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第160話 見え過ぎるって気持ち悪い

「パールってば、なんでここに来てんのに、会いに来てくれないわけ?

 というか、三年も連絡ないなんて、友達甲斐がないもんだわ、まったく。

 そもそも病気はもう治ったの? パティはずっっっっと心配してたのに、それくらい報告くれたっていいじゃないのよ。ねえ、そう思わない?」


 と、パティ様は大変ご立腹の様子ですとサティは言った。

 パールとパティがどのような友人関係だったのかわからない以上、栄介としては「はぁ」としか答えようがなかった。


 ――というか、やっぱりパールって病気してたんだ。


 昨日、飲んでいたのは、その薬なんだろうということだけはわかった。


「それで、そのパールは今どこにいるの?」


 辺りには、ここに暮らす村人のほとんどが集合していると言う。

 皆、大きな鍋にくべられた具材を分け合い、車座に座って朝食を食べていた。

 まだ出来て間もないこの村では、作物が十分に採れないため、村人全員が三食集まって炊き出しのようなことをしているらしい。

 詳しくは聞けなかったが、前の村は魔王にやられて住めなくなったとか、なんとか。


 そこに栄介たちも混ざり、一緒に朝食を頂いていたが、パールの姿はどこにも見当たらなかった。


「お嬢様は日の出と共に、どこかへと出掛けてしまいました。それ以降、戻られていません。

 私も探しているところでした」


 一人でどこかへ行ってしまったということだ。

 サラスもここにいて、今はサティが彼女にスープを飲ませていた。

 スプーンを口に運ぶと、びっくりするぐらい緩慢な動きでスープを啜る。

 相変わらず焦点の合わない目で鍋の火を眺めているし、啜り切れないスープは口元から零れてもいたので、人形に食事を与えているようにも見えた。


「え、それってまずいんじゃないの?」


 一人で村の外に出れば、いつ騎士団の人たちに襲われるかもわからない。

 こんなところで呑気にスープなんて啜ってる場合じゃないように思えた。


「いえ。さすがに村からは出ていないと思います。

 恐らく、パティ様と顔を会わせたくなく、逃げ回っているのではないかと思われます」

「この子、友達って言ってるけど、パールはそう思ってないってこと?」


 パティを見ると、何か文句を言っている。

 こちらの言葉はわからないようなので、たぶん「なに話をしてるか教えなさい」ではないかと思う。


「いいえ。そういうわけではないです。

 久しぶりにご友人と会うのが怖くなってしまったのかと思います」

「ああ、それはちょっとわかる」


 一か月ぶりに会った武蔵は人が変わってしまったようだった。

 道場も辞めてしまってからは、なんとなく武蔵と会うのは避けていた。

 パールもきっとそれと似たような状況なのだ。


「というわけで、引き続き探しに行きます。

 パティ――、サラス――――、―――――?」


 ――サラス様のこと、頼めますか? かな?

 先ほどからパティは興味深そうにサラスの食事姿を眺めていた。

 パティは嬉しそうにスプーンを受け取ると、サティの代わりにサラスに食事を与え始めた。

 ただ、慣れてないのか不器用なのか、掬ったスープはほとんど口元から零れ落ちている。


「あ、ボクも一緒に探しに行こうか?」

「いいえ。お嬢様が本気で逃げ回っているのであれば、恐らく私でしか探せません。

 栄介様は妹様への事情説明もあるかと思いますし、サラス様のご様子も見ていて頂きたいので。

 ここは私一人で結構です」

「あっ、うん……」


 パティの乱入で、結局、リオには何も話ができていない。

 目隠しされながらも、器用にちびちびとスープを啜るリオの様子は、どこか拗ねているように見えた。


「……お兄ちゃん。とりあえず、この目隠し外してもいいですか?」


 サティが立ち去ったのが気配でわかったのか、タイミングを見計らってリオがそう切り出してきた。

 そう聞かれても判断に悩む。

 この”ギフト”と呼ばれる力が何なのか未だによくわからない。

 かと言って、いつまでも目隠しというのは、生活にも困ろう。

 サティはオンオフ切り替え可能と言っていたので、試しに外してもいいのかもしれない。


「もし、気持ち悪くなったら、目を瞑るんだよ?」

「えー……それって、なに、どういう意味?」


 栄介にもリオに起きていることが正確にはわからない。

 その質問に答えるより、とにかく一回、目隠しを外してしまった方が手っ取り早いだろう。

 案外、もう全然平気ということもありえる。


 そう思って、目隠し用にリオの頭に巻いたハンカチを解く。

 目隠しの下で目を閉じていたリオは律儀に尋ねる。


「あ、開けてもいいですか?」

「うん」


 栄介の返事を待って、リオは恐る恐る目を開く。

 そして驚いたような表情で、正面に控えた栄介を見つめること数秒。


「……どう? 大丈夫?」

「……オ」

「お?」

「オロロロロロロロロロ」

「うわっ!?」


 盛大に吐いた。

 これには近くでサラスに食事を与えていたパティもびっくりして逃げ出した。


「ちょっ!? えっ!? 大丈夫!?」

「ううっ……なに、いまの……お、おにいちゃんが、ブヨブヨの……お、おえっ……ウジャウジャした虫の集まりみたいな……オロロロロロ」


 目は瞑ったみたいだが、再び思い出し嘔吐。


 栄介が背中を摩ってあげていると、先ほど逃げ出したパティが戻って来て、


「――っ!! ――!!」


 水の入ったお椀を差し出してきた。

 逃げたわけではなく、これを取りに行ったのだろう。


「ありがとう! ほら、リオ、水だよ。これで口を濯いで」


 目を瞑ったままのリオに、どうにかそれを持たせながら、栄介はこれは前途多難だと感じていた。

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