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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

臼プレッシャー

作者: Guru

 俺は臼。

 俺は今、サルの家の屋根の上にいる。


 天敵であるサルの帰りをひたすら待っているわけだ。俺はカニくんをいじめたサルが許せない。


 そんなカニくんを慕った仲間がここに集った。

 栗くん、蜂くん。勇敢なる陸の戦士達だ。


 俺達は最強のタッグを組んだ。

 サルに復讐をして、ぎゃふんと言わせてやる。サルに土下座をさせてやるんだ。


 カニくんの考えた復讐の作戦は完璧である。

 あのサルをも上回るカニくんの頭脳には驚かされた。


 この作戦の全貌を明らかにしておこう。


 まず、サルが自分の家の中に入る。

 きっと寒さに震えたサルは、いろりで暖をとるだろう。

 そこでまずは、いろりの火の中に隠れていた栗くんがサルのお尻めがけてアタックだ!!

 ヒップアタックならぬ、ヒップにアタックだ。


 美味しそうに焼けた栗くんがアタックするのだから、サルは痛いだけではなく熱がるに違いない。

 その熱がったサルが次に考えることは容易である。

 焼けたお尻を冷やすため水に浸かるはずだ。きっとそうだ。


 そこで今度はいじめられた張本人のカニくんの登場である。

 水の中に隠れていたカニくんがサルめがけて飛び出す。

 そしてサルの毛や耳を、カニくんのハサミでチョキチョキと攻撃をするのだ。


 もうこれでカニくんの復讐は90パーセント果たせたといっても過言ではない。だから──


『復讐はここで果たせるわけだし、もうこれで十分なのではないか?』


 そう思われたのだが、これではカニくんの怒りはおさまらないと言うのだ。まだまだ復讐は足りないらしい。


 正確に言うと、どうやら怒っているのはカニくん本人よりも、カニくんの母親である。

 誰よりもカニくんの母親が一番怒っており、怒り狂っているわけだ。

 そのせいなのか、カニくんの母親も実はこの作戦に加わっている。


 これも世間を騒がす、モンスターペアレントというものの一種なのだろうか?

 子供の喧嘩に親が介入してくるとは……恐れいったものである。


 まぁ俺もあのサルにはいつも腹がたっていたところ。この作戦を利用させてもらって、うっぷんをはらしてやろうって魂胆だ。


 作戦の続きに戻ろう。


 栗くんとカニ親子達の攻撃を受け、きっとサルはヘロヘロになっているに違いない。

 そうなれば、サルはたまらず家の外へと逃げ出すはずだ。


 ここでようやく俺の登場である。

 そのヘロヘロになったサル目掛けて、屋根の上から俺が飛び降りる。

 この俺の全体重を乗っけてやるのだ。しかも屋根の上という高さから。


 もうサルはひとたまりもないだろう。

 サルもこれで降参するに決まっている。カニくんに土下座をする瞬間が訪れるのだ。


 だから、この作戦においての俺の重要性は、ものすごく重要なのではなかろうかと分析している。


 言っても栗くんやカニくん達の攻撃は可愛いもの……サルには軽傷しか与えることができない。

 ここに俺の攻撃が加わることによって、サルに致命傷の一撃を与えることができるわけだ。


 裏を返せば、万が一俺が失敗するとなると、サルはこれに懲りることなく、またカニくんをいじめるに決まっている。


 サルの復讐の復讐だ。

 だからサルを完膚なきまで、徹底的にやる必要がある。

 もう仕返しをさせる気力をなくすほどまでに……


 だから俺の任務は物凄く大事。

 絶対に……絶対に外すわけにはいかない……だから──




 今めちゃくちゃ緊張してます……こんなに震えてるの人生で初めて。

 なにせ勝負は一度きりしかない。本当はドスンと落ちる練習をしたかった……けど、とてもじゃないが言えなかった。

 栗くんやカニくん達のおかげで、なんとか屋根の上に登ることができたのだから。


 今思えばよく登ってこれたと思う。

 むしろどうやったのかすら覚えてない。奇跡に近いだろう。

 だから不安な気持ちでいっぱいではあるが、ぶっつけ本番の一発勝負だ。


 そんな大きな重圧を抱えているが、蜂くんのことを考えれば少しは気持ちも軽くなる。


 この作戦の中に蜂くんの出番はない。

 カニくんいわく──


『蜂くんは頃合いを見て、ちょうどいいとこでブスッといっちゃってよ~』


 とのことだ。なんともアバウトである。


 サルを火の後に水で攻め、逃げるところに強烈な一撃を与える。

 そこまで綿密に作戦を立てているのに関わらず、蜂くんの出番は適当なのだ。


 先程この作戦を完璧と言ったが撤回する。

 やはり少しカニくんにはカニみそが足りないようだ。


 その蜂くんのことを思えば、出番がばっちり決まってる俺の方が、随分気は楽なのだろう。それでもやはり緊張はするが………


 あともうひとつ。

 俺には大切な任務がある。


 サルが帰ってきた時、屋根の上に俺がいることがバレると大変まずいことになる。

 サルが警戒して家の中に入ってこない可能性が出てくる。すべての計画がおじゃんになってしまう。


 だから俺は手をうった。

 バレないようにサルの家の屋根の色と同じ色のペンキを体に塗ったのだ。


 俺は今、完全に屋根と同化している。俺は屋根だ。遠目からでは分かるまい。

 近くで目を凝らすとバレるかもしれないが……



 ──ん? あれは!!

