111 コレットVSゼベル 全てを賭けた決闘
前回:勝てば官軍負ければ賊軍
いつでも介入できるように観戦に集中するとしよう。
俺の正面には向かい合う二人。
コレットは右手で青龍のレイピアを握り、左腕には新たに無限工房から取り出した小型の盾を装備している。レイピアは突きも斬撃も可能な汎用の片手剣だ。
盾をゼベルに対して正面に構え、レイピアは半身になった体の後ろに隠す。
カウンターの構えか。
対するゼベルの装備は黒く光るエストック。
敵の弱点を貫くことに特化した突剣だ。
素材は黒曜鳥か。さすがは大貴族、青龍の武器と同格の宝だ。
鍛冶師の腕が確かならば、追加効果もあるだろう。
身に纏う服もただの服ではないな。
右手に持ったエストックの切っ先が、常にコレットの心臓へ向いている。
左手は腰に固定され微動だにしない。
一見すると、突きに全てをかけているように見えるが…。
双方ともしっかりと腰を落とし、奇策に走る気はないらしい。
二人の表情は対照的だ。
ゼベルは自信に満ち満ちた獰猛な笑みを浮かべ、コレットは神に祈る敬虔な修道女のような表情をしている。
「どうした。ずいぶん神妙な顔をするではないか。神にでも祈っているのかね。安心しろ、殺しはしないとも。私がすべてを引き継いでやろう。魔法契約に縛られた操り人形としてせいぜい働くが良い」
不敵に笑うゼベル。口は動かしつつも、その眼は油断なくコレットを見据えている。
すでに勝負は始まっている。コレットの隙を探っているのだろう。
「あなたを倒した後はまた忙しくなりますわ。今のうちに、あなたのくだらない欲のために亡くなった方たちに報告をしていましたの。…今から仇をそちらに送ると」
「ふん、ずいぶんと余裕があるようだが。亡者に会いに行くのは――貴様だ!」
ゼベルが仕掛ける。初手から全力の突きだ。
ヒュッ…ギャリィ!
ゼベルの繰り出したエストックの切っ先がコレットの盾の上を滑っていく。
武器が摩擦ですさまじい音をたてるも、双方の武器に破損はない。
「防ぐか。やはり貴様もレベルを偽っていたか。…だが!」
突きを受け流されたゼベルに動揺はない。突きで身体が伸びきる直前に、まるでバネが縮むように元の体勢へ復帰する。ゼベルが直前までいた場所を、コレットのレイピアが薙いでいく。カウンターの一閃が空を切り、コレットに僅かな硬直が生まれる。余裕をもってカウンターを回避したゼベルはその隙を見逃さない。
「シッ!」
先ほどと寸分違わぬ速度で突きを繰り出すゼベル。
体の軸が一切ブレない様子から、ゼベルの技術が非常に高い水準にあることが伺える。
レベルの養殖だけではこの動きはできない。
「くっ…!」
盾は突きを受け流したばかりで構えが間に合わない。コレットはカウンターを振るった勢いのままに強引に身体をねじる。心臓を目掛けて放たれた突きは青龍の鎧の上を滑りつつ、鎧の隙間から肩を浅く切り裂いた。コレットの肩が赤く滲む。
「こちらの初動にまったく気づいていないか。にも関わらず二度も防ぐとは。動きを見るに、対人経験が豊富とは思えん。ならば、純粋にこの私よりも高レベルということか」
「…ご名答ですわ。予備動作がほとんどなく、見てから回避するしかないとは。それだけの研鑽を積みながら、なぜあれほど卑劣な真似をするのか理解に苦しみますわね」
「ふん、目的のために利用できるものは全て利用し、努力は惜しまない。当然のことだ。ブタ貴族どもには理解できないだろうが、貴様なら理解できるだろう」
「たとえ理解できたとしても、それを実行するかどうかは別ですわ。あなたは自分の目的のためだけに私の大切な人を多く奪っていきました。断じて許せることではありません!」
青龍のレイピアが青く発光する。
コレットが魔力を籠めたのだ。レイピアの振りに合わせて氷の礫が精製されゼベルに迫る。
「なっ!?」
驚愕しつつも突きで氷の礫を迎撃してゆくゼベル。ほぼすべての礫を防ぎ切ったが、いくつかの礫がゼベルの服に着弾した。
ピキピキピキ…
ゼベルの服が凍り付いていく。礫はただの物理攻撃ではない。
衝撃を与えると同時に、周囲の熱を一気に奪うことができるのだ。
「ぐ…。まさかそんな芸当まで可能だとはな。どれだけのレベルを手にしている。人族でこの規模の氷属性の発動など、勇者でも不可能だ。…知恵ある魔物の力か。だが、この服は特別性だ」
ゼベルが魔力を通すと、服に広がった氷が火に炙られたように水となって蒸発していった。
コレットもこれで決まるとは思っていなかったのだろう。
追撃はせず、油断なく体勢を立て直した。勝負の行方はまだわからない。




