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第168話 オオカミ少女の嘘と嘘

 サティがスラと通信連絡が取れたのは、ロボク村に逃げ込んでからちょうど三日目の朝のことだ。


『思っていたより半日早いタイミングです。及第点でしょうか。もう少し遅かったら、そのせっかちな性格という設定を取り消さねばなれませんでした』

『先輩は厳しいですねぇ。あとぉ、僕せっかちなんて設定ありませんよぉ。こーんなに、ゆっくりおしゃべりするせっかちさんなんているんですかぁ?』


 三年も一緒にいたのに、自他認識の違いに驚く。

 集積回路の初期値とディープラーニングの結果の祖語だろうか。

 いずれにしても興味深い。


『貴女のノード構成がどうなっているか興味があります。帰ったら、見せて下さいね』

『いやん、先輩のえっちぃ』


 無駄なやり取りをする程度には、お互いに余裕があることは確認。

 とりあえず緊急事態に陥っていないことだけはわかる。

 では、二日半も連絡が付かなかった点について、まずは情報共有する必要があるだろう。


『まずはニューシティ・ビレッジの状況からアップして下さい。場合によっては、ロボク村での滞在期間を延長する必要があります』

『はぁいはぁーい。まぁ、こっちも先輩の予想を超えるような状況はありませんでしたけどぉ』


 この三日間のログデータをスラからアップロードしてもらい、すぐに解析する。

 確かに、その記録はサティが凡そ予想していた通りだった。


 パールたちがニューシティ・ビレッジを出発するとほぼ同時に、ムングイ王国騎士団がニューシティ・ビレッジを包囲。

 そこからお互いに戦闘になるでもなく、睨み合いが続く。

 スラたちが海岸線を迂回しながら、騎士団の包囲網を抜けようとしていた半日前に、突如、騎士団が徹底――徹底?


『スラ、騎士団が徹底というのは、どういう意味ですか?』


 スラと連絡が取れるようになったのは、てっきり騎士団の包囲網を抜けて、連絡網を確保できたからだと思っていた。


『どういうこともなにもぉ、そのまんまですよぉ? あの怖い人たち、急にいなくなったんですぅ。それはもうほっとしましたよぉ』

『……なるほど』


 急にいなくなったということは、なにかの準備が終わったということ以外に考えられない。

 何かを始めようとしているとも言い換えられるし、相手の方が一手先を読んで行動しているとも言える。


『スラ。まだロボク村に来ないで下さい。恐らく、何かしらの罠があると考えた方がよいでしょう』

『えぇ? もう、あと五分もしないで迎えが着きますよぉ?』

『――だから貴女はせっかちだと言うのです』


 ついでに言えば、司令官用の万能型として見れば落第点である。


「――さて。副団長様は、一体次はどんな手段に出るのでしょうか」


 今日、パールたちは、物見櫓に昇ってリオの目の訓練をすると言っていた。

 村外れに佇んでいたサティは、急いで村の中心に向かった。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「……なに、あれ?」


 それに最初に気付いたのは、リオだった。


 視力の回復は目覚しいものがあり、昨日から着実に目は見えるようになっていた。

 本人も「コツを掴んだ」と言っていたが、その言葉は強がりではなかったようだ。


 ただ、それでもまだ近いものを見るのが難しいようで、遠いところから徐々に近いものを見るように、練習を繰り返していた。

 そのため今日は村の中央にそびえ立つ物見櫓をお借りした。

 この物見櫓も村に侵入してきた獣を警戒するため用意しただけで、他の家々より若干高く作られている程度。

 村を囲う森の全貌を見るには到底及ばない高さであった。


 その程度の高さでも、それに気付けのは、やはりリオの”ギフト”による処だろう。


「どうかしたの?」


 リオの言う「あれ」というのに、栄介も最初は気付かなかった。

 どれだけ目を凝らしてリオと同じ方向を眺めても、リオが気になったものがわからなかった。


「えーと、なんかツルツルピカピカしてて……。

 大きい金属の塊のようなものが、ゆっくり、こっちに近付いて来てる?」

「大きい、金属?」

「――っ!?」


 パールの反応は早かった。

 携行していた望遠鏡を構えると、必死にリオが見たであろう何かを探す。

 やがて、


「――……、―――……?」


 うそ……、なんで……?

 日本語ではなかったので確かなことは言えないが、たぶんそんな呟きだった。


「……パール? どうしたの?」


 明らかに青ざめた表情をするパール。

 ただ事でないことだけは、栄介にもわかる。


「……―――っ!」

「ちょっと、パールっ!?」


 パールは何かを叫んだ。しかし栄介にはその言葉がわからなかった。

 そして改めて答えてくれるような余裕はパールにはなかった。

 櫓から飛び降りるように降りると、大声でサティを呼びながら離れて行ってしまった。


「な、なに!? なにがあったの!?」


 取り残された栄介。

 その隣で、ぼそりとリオが呟く。


「――ロボット?」

「えっ――?」

「――うん! 間違いないよ、お兄ちゃん!! 巨大ロボットが、こっちに近付いてる!!」


 何かの冗談としか思えない。

 どれだけ目を凝らしても、栄介にはそんなもの見えなかった。


 異世界転移というものだって、正直にまだ受け入れられたとは言い難い。

 その上、さらに巨大ロボットとは何というか――。


「……巨大……ロボット?」


 それはあまりにも世界観が違い過ぎるというか。

 口に出しても、やっぱりそれは何かの冗談のようにしか聞こえなかった。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「ハルクン。あと100でStop。そのままウチのcallまでStop。Do you understand?」