 サルだ!! サルが帰ってきた!!


 とうとうサルが自分の家へと帰ってきたぞ。

 まずは第一関門、俺の存在がバレないこと……


 俺は息を殺し、サルが家へ入るのをじっと待つ。すると──


「あーーーっ!!!」


 サルが大声をあげた。


(ま、まずい? バレたか!?)


 サルは走って家の中へと入っていく。


「いろりの火が消えてなかった! 危ない、危ない。火事になるとこだった!」


(ふぅ~っ……バレたのかと思って焦ったぜ)


「まぁいいや。寒かったところだし、暖まってちょうどいい!」


 屋根の上にいる俺には、サルの声は聞こえるが中の様子は見えない。

 カニくん達の健闘を祈るばかりだ。


(そろそろ栗くんの出番か? 頑張れ栗くん!!)


 俺が心の中で栗くんを応援していると、家の中から悲鳴が聞こえてくる。


「ぎゃーーっ!! 痛い! 熱い!! なんで火の中に栗が!!」


 始まった。

 カニくん達の逆襲が幕をあけたのだ。


 サルが慌てている。奇声をあげている。


「ケツが熱い! 水! 水!!」


(いいぞ!! 作戦通りだ!!)


 サルの声とはまた別の叫び声も聞こえ始めた。


「ここだーー!! ブスッ!!」


「痛てぇー!! なんで蜂がこんなとこに!!」


(す、すごい! 蜂くんだ!! なんて絶妙なタイミングなんだ! 天才か蜂くんは!?)


「痛い!! 熱い!! 水、水ーー!!」


 ここまで完璧に作戦通りに事が進んでいる。

 そして、とうとうやられた張本人のカニくん達の出番だ。


「さっきはよくもやってくれたな!」


「よくも私の息子をーー!!」


 カニ親子はサルに突撃し、ハサミでチョキチョキと攻撃した。


「なんでおまえがここに! 痛い!! や、やめてくれーー」


 家の中で暴れる音が聞こえる。


 ドカッ! ドカッ! パリン!!


 何かにぶつかる音、更にはガラスの割れる音も聞こえた。家の中で相当格闘しているのだろう。


(な、なにが起きているんだ? 気になるが見に行くわけにはいかないし……)


 ますます緊張が走る。自分の出番が近い付いて来ているのだから。


(もうすぐ来る……外せない……絶対に外せない……)


 俺の緊張が最大限になったとき、家の中からカニくんの母親の大声が響き渡った。


「このすばしっこいサルめ! まだ逃げ回るか!!」


 その言葉を聞いて、俺は一瞬、頭が真っ白になって固まった。


(す、すばしっこい……? みんなにやられて疲れ果てたサルがヘロヘロになって出てくるんじゃないのか?)


 俺は焦った。ひたすら焦った。


 (話が違う! やばい、失敗する! 絶対うまくいくわけない!! この作戦は失敗に終わる!!)


 どんどん嫌なイメージばかりが湧いてくる。

 成功のビジョンが一向に見えてこない。

 しかし、無情にも時は待ってはくれない。ついにその瞬間は訪れる。


 再びカニくんの母親の声がこだました。


「サルが逃げた! 外に逃げたぞーー!!」


(──!! き、来てしまった……どうしよう、どうしよう!! サルのスピードは? 俺の落ちるタイミングは? 分からない……もういい!! こうなりゃヤケだ! 適当に飛び降りるしかない!!)


 俺は覚悟を決めた。足音が聞こえてくる。

 部屋の中から外へと──来る!!


 俺は不安と失敗の恐怖から、思わず目を閉じた。


(もうどうにでもなれ!! いけーー!!)


 そして思いっきり叫んだ。


「日頃の恨みーーー!!」


 ドスン!!


 グシャッと踏み潰される鈍い音が聞こえた。

 感触はある。俺はゆっくりと目を開けた。


「やった! やったぞーー!!」


 歓声をあげる俺の周りには、カニくん達の姿がある。

 しかし皆、嬉しそうな顔はしていない。むしろ怒っているかのように見える。


「あれっ? なんで……?」


 俺は恐る恐る足下を見た。

 すると、そこには踏み潰されたカニくんの母親(・・・・・・・)の姿があったのだ。


「えーっ!! なんで!? サルは? サルが外に逃げたんじゃないの?」


 蜂くんは冷静に答えた。


「逃げたよ。ガラスを割って窓の外から」


「えっ、窓……?」


 カニくんは涙目ながら言った。


「なんか言ってたよね? 日頃の恨みとかなんとか……」


「ち、違う!! これは……あははははは!!




 ごめんなさい」



 俺は生まれて初めて土下座をした。



 こうして俺は世間の天敵

 モンスターペアレントを退治することに成功し、俺の復讐劇は幕を閉じた。

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