41 宝箱はスラムで女性を助ける
冒険者区画の中にはスラムが存在する。
華やかなメインゲート付近からも、貴族外にほど近い内壁の城門からも離れた場所。
ラ・メイズの冒険者区画の片隅にひっそりと隠れるように存在するスラムは、日中だというのに薄暗く、どこか妖しげな雰囲気を放つ。
テントが立ち並んでいるのは他の冒険者区画と同じだが、継ぎはぎだらけのボロ布が使われていたり、逆に極彩色な布で彩られたカラフルなテントが目を引いた。
何に使うのかわからない骨細工、奇抜な色のポーション類。
屋台に陳列された商品は他と異なる怪しげなものも多く、スラムの異質さを際立てている。
一度も洗ったことがないような、擦り切れたボロ布を纏って座り込んでいる者たちがいるかと思えば、艶やかな衣装に身を包んだ女性たちが道行く男たちを手招きし、男たちを極彩色のテントの中へ連れ込んでいく。
通りを歩く者たちもまた多様だ。集団で歩く冒険者、護衛を連れた裕福そうな男、怪しげな商人。みな口数少なく足早に歩いていく。
棒きれを振り回しながら裸足の子供たちが走りまわっているかと思えば、同じ年恰好の子供たちが何やら重そうな荷物を運んでいる。その首には奴隷の首輪が嵌っている。
トシゾウはきょろきょろと周囲を見回しながら歩く。
スラムは思ったよりも広いようだ。目当ての場所を見つけるには骨が折れるかもしれない。
【迷宮主の紫水晶】は生物の名前しか検索できないし、【蒐集ノ神】では、人や宝の価値と所在は分かっても、それが売りものかどうか判断ができない。
「キャァァァ!」
さてどうするかと考えていた時、狭い道の奥から女性の叫び声が聞こえてきた。どうやら複数の男に襲われているらしい。
ちょうどいい。女の方を助けて恩を売れば、必要な情報を親切に提供してくれるだろう。
男の方は身ぐるみを剥いでも問題あるまい。
真っ当に消費生産をする者から理由もなく奪うだけの者は迷族と同じ害虫だ。
複雑な事情があった場合は…。俺は必要な情報と宝を手に入れるだけ。それ以上は知ったことではないな。
叫び声の聞こえた場所へ跳ぶ。
今回は襲われている女から情報を蒐集する必要がある。
人間の姿のままで戦うことが望ましいだろう。問答になるのも面倒なので、人族の力の範囲内で戦うか。
俺の正体はオーバード・ボックス。宝箱型の魔物だ。
今はスキル【擬態ノ神】で人族の姿に擬態している。
【擬態ノ神】は、擬態対象に限りなく近い状態で擬態できる。
人族特有の火魔法を扱えるし、剣と盾を振り回すこともできる。その反面、動けば疲れ腹が減るし、宝箱の身体に比べて脆弱な肉の器となる。
外見やスキルは種族の枠内での調整が可能だ。既存のスキルの発現とレベルは擬態対象と自らの格の差内で任意に調整ができる。
基本的に格下の存在へ擬態するほど無茶が利く。
人族の姿で普通に戦うのは、迷宮を出てから初めてだったか。
宿でボロ雑巾の従者を倒した時は【無限工房ノ主】を使用したからな。
本来の姿と比べれば、両手両足を縛られた状態で戦うようなものだが、まぁ、問題ないだろう。
今の人族は弱い。昔も弱かったが、今はそれに輪をかけて弱い。俺との差は大きく開いた。もはや戦う前に情報収集をする必要がないくらいには。
俺は空高く跳び上がり、女性を囲む男の一人を踏み潰しながら着地した。
トシゾウ
年 齢:20()
種 族:人
レベル:50()
スキル:【火魔法ノ神】【武技ノ神】(【擬態ノ神】【蒐集ノ神】【無限工房ノ主】)
装 備:オークの鎧 オークの靴 鉄の短剣 不死鳥の尾羽
「な、なんだおめぇは!?」
空から降ってきたトシゾウに驚く男たち。人数は4人か。一人踏み潰したから残り3人。
