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113 不撓不屈 コレット・レインベルは始末をつける

前回:コレットは毒を受けるも、ゼベルに一撃を叩きこんだ

「ぐうぅ…!」


 ゼベルの左腕が宙に舞い、鮮血が青龍のレイピアを伝う。


 ゼベルは体が開いた瞬間に左手を突き出し、レイピアの威力を弱めたようだ。服の防御力も合わさり致命傷には至っていない。


「馬鹿な、まだそれほど動けるとは。…だが今ので仕留めそこなったのは致命的だな。この上はもう一度毒を叩きこむまでだ!」


 左腕を失ってなお戦意を保つゼベル。

 その気概はたいしたものだ。しかしすでに勝負は決まっている。


「いえ、これで終わりですわ」


 コレットが青龍のレイピアに魔力を込める。


 ピキッ…


 青龍のレイピアとゼベルの傷口が青白く発光する。

 傷口から生じた氷がゼベルの全身を覆っていく。


 ビキッ、ビキビキビキ


「こ、これは、まさか傷口から体温、を…。この私が、こんな、ところで……」


 それがゼベルの最後の言葉となるだろう。

 大きな野望を抱く者でも、最後はあっけないものだ。

 コレットは今さら手心を加えたりはしない。死の氷がゼベルの全身に広がる。

 ゼベル・シビルフィズは物言わぬ氷の像と化した。


 青龍のレイピアによる属性攻撃。

 相応の武器と、敵とのレベル差があって初めて可能となる芸当だ。


 ゼベルの予想を超えてコレットが動けたことには理由がある。

 毒の浸食は気合いや根性といった力だけでどうこうできるものではない。


 それはスキルの力。


 養殖とはいえそれなりの高レベル。

 追い詰められた環境に加え、さらに特殊区画やゼベル戦での濃い経験。


 経験上そろそろだとは思っていたが…。

 まさかゼベルの毒攻撃がスキル発現の引き金となり、さらにそれが勝敗を覆すとは。

 コレットは本当に主人公のようなやつだ。



 コレット・レインベル

 年 齢:17

 種 族:人

 レベル:38

 スキル:【不撓不屈】

 装 備:青竜のレイピア 青龍の小盾 青竜の鎧 白王狼の靴 不死鳥の尾羽


 【不撓不屈】

 状態異常に対する抵抗力の上昇。因縁のある敵と戦う際の能力上昇。努力に対する能力値の上昇に補正、戦闘が長引くほど能力が強化される。


 コレットに発現した【不撓不屈】はシオンの持つ【超感覚】なみに珍しく、強力なスキルだ。

 発現するスキルは本人の資質や思想、経験に影響を受ける。

 理不尽に屈することなく抗い続けた、実にコレットらしいスキルだと言える。


 決闘はコレットの勝利で終わった。

 周囲にいたゼベルの部下たちが逃げ去り、ここにいるのは俺たちだけになった。


 カラン


 青龍のレイピアが地面に落ちる。


「はぁ、はぁ…。私の、勝ちですわ。父上、母上、みんな、私はこれで…。でも、もう昔のようには…」


「コレット!コレットかっこいいです!すごかったです!でも傷が!エリクサーを!」


「シ、シオン!?待って、今はまだ…いっいたたたた!傷がしみっ、痛いですわー!」


 肩で息をしているコレットに飛びかかるシオン。

 二人がダンゴになって転がっていく。


 残像が…。高レベルでなければ死ぬんじゃないだろうか。

 シオンはよほど心配していたようだ。


 余韻も何もないな。

 俺が言うのもなんだが、もう少し空気を読んでやれと思う。


 とはいえ、仇を討った余韻に一人で浸るのは良いことばかりではない。

 何事も深く考えこんでしまうきらいのあるコレットならなおさらだ。

 コレットは繊細な所がある。シオンという素直な親友の存在は、彼女の無二の財産だろう。


「コレット殿の決闘、しかと見届けました。ゼベルは強かった。ただレベルが高いというだけでは勝利できない相手でした」


「うむ、コウエンの言う通りだ。よくやったな。コレットは役に立つ」


「はい、ありがとうございます。…トシゾウ様、このたびは…」


 コレットが言葉を詰まらせる。


「…その言葉は後で改めて聞こう。短い間に色々なことがあった。人間がそれほど器用でないことは知っている。今は気持ちの整理をつけろ」


「…はい、感謝、いたしますわ」


「コレット…?」


 コレットがシオンに抱きつき、肩を震わせる。かすかな嗚咽。瞳からこぼれた水がシオンの胸元を湿らせる。


「ごめんなさいシオン、しばらくこのままでいさせて」


「うん、コレット。今は私がお姉ちゃんです」


「ふふ、小さなお姉さんね…」


 かがみこんだコレットは、シオンに抱かれながら微かに微笑んだ。


 シオンは賢く、感情の機微に敏感だ。

 だが今のコレットの葛藤を理解することはできないだろう。

 それでもシオンは優しくコレットを抱きしめることで彼女の支えとなっている。


 かくいう俺もコレットの心境を理解できているわけではない。

 ただ、俺は俺の所有物を万全に管理することは得意だ。

 その点から言えば、コレットの心配は不要だと確信している。


 涙を流すコレットもまた美しい。その涙は明日へ進み、成長していくための涙だ。

 コレットという宝は今回の経験を経て研磨され、さらに輝きを増していくのだろう。



 ひとまずの区切りはついた。俺は今回の結果に満足している。


 ゼベルは死んだ。

 魔法契約により必要な情報を提供した後、葬られることになるだろう。

 ゼベルは優秀であり殺すのが惜しいと思っていたが…。

 まぁゼベルの命はコレットの価値を上げる研磨剤となった。ただ死ぬよりは有益な死だったと言えるだろう。


 ここからは戦後処理か。

 やるべきことは多い。さらにいくつか考えていることもあるが…、


「閣下、これからどうなさいますか」


「うむ、とりあえず宰相のダストンを連れてくればなんとかなるだろう」


「御意」


 ひとまず実務の大部分をダストンに丸投げすることにした。

 人族のごたごたは人族に押し付けるに限るのだ。


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