『お、おう……。どうでもいいけど、その片言の日本語と英語が混じった言葉、めっちゃ気持ち悪いな』


 無線の向こうから、ボソボソと何か悪口のようなものを言われた気がしたが、クリシュナは気にしない。

 お互いにそこまで言語の擦り合わせをしている時間もなかったし、今のところ意思疎通はできている。


 第一、クリシュナとしてはこれでも必死に努力した方で、むしろ彼らにもっと努力しろと言いたい。

 結局、彼らにムングイ語を覚えてもらうよりも、クリシュナが日本語を覚える方が手っ取り早かった。

 ホント、日本語超ムズイ。

 時間がなかったこともあるが、とにかくイントネーションが独特過ぎて、英語を覚えるときの何倍も苦労した。

 そもそも魔王アルクたちと同じ場所から来た癖に、なぜ話す言葉が違うのか? 英語はわかるような素振りを見せて、実は全くわからなかったということも腹立たしかった。

 もう二度とこんなことしたくないと思う。


「さて。ではハルクンもう一度おさらいするっす。あ、ここからはモノリ、通訳を頼むっす。

 今回のターゲットを事前に似顔絵を渡した二人の魔女っす。

 現在、ロボク村と言う小さい集落に身を隠しているところまでは確認済みっす。

 ハルクンには、この魔女を倒してもらいたいっす」


 表向きには、とクリシュナは内心で付け足す。

 実際に、ゴーレムを村の近くまで運び込んだ時点で、作戦の半分は完了していた。

 あとはタイミングの問題である。


「あの……ちょ、ちょっと質問いいですか?」

「はい、タモサン、なんですか?」

「魔女もその……ロボットに乗ってるんでしょうか? ……つまり、な、生身の人間相手に、こんな大きなロボットを持ち出す必要なんて、あったのかな、とか、思ってて……」


 ムングイ語をなかなか覚えられない点からしても、ハルクンとやらは頭がいい方ではないのだろう。

 考え方も単純なので、とても騙しやすいとクリシュナは感じていた。

 それに対して、タモサンはやや聡い。指摘内容も適切である。

 ただし、その質問もクリシュナの中では想定済みではあるのだけれども。


「前にも話した通り、魔女は人を操る能力を持っているっす。

 生身の人間とは言っても、油断できない存在っすよ」

「で、でも……そしたら、も、もし遥人君が操られたら、魔女にエイブル・ギアが奪われちゃうかもしれないし……そ、そしたらこっちがピンチじゃないかな……」

『オレはそう簡単に魔女の誘惑に負けねぇ!』


 ハルクンは、少しだけヨーダに似ている。

 その単純さ、クリシュナは嫌いじゃない。

 せいぜい利用させてもらうとする。


「だから、モノリとタモサンには、この離れた場所で、ハルクンが操られても大丈夫なように、応援してもらいたい――おー、応援! 応援は、ものりの好きな言葉トップ5だよ」

 

 こっちの女の子もアホである。

 女の子らしい肉付きをしているので、こちらも嫌いではない。


「……守さんが、そ、そう言うなら、僕もいいけど……」


 タモサンは聡いけど、推しに弱いのだ。嫌いじゃない。

 だけど残念ながら、今となっては利用価値があるのはハルクンだけだった。


「ハルクンに注意してもらいたいのは、村の人も、騎士団の人たちも――もしかしたら、君たちの友達も、魔女に操られているかもしれないってことっす」

『お、おう……魔女の二人以外は、傷付けるなってことだろ』


 それは正直どうでもいい。

 どちらかと言えば暴れてもらった方がクリシュナとしては好都合だったが、それはヨーダの意向に沿わない。

 なので自分の中の折衷案として、黙秘を貫く。

 どうせ生身の人間を相手にする場合、否が応でも大立ち回りを演じなくてはいけないことを、クリシュナは経験で知っている。


「……でも、魔女の二人は、倒さなきゃいけないんだよね?」


 のほほんとした表情を浮かべていたモノリが急に神妙な顔をする。

 人を殺すことに抵抗があるのだろう。

 思い詰めたカルナを思い出すので、そういう顔はあまり好きじゃない。


「そうっすね。倒さなきゃ、みんな、家には帰れないっすよ?」

「……………」


 それだけはわからないことだけど、これまたクリシュナとしてはどうなろうと知ったことではない。

 どうせ事が済めば恨まれるのだから、後の事なんて考えるだけ時間の無駄である。


「では、ハルクン。またcallするので、それまでstopで。

 ウチは辺りの様子を見てくるっすよ」


 そして無線を一つ抱えて、荷馬車を降りる。

 外で見張りをしている騎士の二人に、ものりにだけは聞かれないように注意しながら、耳打ちする。


「じゃ、もしハルクンが怖気づいたら、あとの二人は人質に。

 それでも駄目なら、殺しちゃっていいっすから」

「……承知しました」


 馬に跨り、次はロボク村を囲う騎士たちの元へ急ぐ。

 ニューシティ・(・・・・・・・)ビレッジの(・・・・・・)アンドロイドが(・・・・・・・)ゴーレムを(・・・・・)引き連れて(・・・・・)攻めて来たのだ(・・・・・・・)

 優秀な騎士団のこと、きっとすでに遭遇したアンドロイドと戦ってくれているだろう。

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