第56話 闇に溶け込む来訪者
「……そのあと目が覚めたら、もうムングイのお城にいたわ。
だからそのあとアルシュナたちがどうなったかわからないわ」
「えっ……」
カルナの話はそこで終わった。
アルシュナとの間になにがあったのか凡そのところでわかったが、ただ話の内容としていくつかの部分が歯抜けになっている印象が否めなかった。
「カルナは、その大男に助けられたってこと?」
一拍の間。
「――あたしを連れ帰ってきたのは、団長だと聞いたわ」
「なら、その大男は師匠だったってこと?」
「――それは違うわ。
たぶん……あたしが連れ去られている途中で……団長に助けられた……だと思う」
それほど勘のいいほうではない武蔵としても、その違和には気付いてしまう。
アルシュナが話をしていたことと若干の食い違いのようなものあった。
ただそれを話すカルナの様子もおかしい。
どこか視線を彷徨わせて、冷や汗を浮かべている。
「アルシュナは別に恨んでないだろ」
ただでさえ怯えた様子を見せるカルナを、これ以上追い詰める必要はないだろうと、武蔵はそれ以上掘り下げることをやめた。
いや、それ以上にこの話題を続けることが怖くなったのだ。
それをこれ以上聞くことは、これからのカルナとヨーダと、そして武蔵自身の関係性を劇的に変えてしまうように思えて逃げたのだ。
代わりに武蔵は、カルナに最初に問われていたことに対して答えた。
――恨んでる、ように見えたかしら?
カルナの話を聞いた上で、改めてその質問に対して武蔵なりに感じたことを伝える。
「カルナが、意図して彼女を置き去りにしたわけでもない。カルナだってそこから無理やり連れ去られたんだ」
「……だけど、あたしはそれから、彼女たちを助けに行くこともできなかった。
ホントはなにを置いても、助けに行かなきゃいけなかったのに……」
「カルナは、助けに行かなかったわけじゃないだろ」
カルナがそんな状況を放置できるような人物でないことは、武蔵は重々理解していた。武蔵とパールが攫われたときに、サティと二人で真っ先に敵陣に飛び込んできたのだから。
「それも含めて、魔王と戦おうとしてたんじゃないのか?」
「……だけど、間に合わなかったっ」
「理不尽だと思うよ。だけど、そう思うから、戦うんだろ?」
それはカルナ自身が口にしていたことだ。
カルナはいつだってそうだった。泣き出しそうな顔をして、ときどき涙したりもしているけれども、それでもカルナは常に前を向いていた。
確かにカルナ自身が言う通り弱いのかもしれないけど、それでも強くあろうとしている。
怯えて震えることがあっても、それでも進もうとしている。
カルナとはそういう人間だと、武蔵は知っている。
だからカッコいいと思うし、憧れるのだ。
「――聞こえてたんだ」
しばらくして、カルナはなんとも気恥ずかしそうに俯いた。
「そう、ね。この世界は、ホントにホントに理不尽よ。
だからこそ、戦わなきゃいけないのよ」
俯きながら、改めてそう宣言していた。
そしてカルナは吹っ切れた表情で顔を上げた。
「ムサシ、話を聞いてくれてありがとう。
あたし、明日もう一度、アルシュナと話をしてみるわ」
「話すってなにを?」
「置き去りにしたこと、やっぱり謝りたい。
それと、あたしもアルシュナが生きててくれて嬉しいって伝えたい。
結局、今日はアルシュナに一方的に話されてただけだったし」
はにかんだ笑顔を浮かべて、カルナはそう口にした。
思い返せば、カルナの笑った顔を見たのは、これが初めてだったかもしれないと武蔵は思う。
少しだけ胸がドキドキする。
「今度は一人で大丈夫なのか?」
その顔を見て、武蔵ももう大丈夫だろうと思い、あえて意地悪を言ってみた。
カルナは少し顔を赤く染めて、
「大丈夫よっ。
面倒かけて悪かったわね」
辺りは暗くなり始めていた。
カルナの顔が少しずつ闇夜に隠れていくのが、なんとなく惜しいと感じる。
できればもう少しだけ、その珍しく険の取れた顔を眺めていたいと思っていると、
「ムサシっ!!」
カルナの表情が途端、いつもの――いつも以上に厳しい真剣な眼差しに代わる。
携えた剣を抜き、武蔵の横を駆け抜けて、彼の背後に向かって臨戦態勢を取る。
「あら? お邪魔してしまったかしら?」
そのカルナの敵意の先で、落ち着いた口調の女性の声が聞こえて、武蔵もまた慌てて背後を振り返る。
そこには、闇夜に溶け込み始めながらも、それでもなお異質感を携えた、紺色の着物姿の女性がたたずんでいた。
「……サキさん?」
ある意味、武蔵としてはこの異世界において最も再会を待ち望んでいた人物、この世界で出会った唯一の日本人がそこにいた。
「はい、ご無沙汰しております、武蔵君」
サキは剣を構えるカルナを前にしながらも、丁寧に、それでいて堂々と二人に対しておじきをした。