粗末な装備、低いレベル。見た目こそケンカ慣れしていそうだが、見かけ倒しも良いところだ。
襲われていたのは若い女、おそらく娼婦だろう。
男たちの手によるものか、和服をアレンジしたような服が破れてはだけている。今の俺には目の毒だ。
「この女をおか…、この女に道を聞きに来た。お前らは持ち物全て置いてどこかへ消えろ」
一瞬人族の本能が反応しかけたが、男の言葉に我に返る。やはり溜まっているらしい。
「ヒーロー気取りか兄ちゃん?雑魚が良いところを見せようとすると痛い目をみることになるぜ。俺たちはボルネオファミリーの者だ。殺されたくなかったら引っ込んでろ!」
男の一人が拳を振り上げる。空から降ってきた男へためらいなく殴りかかるとは、度胸だけは大したものだ。
俺は迫る男の額へ手を当て、右手の人差し指を弾く。
頭蓋骨にヒビが入る鈍い音が響き、男は無抵抗で地面に崩れ落ちた。首は折れていないだろう。おそらく。
「お、おいもういい、ずらかるぞ!」
残った男たちが仲間を見捨てて逃げていく。もちろん身ぐるみ剥ぐまでは逃さない。男たちのゆく手を遮るように範囲を指定し、火魔法を発動する。
「ぐわっ、熱い!?」
「火壁だと!?ばかな…、この規模、詠唱なしでこんなものを…」
「持ち物をすべて置いていけ。あと倒れているやつらは邪魔だから連れていけ」
「わ、わかった…。あんたに従う」
身に着けているものを地面に置いていく男たち。倒れている男の分も取り外させる。
「…あんた、名前は?」
「トシゾウだ」
「トシゾウ、覚えたぞ。簡単に名乗るとは、どうやら腕に自信のある魔法使いのようだが、所詮は一人。俺たちは組織だ。ボルネオファミリーを敵に回してタダで済むと思うなよ」
「わかった。ボルネオファミリーだな、俺も覚えておこう。いいから早く作業を続けろ」
「これで全部だ。武器も金もすべて置いた」
「服を着ているだろう?早く脱げ」
「なっ…」
俺は蒐集が趣味だが、男たちの持ち物に価値のあるものはない。
特に恨みはないから服くらいは許してやろうと思っていたが、態度が気に食わないので服ももらっておくことにした。
昼のスラムを4人の男が全裸で駆けていく。
これ以上身ぐるみ剥がされないから安心だな。
トシゾウは前にどこかで見た光景だなーと思った。
無限工房から適当なローブを取り出し、女性に放る。
女性はぽかんとしていたが、自分が半裸であることに気付き、受け取ったローブを身に着けた。
「助けて頂きありがとうございました。トシゾウ様、とおっしゃるのですね。しかし名を名乗るなど、大丈夫だったのですか。ボルネオファミリーは恐ろしい組織として有名です」
「名乗っておけば、宝が向こうからやってくるかもしれないからな。問題ない」
「問題ない、のでしょうか。おっしゃる意味はわかりませんが…。でもトシゾウ様が問題ないとおっしゃるのなら、なぜか大丈夫な気がするから不思議ですね」
女性が笑う。上目遣いが色っぽい。仕草がいちいち色っぽく、本能に訴えかけてくる。
「それよりも聞きたいことがある。一番の娼館と一番の奴隷商を教えてくれ」
俺の質問に女性はきょとんとしている。
「うふふ、本当に不思議な人ですね。娼館ならとびっきりの場所を知っているのでご案内しますね。奴隷商は、私の主であるクラリッサ様ならご存知だと思います」
クラリッサ。どこかで聞いたことがある名前だ。どこだったか。
「あ、まだ名前を名乗っておりませんでしたね。私の名はアイシャと申します」
うむ、アイシャ。それでは案内を頼む。
アイシャはトシゾウへ柔らかく微笑んだ。
読んでくれてありがとう。
感想、ご指摘など、なんでも大歓迎です。
良かったら評価していってね。




