34 レインオブエリクシール
戦闘は俺達の勝利で終わった。
「それでは、アズレイ王子の私財を運び込ませましょう。ワシは王とアズレイ王子を交えて少々話すべきことがあるので、先にドルフとの用事を済ませてもらえますかの?」
「うむ。後で行く。宝物庫も開けておけ」
ダストンがボロ雑巾を部下に運ばせながら去っていく。ボロ雑巾の名前は何だったか…。
今回は俺の所有物を奪おうとしたボロ雑巾から宝を奪い尽くすのが目的だった。
着々と積み上げられる硬貨や宝飾品を見上げる。目的は達成された。
面倒な人族のゴタゴタは人族に任せるに限る。後から報告をもらえればそれで良い。
「ドルフだったか?手はず通りに頼む」
「わかった。おいビクター、手はず通りに装備とケガ人を集めてくれ」
「もうやってますよ。ったく、上司の仕事をそのまま部下に丸投げするとは、さすがドルフ軍団長ですぜ」
「うるせぇ、部下に丸投げするのが軍団長の仕事だ。手早くやらんと降格させっぞ」
ドルフ軍団長と側近のビクターが軽い調子でやり取りする。
しばらくして、トシゾウ達の前に二つの山が築かれる。
一つは破損した武具の山。もう一つはシオンに倒された兵士たちの山だ。
無傷だった兵士たちもその様子を何事かと見守っている。
俺は【無限工房ノ主】を発動し、積まれた装備を一つ残らず無限工房に収納する。
自分たちの武具が一瞬で消滅する様子を見ていたドルフや兵士たちが目を丸くする。
ドドドドド…。
次の瞬間、破損した武具が新品同様で出現し、兵士たちは目を丸くしたまま口をあんぐりと開けた。
これくらいの量なら収納も修繕も一瞬だ。
なぜかシオンが兵士たちを生暖かい目で見て頷いているのが気になるが、大した問題ではない。
続いて懐から青色に輝くプリズムを取り出す。
プリズムに入った液体が揺れるたび、三角錐の面から漏れ出る色が変化する。
天色、白藍、紅碧、花紺青…。
俺は青の七色に輝くプリズムを、死屍累々の兵士たちの真上に放り投げた。
目を見開き、口をぽかんと開け、視線をプリズムに合わせて動かす兵士たち。何人かの兵士は反射的にプリズムへ手を伸ばしている。
なんかこいつらゾンビみたいだなとトシゾウは思った。
プリズムが空中ではじけ、青の七色が空中で拡散し降り注ぐ。
このアイテムの名は【レイン・オブ・エリクシール】。安直な名前だ。
一部の重傷者が火を浴びたゾンビのごとく熱い熱いと連呼しているが、それは部位欠損が修復する時の熱だ。
シオンには首以外なら切り飛ばしても良いと伝えておいたので、それなりに重傷者も出ている。
火の援護魔法で傷口は塞げるが、欠損は治せないからな。
兵士たちは全快した。エリクサーはアンデッドなら浄化してしまうので、ゾンビはいなかったらしい。良いことだ。
なおアズレイ王子とその私兵は含まれない。
装備はすべて没収。当人たちも修理保証外である。一応、五体満足のはずだ。
「うぅっ、腕がなくなり、もうだめかと…」
「骨が、完全に折れていたのに…」
「武具どころか、傷まで…。奇跡だ…」
「総員傾注!」
兵士の傷が癒え、全員が落ち着いてきたところでドルフが声を上げる。
ドルフに兵士たちの注目が集まる。
「そこにいる両名は敵ではない。むしろ恩人だ。先ほど調査とアズレイ王子の自白により、此度の件はアズレイ王子が他者の財を不当に奪おうとしたことに端を発することが明らかとなった」
ドルフの説明に驚く兵士たち。
「兵の動員もアズレイ王子の独断であり、追って王から裁可が下るだろう。我らは知らなかったとはいえ無辜の民を害するところであった。それにも関わらず、両名は我らを許し、さらには傷の治療をも行ってくれた」
ドルフが軍団長らしい口調で話す。
ダストンじじいと同じく、ドルフも多少の腹芸ができるらしい。さらには兵士に話を信じさせるカリスマもある。
いかにも胡散臭い話だと思うが、兵士が俺たちを見る目が先ほどと明らかに変化している。
敵意と憎しみの視線が、傷を癒したことで畏怖に。
畏怖の視線が、ドルフの話を聞いて尊敬と感謝に。
実に茶番だ。
ボロ雑巾はボロ雑巾なので口を開けないし、調査をいつしたのかも不明である。
まぁここまでが契約の内容だ。
殺す気で攻撃させる分、全快まで癒すことを約束したのだから仕方ない。
俺は敬礼をする兵士たちに向けて鷹揚に手を挙げたのだった。
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