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016 またやっちゃったよ

本当は1話分で1エピソードにする予定でしたが、メチャクチャ長くなったので2話に分割します。

『いらっしゃいませぇ〜!』


 今日も、エルの可愛らしい声が宵闇亭に響く。

 聞き慣れない異国の言葉(?)ではあるが、エルの様子から歓迎されている事は伝わってくるので、その微笑ましい様子は、宵闇亭を訪れる客にはとても好評だ。


 微笑み返す者、頭を撫でる者、喜んでいるのだが反応に困っている者、顔を赤くして息を荒げる者……最後の奴に関しては、出禁も検討しなくてはならないとガウルは思っている。


 概ね好評なエルのお出迎えだったが、その日は一人だけ、そういった客たちとは別の反応を見せた者が居た。


「ガウル! お主、ふざけておるのかッ!!」

「急にどうしたんだよ、とっつぁん。俺は別にふざけてなんてねぇが」


 店に入るなり顔を真っ赤にし、肩をいからせてガウルに詰め寄ったのは、ドワーフのドイルだ。


「この間から、エルちゃんを働かせておるようじゃな……」

「あ、あぁ。別に働かせようなんて思っちゃいねぇんだが、楽しそうだし、やめさせようとすると泣き出すし、でよぉ……」


 困った時に頬をぽりぽりと掻くのはガウルの癖だ。つまり、今のガウルは困っているという事だ。

 実際、ガウルはエルを無理に働かせよう等とは思っていない。エルが自主的にお手伝いをしようとしているし、その様子が楽しそうなので好きにさせているだけだ。

 その結果、店の雰囲気はとても良くなったし、エルの手によって始まった謎の各種サービスは客にも評判がいい。

 店の評判などはどうでもいい――良くはないが、それは自分の腕で上げていくもので、そんな事の為にエルを利用する気は毛頭ないとガウルは考えている――が、その結果、客にエルが受け入れられて可愛がられているのであれば、それも良いだろう。そう、ガウルは思っていた。

 けれど、幼い子供、それも可哀想な目に遭っていた子供を働かせるというのはどうなんだ、という気持ちも確かにあって、ドイルに強く言い返せないガウルだった。


「……一度や二度なら、エルちゃんの気まぐれかもしれんと思って見逃しておった。だが、こうも毎日働かせておるのなら、とてもとても……見過ごすことなどできんぞ……」

「とっつぁん……」


 ガウルを見つめる、ドイルの目は真剣だ。

 彼なりに、エルの事を考えてくれているのだ。叱られているというのに、ガウルの胸は暖かくなった。


 ドイルの次の台詞を聞くまでは。


「あんな普段着を着せて店に立たせるなんて、何を考えとるんじゃ! 油でも跳ねたり、染みでもついたらどうするんじゃい! 他所に着て行く時に困るじゃろうが! エプロンもさせんと料理なぞ運ばせおって……それにじゃ、着せとる服もイカン! 平凡すぎじゃ! エルちゃんは素材が良いからアレでも十分に可愛らしいが、だからと言うても服が完全に負けておるじゃろうが! あんな状態で人前に立たせるなど、何を考えとるんじゃ!? もっとエルちゃんに似合った可愛い服を着せんかッ!!」


 エルを指差し、一気に捲し立てるドイル。


「……あァ……」


 そうだった。

 ドイルは、こういう奴だった。


 ドイルは別に、ロリコンという訳ではない。

 鍛冶師として、主に防具の製作を行っているドイルは……こだわりのある、職人なのだ。


 鍛冶師であるドイルと、彼の妻である縫製師のラキスエニス。

 二人が共同で経営している防具&服飾店は、他の店ではあまり見られないような商品を販売している。

 部分鎧が当たる部分が、最初から厚く作られている服。服に付いている紐を通すことで、しっかりと固定できる構造になっている防具。

 そういった実用的な部分のみならず、組み合せることで防具が服を、服が防具を引き立てるような、そんな服と防具のセット。

 そういった物を、ドイル達は手掛けている。


 いわば、トータルコーディネートにこだわる職人。それがドイルだ。

 そんな彼にとって今のエルは、道端に無造作に転がっている最高級の原石にも等しい。

 黙っていられる筈もなかった。

 散々「なってない」「きっとこうしたら可愛い」「お前のセンスはひどい」と言いたい放題ガウルを怒鳴りつけてから、


「いいかガウル、必ずじゃ、必ずワシの店に来い! ラキスと共にエルちゃんの服を見立てるからの! お前が来るまでワシはここに来んからなッ!! 分かったな!!」


 と言い放ったドイルは、宵闇亭から出ていった。


「はぁ……とっつぁんも困ったモンだ、全く」


 頭痛がした気がして、こめかみを押さえて揉み込むガウル。

 ちらりとエルを見ると、ドイルの様子に驚いてしまったのか目に涙を溜めてガウルを見ている。

 頭を撫でてやると、エルはガウルにぎゅっとしがみついてきた。


 ガウルからすればかなり理不尽に怒られたようなもので、普通に考えればガウルが怒鳴り返したとしても無理はない。

 しかし、ドイルはドイルなりに、心からエルの事を想ってガウルを叱りつけたのだ。理由は若干しょうもない感じだが、そんなドイルの気持ちがガウルには嬉しかった。



「で、実際どうするんスか」


 入り口に近いカウンター席で、(ビーガ)の香草焼きにかじりついていたサジットが口を出してきた。


「まぁ……とっつぁんなら、放っといても2,3日すりゃあまた来るんだろうが……とっつぁんの言う事も、一理あるんだよなァ」

「そうッスよねえ……前聞いたッスけど、今エルちゃんが着てるのって、とりあえず急いで買ってきた服だったんスよね? エルちゃん可愛いから気になんなかったッスけど、確かにまぁ、お店に出すんだったら、もっと可愛い服着せてあげてもいいんじゃないッスか」

