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見知らぬ場所、そして生首

 目が覚めたら見知らぬ空間に……なんて考えたことのある奴はたくさんいるだろう。かくいう俺も昔一度は考えたことがあるからな。


 さて、このようなことを考えているその理由、それは、俺が今、実際にそんな場面に直面しているからだ。目の前にはガラスの壁、奥を見渡せば一面悪の研究所のような、薬品やよくわからない骨が置いてある、薄暗い光景。体が固定されているのか、体の感覚がなくて動かすことができない。唯一、眼球だけが動く。

 ここはどこなのだろうか。さっきまで俺は家に帰ろうとしていて……この先が思い出せない。もしや、俺は誰かに拉致されてしまったのだろうか。いや、俺は貧乏な高校生、そんな価値はないはずだ。たぶん。


 考えているうちに、微妙に光が入ってきた。少ししか周りが見えないが、窓が狭くてこれ以上の明かりは望めないだろう。視界が少し赤みがかっている。目の調子が悪いのだろうか。


 更に時間が経った。今に至るまでに、俺はいくつか奇妙なことに気がついた。

 一つは、体を動かすことが出来ないこと、そしてそれに合わせて気づいた、ここに来てから一度も瞬きをしていないということ。

 そしてもう一つ。今、この状況であっても俺はある程度冷静でいるということ。思考が冴え渡っている気がする。


 誰かが部屋に入ってきた。影が二つ見える。どうやら二人いるようだ。こいつらが俺をここにつれてきたのだろうか。

 ボッ、という音とともに急に視界が鮮明になった。どうやら明かりがついたようだ。ここで俺は、入ってきた奴等の姿をはっきりと見た。そいつらは、この世のものとは思えぬ色をした肌に、鬼のような角、そして悪魔のような翼をもっていた。更に周囲には、いくつかの火の玉がぷかぷかと浮かんでいた。

 こいつらは普通じゃない。そう直感した俺は誰かに助けを求めようとした。声が出なかった。いや、出すことが出来なかった。声を出すことさえも出来なくなくなっている。


 近づいてくる。こっちには気づいていないのか、それともどうでもいいのか、俺には目も向けない。こいつらは、一体何者なんだ。そもそも人間なのか?


 声がきこえてきた。


「……るいなぁ。まったく、朝からこさせるとか所長も魔人使いが荒いなあ」

「まあそうだな。でも早起きは得って言うし、いいんじゃね?」


 魔人。まさかそんなものがこの世に、いや、だけどあの人間とは考えられない風貌は、魔のつく生物そのものだ。ということは、ここは日本では、地球ではないのだろうか。


「ってか、俺に魔力(ブラッド)で明かりを作らせるってのはどうかしてるぜ。血人種の研究にも使うから無駄遣いしたくないってのによ」

「仕方ないだろ。俺達は一番下っ端なんだから」


 ブラッド? 血人種? なんなのだろうか。雰囲気から考えるに、血人種とは、人間のことかもしれない。そして、ブラッドとは血液のことなのだろうか。


「やっぱ血人種は血液があるから俺らでは再現しにくいよなあ」

「そこが俺達との最大の違いなんだからそりゃあな。俺達にもあったら楽なのにな」

「おいおい、それは駄目だろ。俺らには血液がないから魔力(ブラッド)が多いんだぞ?」


 こいつらには……血液が存在しないのか? じゃあ、ブラッドとはなんなんだ。こいつらは、ブラッドとやらを使ったと言っていた。

 更に近づいてくる。今度は、こっちを見ている。目があってしまった。こっちへ来る。


「誰だよこんなとこに生首放置した奴。誰が整理すると思ってんだ? まったくよお」

「昨日の担当が片付け忘れたんじゃね? よくあることだろ? 少ししか動かす必要もないっていうのに、横着だよな」

「というか、上もどうかしてるぜ。研究するなら完全保存体の方がいいだろうってのによ、生首ばっかりいっぱい揃えやがって」

「それだと一体にかける金額が高くなって、実験に失敗したときのリスクが大きいからじゃね? 生首なら数も揃えやすいしな」


 生首? そんな恐ろしいもの、ここにあったか? 俺が見た限りではそんなもの...いや、もしかすると後ろにあるのかもしれない。ここは俺の常識が通用しなさそうだし、もしかしたらいっぱいあったりしてな。それにしても、ここはなんと危ない施設なのだろう。


「えー……頭部保存体6‐9ねえ。まあとりあえず並べておくか」


 奴等のうちの一人が俺を持ち上げた! いや、周りのガラスを持ったのか? ガラスが上がると、連動して俺も上がる。どういうことだ。まさか、俺はなんらかの容器に入れられているのか?


 運ばれる間に、考える。さっきあいつらは、ここに生首がなんとかと言った。そして俺を動かした。となると俺が生首ということになるのか。そんなはずは……いや、どうだろう。

 もし仮に、俺が生首だったとしよう。その場合、俺は首から上しかないわけだが、俺は今、こうして考えることが出来ている。ならばそれはありえない、と考えるのが普通だが、俺はすでに普通じゃないものをいくつも見ている。だから俺は今まで育て上げてきた常識を捨て去らなければならないのではないか。

 ああ、考えるのが馬鹿らしくなった。思考を放棄する。


「ん? 今、これ動かなかったか?」

「いや、気のせいだろ。生首の状態で動くことができるのは異人だけだし、そいつらの生首なんてそう簡単に手に入らないし、そもそもそんなスパッと切られるような間抜けがあの連中にいるわけないだろ」

「ま、そりゃそうだよな」

「ついでに言えば、異人はこんな金髪じゃなくて全員黒髪だっての」


 考えることをやめているうちに、魔人が止まった。短い時間であったはずなのだが、妙に長く感じられた。まあいい。どうやら俺はこのあたりに置かれるようだ。正直、体に隠れて周りがまったく見えないので、早く置いてほしい。

 相手の体が離れたことに小さな緊張のほぐれを感じた。あんな鬼みたいなのに抱かれて緊張しない奴なんていないだろう。何かの拍子で潰されたらどうなってしまうのだろう。恐ろしい。


 とりあえず、周りを確認する。


 俺の目に映ったのは、目の前に広がるいくつもの生首と、それらの入っている容器に反射して映る、見知らぬ顔をした生首だった。

 俺には、それが、見知らぬ誰かの顔であるはずなのに、自分の顔であると思えてならなかった。というか、反射している向きから見ても、それは俺がいるはずのの場所にいた。このよく知らない顔は、俺である以外にありえないのだ。


 こうなってくると否定のしようがない。そう、俺は、生首になっていたのだ。別人の顔になるという、とてつもなく大きなおまけ付きで。

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