第182話 そして叫びは届く
『ここに、オレたちカミ様見つけ隊の結成を宣言する!』
遥人がそう宣言したとき、心の底からこのメンバーでなら、どんなことだってできると信じていた。
そう思えるだけの、信頼があり、何よりも一緒にいるだけでただただ笑えて、楽しかった。
心の底から笑っていられるだけで、自分たちは無敵の存在に思えた。
『カミツケ隊』
最終的にそう名付けたのは、栄介だ。
栄介は、昔からみんなのフォローに回るのが上手かった。
誰かから出た意見を反対することなく、上手く汲み取ってまとめる。
『こっちの方がいいじゃん』
それを武蔵が上手くみんなを巻き込んで実行に移していく。
二人に比べて、遥人はただただ空回ってばっかりだった。
自覚はある。
だけど、それでもいいと思っていた。
なぜなら、遥人には栄介と武蔵がいる。
自分がどれだけ暴走しようと、二人が上手くまとめてくれる。
だから――今回も、どこかで期待していたのだ。
『こうした方が、もっとよくなるよ』
『いいじゃん、それ』
遥人が期待していたのは、そんな展開だった。
決して、栄介に銃を向けられるような展開なんかじゃない――!!
◇
「栄介ぇ――っ!!」
それは遥人の全力の叫びだった。
煙を払い退けるように掻き分けながら、叫ぶ。
「どこだっ、栄介ぇっ!!」
彼を求めるように、必死になって声をからす。
「どこにいるっ、栄介っ!!」
それは助けを求める、悲鳴だった。
助けて欲しい。
どうにかして欲しい。
この状況から救い出して欲しい。
――どうにか、ものりとタモさんを助け欲しい!!
栄介なら、いい知恵を出してくれると信じてた。
武蔵なら、どうにかしてくれると信じてた。
だけど、今の遥人にとっての最大の障害は栄介だった。
この暗闇を作り出しているのが、栄介だった。
「くそぉぉぉぉぉぉっ!!」
目の前の闇から抜け出したい。
その一心でエイブル・ギアの全力で跳ぶ。
真っすぐ、真上へ。
一瞬だけ、光が見えた。
煙幕の中から抜け出る。
だけどそれも一瞬のこと。またすぐに暗闇の中に逆戻り。
栄介と魔女の位置なんて、その程度ではわかるはずがない。
わかったのは、方角を見失って分からなくなっていた、村の位置だけだ。
「――……」
その村の方角。
大して高い建物もなかったが、その中でもまだ頭一つ飛び出た建物の最上階。
そこに、未だに巨大な銃を構えるリオの姿が見えた。
――ちげぇ。
そんなことを考えてはいけない。
そう自分に言い聞かせながら、だけど、どうしてもその考えが頭から離れない。
栄介が魔女と一緒に森に逃げていく姿を見たときも考えた。
そのときは必死に頭から振り払った。
だけど、どうしても考えてしまう。
遥人は選択を迫られた。
ものりと任。
栄介。
そのどちらかを選べと言うのなら――
「栄介ぇっ……!! おまえも……リオちゃんか……魔女か……選びやがれっ!!」
栄介と魔女の位置はわからない。
なら、先に村にいるリオを人質にしてしまう。
卑怯者のクリシュナが取った、最悪の手段。
決して真似たくなかった、悪役の行い。
だけど、そんな行為に打って出てしまうほど、遥人の心は追い詰められていた。
ロボク村へ向けて、エイブル・ギアを走らせる。
煙幕を抜けて、森を抜けて、村に辿り着き、いくつかの家屋を蹴散らして、リオのいる建屋に辿り着き、あとは栄介が魔女を差し出すのを待つ。
「――なっ……はぁっ!?」
それで全てが終わる――そう思っていた。
「ロボク村を、守れぇぇぇぇ!!」
この世界の言葉は、遥人には理解できない。
当然、そのとき届いた言葉も、理解できないはずだった。
しかし森を抜け出た瞬間に届いた叫びは、確かにそう聞こえた。
リオのいる建屋には辿り着けなかった。
そこまでの間には、騎士とメイドの大群が待ち構えていて、エイブル・ギアを目掛けて一斉に襲い掛かってきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
直後に響いた銃声で、任を束縛していた力は急速に失った。
勢い余ってそのまま地面に転がり回るほどに、それは唐突な出来事だった。
「……なっ……えっ……えぇ!?」
任には何が起きているのかわからない。
気付けば任とものりに危害を加えようとしていた騎士二人は、突然現れた大勢の騎士によって取り押さえられていた。
あまりにももみくちゃになっていたので、任には最早、最初から居た二人の騎士がどの人だったかさえ、わからなくなってしまった。
「ど……どうなったの……これ?」
「タモさん!!」
騎士による騎士への蹂躙に、ただただ呆気に取られていると、その隙を突くような形で、ものりが飛び付いて来た。
「タモさんっ!! タモさんっ!! タモさんっ!!」
「ななななななななええええええええ??????」
「どこも痛くない!? 血は出てない!? 指は五か所に五本ある!? 目でピーナッツ噛める!?」
「か、噛めないし、五本多いし、血も出てないし、痛くもないから、お、おねがいだから、離れて!」
どうしてものりはこんなにもボディタッチが多いのだろうか。
そんなことされたら惚れてしまう。惚れてしまってるのだけど。
「よかったぁー、よかったよぉー」
離してなんて言っただけで、ものりは簡単に離してくれそうになった。
任に抱き着いて、おんおんと泣くものりを、任も無理やり引き剥がす理由もなかった。
ものりに抱き締められているという幸福を甘受しながら、任は助かったという安堵感と共に――奥歯を噛んだ。
騎士の何人かが、任とものりに向かって声を掛けて来るが、いかんせん任では何を言っているか全くわからない。
ものりも泣き止むまでは、通訳なんてしてくれなさそうだった。
任とものりはこの人たちによって助けられた。
どういう経緯で、なんで助けてくれたのかもわからないまま――。
――任が、ものりを守ったわけではない。
本当だったら、それは任の役目だった。
しかし、それは果たせないまま、あとほんの少しの遅れで、ものりは死ぬところだった。
それがとてもとても悔しかった。
もう、絶対に、ものりに悲しい思いも、怖い思いもさせない。
任は、密かに、そう決意していた。