「そうだなぁ……」


 これから、エルと共に暮らしていく。

 以前までは「保護している」という感覚が強かったが、数日前の事件のあと、宵闇亭で自主的にお手伝いを始めたエルの姿を見て以来、ガウルは自然にそう思えるようになってきた。


 であれば、今後の為に必要な物もあるだろう。

 確かに今着ている服は間に合わせの物だし、エルの部屋には、保護された当初にエルの心を慰めるため、渡されたプレゼントくらいしか置いていない。部屋だって何も考えず、宿の部屋を取り敢えず使っているだけだ。

 服、小物、部屋に家具……よくよく考えなくても、そういった物を揃えていく必要がある。


(明日の昼は店閉めて、エル連れて買い物行くか。エミリィにも声掛けとかねぇとな……)


 ガウルはそう決めると、明日の昼営業は休みである事を示す札を扉の表と裏に掛けた。

 それを見た客は文句を言ったが、エルのためだと言うと皆「それじゃあ仕方ない」と言って引き下がっていった。





(うう〜、どうしよう……またやっちゃったよ……)


 その晩、エルは自室のベッドの上で膝を抱えて泣きべそをかいていた。


(そうだよなぁ……異世界と言えば様々な人種。それだけ沢山の人種がいれば、仲の悪い人種同士も当然ある訳で……あぁ〜、なんで気が付かなかったんだ、エルフとドワーフの仲(・・・・・・・・・・)が悪い(・・・)なんて、常識レベルの話じゃないか……)


 今日の営業で、一人のドワーフのお客さんが店に入るなり怒り出して帰ってしまった。

 最初は戸惑っていたが、エルを指差して主人さん(ガウル)に詰め寄るドワーフの姿を見れば、エルにも何を言われたかくらいは分かる。


「森臭いエルフが働いとる店で、飯なんぞ食えるかッ!! 不愉快じゃ! そいつを辞めさせない限り、二度と来んからなッ!!」


 きっと、そんな事を言っていたのだ。


 自然を愛する森の民と、火を愛する鉄の民。彼らの間に確執がある事は、想像に難くない。製鉄の歴史は自然破壊の歴史なのだ。ドワーフが森を切り開き、エルフが彼らの作業を妨害する……そんな事が、かつてはあったのだろう。

 そんな可能性もすっかり忘れて働いていたエル。

 あのドワーフは、これまでに何度も見ている。多分、常連さんの一人なのだろう。

 その常連さんを、宵闇亭は今夜、一人失ったのだ。誰でもない、自分のせいで。


 ちなみに、この世界のドワーフとエルフの間に確執は特に無い。

 むしろ自然の管理が得意なエルフには林業を営んでいる者が多く、彼らが管理する森から生産される大量の木炭は、鍛冶屋や陶工達にとってありがたい存在だ。

 職人が多いドワーフが、燃料を売ってくれるエルフを悪く思う訳がないし、お得意様であるドワーフ達をエルフが嫌う理由もまた無いのだ。

 しかし、エルにはそんな事を知る術もない。


(どうしよう……僕、店に出ないほうが良いのかなぁ……)


 目を瞑る度に怒って出ていくドワーフの姿を思い出してしまい、エルは一晩中へこみ続けていた。




 翌日。

 いつもどおり開店前のお掃除を手伝ったエルは、ガウルが昼の仕込みを始めないことに気付いた。

 しばらくするとエミリィもやって来た。最近のエミリィは、エルの状態が安定した上にガウルに懐いているのを確認して安心し、昼の間は仕事に出ている。

 いつもであれば既に研究所に向かっている時間だったので、エルは首を傾げた。


「じゃあ行きましょ、エルちゃん」


 エミリィはそう言って、エルの手を取った。

 よくわからないが、外に出るらしい。

 表に出て暫く待っていると、ガウルが出てきて店に鍵を掛けた。


(なるほど、今日はどこかに出かけるんだな)


 エミリィに何かを言われ、エミリィと繋いでいる反対側の手を取るガウル。まるで親子のようなその光景に、道行く人々の表情は緩んでいたのだが、行き先も何も解らないエルは、連行される宇宙人のような気持ちだった。

 実際、エミリィとガウルは迷子の前科があるエルを片時も離さないために手を繋いでいたので、エルの受けた印象はあながち間違いでもなかったのだが。


 そうやって二人に連れられ、歩くこと十数分。

 エルが連れてこられたのは、美しく磨き上げられた防具や、綺羅びやかではないものの見るからにセンスの良さそうな服が掛けられている店舗。

 ドイルとラキスエニスの店だった。





少し文章が足りていない気がするので、いずれこの辺りはすこし書き足すかもしれません。

次話は4/14(土)12:00更新予定です。

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