羽を取り出す。


「え…」


 シオンは俺が不死鳥の尾羽を手渡された意味に気付き、慌てて自分の懐に手を入れる。

 出てきたのは、燃え尽きた炭のように灰色に変色した不死鳥の尾羽だ。

 シオンはそれに気付き、顔を青くする。


「そんな、いつ…」


「白竜の体内で急所を突いた時だ。白竜が絶命し煙になるまで、シオンは白竜の返り血を浴びた。火の援護魔法があっても過剰な冷気だ。シオンは白竜を倒すことを考えるあまり、自分の命を蔑ろにしたんだ」


 不死鳥の尾羽の力を使うつもりだったのならまた話は違ったが、シオンは自分が一度致命傷を負ったことにすら気づいていなかった。


「急所を刺した後すぐに離脱していれば、致命傷は避けられただろう。次からは最後まで気を抜くな」


「はい、ご主人様…」


 しょんぼりと肩を落とすシオン。しょげかわいい。


「…よくやったというのは本当だ。シオンは役に立っている。このまま励め」


「は、はい!ありがとうございます。…あ、白竜の素材を回収してきますね」


 シオンが駆けて行く。


 尻尾の動きを見るに、反省しつつもある程度元気を取り戻させることに成功したようだ。


 人間は弱い。だがきっかけを掴めば成長し、時に予想を超えて強くなる。

 シオンはこれからも強くなっていくだろう。磨き甲斐がある。


「ドルフ、ダストン。シオンを助けてくれて感謝する」


「お安い御用ですじゃ。結果的に、人族が滅びかねない事態を解決してもらったのですから。むしろお礼を言わせてもらうのは我々の方です」


「まったくだぜ。何度死を覚悟したことか。まぁこれで第2波は乗り切ったんだ。あとは内壁の上から雑魚魔物へ物を投げつけりゃ終わりよ。ようやく安心して酒が飲めそうだぜ」


「うむ、そのことなのだが。これから60階層相当の魔物が出現する。さっさと逃げろ」


「………。…は?」


 まるで大団円を迎えましたとばかりにはしゃいでいた二人の顔が同時に固まる。


 こいつら仲良しだなーとトシゾウは思った。


「その、何でもないことのように、何かとんでもないことが聞こえたような。ワシも歳ですかの…?もう一度お願いしますじゃ」


「聞こえなかったのか?第3波はない。その代わり、60階層相当の魔物が出るらしい。なんだったか、お前たちのいう知恵ある魔物たちが情報元だ。間違いない情報だ」


「…本当に申し訳ないがもう一度…」


「却下だ」


「…避難を。全人族をラ・メイズから、いやしかし、メインゲートを捨てては、遠からず人族は…」


 ぶつぶつと思考の海に沈むダストン。白竜ですら今の人族の許容範囲を超えているのだ、無理はないか。


「ははは。それこそ伝説の勇者サイトゥーンでも連れてこなけりゃどうしようもねぇな。…しかし、トシゾウの旦那の口ぶりだと、どうやら任せても良さそうですな?」


 どうやらドルフの方が咄嗟の判断ができるようだ。

 文武の長としての立場の違いによるものかもしれない。

 ちなみにサイトゥーンを連れてきても、4本目の刀が犠牲になるだけだと思うぞ。


「うむ、問題ない。俺が片付ける。邪魔だから下がっていろ。…だが、そうだな…」


 今回のスタンピードは、冒険者ギルドの強化と、その存在を広く認めさせることが目的だった。


 ギルドメンバーの活躍により、その目的はすでに達成されていると言っても良い。

 多くの者が俺達の活躍を目にしていたのだ。冒険者ギルドの存在が広まるのは時間の問題だろう。


 今回の件で冒険者ギルドと、ギルドに所属する獣人を含むギルドメンバーの価値を示すことができた。

 だが可能なら、今のうちに公的に冒険者ギルドの存在を認めさせるのも良いかもしれない。


 俺はちょうど良い機会なので、半分以上イエスマンと化した人族首脳部にいくつかの要求をしておく。


 60層魔物の討伐は俺の目的にも沿うので対価を要求するつもりはなかったのだが、恩を売れるなら売っておいても損はない。これはあくまでも“お願い”である。


 いくつかの条件を彼らは快諾してくれた。



 ダストンとドルフの指揮により、人族は冒険者区画から避難していった。


 これで心置きなく蒐集ができる。

 久しぶりの大物だ。


 思わず口元が緩む。


 宝の質を高めるために行動することは、それはそれで良いものだった。

 だが、やはり価値ある宝を闘争でもって手に入れることをこそ、俺は求めている。


 そう。まだスタンピードは終わっていない。

 白竜はあくまで前哨戦。


 これから、


 楽しい楽しい蒐集の時間が始まるのだ。


読んでくれてありがとう。

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