106 ゲス勇者パーティの崩壊
前回:勇者、死亡フラグ建設完了
「予定通り延長戦を始めるとしよう。すぐに済む。お前たちは手出し無用だ」
全員が頷く。
シオンやコウエンはまだ暴れ足りないかもしれないが、今回は俺がさっさと片付けてしまおう。
【擬態ノ神】発動。
擬態対象はメイズ・デミボックス。
迷宮に配置されている宝箱の魔物だ。
雑魚を乱獲する時はこの姿で戦うと効率が良い。
「なんだ、僕たちに宝でも献上してくれるのかい。でも無意味だよ。どうせすべて奪い取るのだからね。それともそれが君の本性なのかい?不意討ちしか能のない宝箱型の魔物か。憐れなことだね」
宝箱の姿になった俺を見て細目が笑っている。
「すべてを奪い取る、か。強欲なのは良いことだ。ただお前は奪う側ではなく、奪われる側だ」
「下等な魔物風情が大きく出たね。それが遺言で良いのかな?すぐにでも迷宮の煙に変えてあげるよ。こんな魔物に頼るなんて、レインベルもたかが知れるというものだ」
ヘラヘラと笑う細目。
不快だ。
先ほどから、こいつらの全てが癪にさわる。
俺はどうやら、コレットたちが侮辱されたことを不快に感じているらしい。
これは、以前には抱かなった感情だ。
俺にとってシオンやコレット、コウエンは所有物であり、宝物だ。
俺の持つ宝の価値は、俺だけが理解していれば良い。
他者の評価は関係ないと思っていたのだが…。
そういえば以前、城の兵士がシオンを所有している俺を羨んだ時に優越感を抱いたことがあった。思えばあの時からだろうか。
目の前の奴らは俺と俺の所有物を貶め、さらに俺から奪おうとしている。
俺は勇者パーティを不快に思っている。つまりあいつらは敵だ。容赦は無用。
たかだかレベル30にも達していない者たちなど、俺の敵ではない。
宝箱の蓋を開く。
俺の攻撃は終わった。
「おっと、何もさせねぇぜ!」
大男が大剣を振り下ろしてくる。
幅広の大剣。切るのではなく、金属の塊で相手を叩き潰すための剣だ。
大男の身体と大剣が赤色の光を放っている。熟女による火の援護魔法により、速度と攻撃力が底上げされているようだ。
でかい身体に似合わず俊敏な動きだ。威力も悪くない。…雑魚にしては。
バキィッ
「な!?剣が…」
「避けるまでもない。この程度か。勇者が聞いて呆れるな」
大剣は俺の身体に弾かれ、大男は強力な反動に手を痺れさせている。大剣が泣いている。
「下がれ、どうやら物理攻撃に強力な耐性があるようだ。魔法を使う!」
細目がなにかわめいている。
「ちっ、めんどくせぇ!」
大男が飛びのく。
「「「火陣!!!」」」
大男と入れ違うように細目、インテリメガネ、熟女から火魔法が放たれる。
パーティに三人の魔法使いとは、腐っても勇者ということか。
巨大な炎が俺を包み込む。
炎はその場で竜巻となり、一帯の酸素を取り込みその火力を増していく。
【火陣】は火魔法の範囲攻撃だ。
広範囲、高火力の殲滅魔法。
人族が扱える魔法の中では最大級の威力を持つ、のだが。
ぬるま湯だな。メイズ・デミボックスは酸素も必要としない。
俺は炎の中から勇者パーティを観察する。
「ははは、ノロマだね。まったく回避できないとは。所詮は不意討ちだけが取り柄の魔物だ。煙となって消え去れ」
「決まりましたね。我ら三重の火陣が直撃して生き延びられる魔物は存在しません。かの祖白竜ですら、これを喰らえば大ダメージは免れないでしょう」
「あっけなかったわねぇ。知恵ある魔物と言っても所詮この程度なのね」
「僕たちが強すぎるのさ。さて領主様、頼みの知恵ある魔物は燃え尽きたよ。命乞いのセリフは用意できたかい?」
火陣の中にいる俺に背を向け、コレットたちににじり寄る勇者パーティ。
そんなことをしている猶予は彼らにないのだが、どうやらまったく気づいていないらしい。
シオン、コレット、コウエンに動じる様子はない。
俺があの程度の攻撃で傷を負うことがないことをよく理解しているようだ。
…そろそろか。
「ははは、もう抵抗する希望も失ったのかい?では遠慮なく、まずはこの場で慰み者になってもらお…う、か…!?」
「っが、あ、んだ、これは。体が言うことを、聞かね…」
細目と大男の動きが急に鈍くなり、身体が固まったかのように地面に倒れ込む。
「なっ、麻痺毒!?いつのまに…ポーションを…」
「だめよ、効果が強すぎるわ。エリクサーを使いなさい!」
「ちっ…!惜しいですがやむを得えませんね」
僅かに効き始めるまでに猶予があったのか、インテリメガネと熟女がエリクサーをあおる。
エリクサーは現代において、かなり貴重な霊薬らしい。
それを所持しているとは、やはり金回りが良いようだな。
だが無意味だ。
「な、痺れが!エリクサーを飲んだのになぜ…!」
「あのクソ領主、まさか偽物を掴ませたの!?」
悪化していく体の痺れに困惑する勇者パーティ。
火陣の炎が消えていくが、こちらに意識を向ける余裕がなくなっているらしい。
「そのエリクサーは本物のようだぞ。エリクサー程度でこの麻痺からは逃れられない。それだけだ」
「お前、なぜ生きて…」
まるで幽霊でも見たかのように驚愕するインテリメガネと熟女。
「あんな弱火で死ぬわけがないだろう。お前ら本当に勇者なのか?サイトゥーンに比べれば赤子以下だな」
「そんな、馬鹿な…!」
その言葉を最後に勇者パーティ全員が麻痺し、地面に這いつくばった。
うむ、良い眺めだ。
俺は【擬態ノ神】を発動し、人族の姿に戻る。
勇者パーティは、すでに指先の一本すらまともに動かせないようだ。
かろうじて視線だけを俺に向けている。
戦いとも呼べない何かは終わった。
トシゾウ
年 齢:60()
種 族:メイズ・デミボックス(オーバード・ボックス)
レベル:60()
スキル:【罠ノ神】(【擬態ノ神】【蒐集ノ神】【無限工房ノ主】)
装 備:不死鳥の尾羽 主従のミサンガ
これが先ほど使用したステータスだ。
意味もなく攻撃を受けてやる義理はない。
スキル【罠ノ神】を使用した麻痺毒の効果が出るのを待っていたのだ。
俺が擬態していたメイズ・デミボックスは、迷宮においては弱い魔物に分類される。
本来は、このように強力な麻痺毒など使用できない。
使用できるのは、せいぜいが少し手足の先を麻痺させる程度の弱毒だけだ。
しかし【擬態ノ神】によりメイズ・デミボックスの力を限界まで高めることで、スキル【罠ノ神】が使用できるようになる。
勇者パーティが吸い込んだのは、無色無臭の指向性の毒霧だ。
瞬時に好きな場所へ展開させることが可能で、麻痺に耐性があるものでも一呼吸で全身に毒が巡り、神経が侵される。
個体差はあるが、通常24時間は行動を制限し、かつ五感と意識はそのまま残すことができる。
こいつらをわざわざ生かしたのには理由がある。
人体実験の材料になってもらうためだ。
俺は無限工房からとある魔道具を取り出した。




