12 宝箱と余裕のない世界
「友達の拾い屋が、何人か行方不明になっていました」
シオンが悲しそうにつぶやく。
戻ってきたシオンから聞いた話だが、拾い屋の生活は楽ではないらしい。
それが獣人であればなおさらだ。
自分で魔物を倒すことのできない彼らの立場は弱い。
分け前は最低限、時には迷宮で囮にされたり、理不尽な扱いを受けるらしい。
迷宮への入り口は人族が支配、管理している。
人族は他種族、特に獣人族と仲が悪い。
多くの人族は多かれ少なかれ獣人族へ差別的な目を向ける。
荒野に住む野蛮人だと思っているのだ。
さらに迷宮に他種族が入る際に【奴隷紋:レベル制限】を施すことを義務付けている。
他種族が迷宮で力を付けることを防ぐためだ。
人族は火の魔法を使え、創意工夫に優れるが、身体能力は他種族に比べて劣っている。
レベルを効率よく上げることのできる迷宮がないと、この世の中において真っ先に滅びることは間違いない。
他種族と少ないながらも交易を行っている以上、他種族を完全に排斥することはできないが、迷宮の利用には制限を設けているらしい。
ラ・メイズが、多くの人族が獣人を歓迎していないのは明らかだ。
それでもラ・メイズに訪れる獣人は多い。
訪れるというよりは、ここでしか生きられないから避難してきたというべきか。
この世界には邪神というものがいるらしい。
地の底に眠る邪神の力は強く、その影響で世界には瘴気が満ちている。
その瘴気の影響で、世界は荒れ果てているらしい。
例外は迷宮の上に広がる人族の領域と、聖なる炎に守られているというドワーフの国、同じく聖なる風に守られているというエルフの国、そして世界の外縁に広がる海に棲む海人の領域だけだ。
通常の生物が居住可能な場所は世界全体の5%にも満たない。
それ以外は荒れ果てた荒野が広がり、獣人はその荒野で魔物を狩って細々と暮らしているという。
シオンは獣人の白狼種だが、孤児の少女だ。
荒野の広がる獣人の世界では生き残ることができない。
同じように、ラ・メイズで生活する獣人は、多かれ少なかれラ・メイズで生活せざるを得ない事情を持っている。
獣人にとって生きにくい場所ではあるが、他に選択肢がないのだ。
それでも、ラ・メイズの最下層に位置する者たちから見れば恵まれたほうらしい。
少なくとも自分の食い扶持を自分で稼ぐことができるのだから。
悲惨なのは、冒険はおろか、普通に働くこともできない者たちだ。
迷宮で治せぬ傷を負った者の末路は暗い。
欠損や半身不随などになった場合は、冒険どころか働くこともできない。
家族に頼れる者ばかりではない。
迷宮で一旗揚げようとやってきた若者が、身の丈に合わぬ深層で大けがを負ってスラムの住人に。
良くある話だ。
ラ・メイズの冬はそれなりに長い。
多くの浮浪者が冬を越すことなく死ぬのだという。
「…もったいないな」
ふと、正直な感想がトシゾウの口から洩れた。
日本で生きた前世を持つトシゾウからすると、この世界は少し厳しいようにも思う。
なんというか、この世界には余裕がない。
皆が生きることに必死で遊びがない。
トシゾウが前世で生きた日本という場所は、この世界よりはいくらか余裕があったように思う。
もう少し余裕があっても良いのではないか。
どんな生まれ、環境でも、本人の能力とやる気しだいで成り上がれるようなシステムがあっても良いのではないだろうか。
一度の冒険に失敗しても、二度目の冒険に挑めるようにすることはできないのだろうか。
人族の義務付けたレベル制限。
恵まれた才能があるのに、獣人というだけで拾い屋から抜け出すことができない者たち。
たとえ人族であっても、一度傷を負っただけで働けなくなり、物乞いにならざるを得ない者たち。
トシゾウには、それらが無駄に資源を浪費しているように感じた。
こういった問題を解決すれば、世界が発展して、宝が世に溢れるようになるのではないだろうか。
「もったいない、ですか?」
シオンはコテリと首を傾げた。
「あぁ、いや、こちらの話だ。…ん、何か良い匂いがするな」
風に乗って良い香りが漂ってきた。近くの屋台で肉を焼いているらしい。
きゅるるる。
トシゾウとシオンの腹が同時に音を立てる。
「いつまでもメインゲート前にいても仕方ないな。腹が減ったな。とりあえず腹ごしらえをしようか」
二人はメインゲートを離れ、ラ・メイズの冒険者区画へ向かった。
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