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第158話 この世界の命運は、キミたちにかかってる

「また森林浴……」


 朝食後、クリシュナに連れて来られた場所は森の中だった。

 昨日の森とは同じかどうかもわからない。

 町を出てしまうと、馬車から見える景色なんてどこも似たようなものだった。


 ちなみに運転手は今回も遥人が務めた。

「なんで、オレが?」と文句を言いながらも、馬を駆るのは面白いようで満更でもなさそうだった。


「ここからは馬車じゃ行き難いから、ちょっと歩くっすよ」

「ちょ、ちょっとって?」

「ほんの三十分くらいっす」

「うへー」


 この暑さで三十分も歩いたら、日射病で倒れてしまいそう。


「そんなに厚いなら、もっと薄着にすればどうっすか?」


 確かに、そういうクリシュナは薄布をまとわりつかせたような、すごく涼しそうな服装をしている。


「薄着は……ノーサンキューで!」


 涼しそうではあるが、かなり透けてもいる。

 カルナのアマゾネスみたいな服装もそうだったが、ここの衣装はかなり大胆だ。

 遥人は鼻の下伸ばしてみっともなかったし、任も目のやり場に困っていたのがよくわかった。


 カルナの服装は論外だが、クリシュナの服は可愛いと思う。

 しかし、男子の目がある中では、ちょっと嫌だなと思うのだった。


「まっ、三十分なんてすぐっすよ。

 退屈させないように、うちがちょっとした小話を披露してあげるっすよ」

「それ、ものりしか聞けないよ」


 不思議なことにそういうことになっているらしい。

 明らかに日本語なのに、遥人と任には彼女たちがなにを言ってるか全くわからないらしい。

 担がれているような気分で、これがドッキリである可能性を僅かに感じさせる最後の希望でもある。


「じゃ、お嬢さんが通訳して」

「えー、めんどー」


 ものりの文句を無視して、クリシュナはそそくさと森の奥へと入ってしまった。


「……なんだって?」

「……めんどー」


 事情がわからない様子の遥人と任に、「とりあえず着いてこう」とだけ告げて、渋々後を追いかける。


 そこは不思議な場所だった。

 一度切り開いて道にした後、わざわざまた大木を切り倒して塞いだような感じで、大木を避けるようにくねくね移動しなくてはいけない。

 まるで迷路である。


「んではでは、昔話のはじまりはじまりー」


 どこに連れて行こうとしているのか気になったが、それを聞く前にクリシュナがそう話を切り出していた。


「むかーしむかし、あるところ、この世界を滅ぼそうとするわるーい魔王が住んでいたっす」

「……えっ? ま、魔王?」

「はい、通訳、通訳」


 不満はあったが、言われるがまま遥人と任に対して通訳を始める。

 冒頭の通訳でものりと同じような反応をする遥人に、肩を竦めて返した。


「魔王はつよーい力を持っていたっす。

 一瞬で大勢の人の命を奪う、魔法の杖と呼ばれる力っす。

 この世界の人は、魔法の杖に為す術もなく、残虐非道な魔王の行いに堪えるしかなかったっす。

 しかし、この世界の人たちは、ある英雄の存在を信じていたっす。

 それは古い王様が後世に残した予言。魔王を追い出してくれると言われる”黄色い人”の存在っす」


「それって、もしかしてオレたちのこと!?」


 興奮したように口を挟んだのは遥人だ。

 話の流れからすれば、そう考えてもおかしくはない。

 そしてそれが本当なら、自分たちはマンガやゲームのような世界に入り込んでしまったのだと。

 やや内容も発想も子供染みていて、ものりはちょっとついていけない気分ではあった。

 案の定、遥人の期待は外れる。


「今から五年前、ついに”黄色い人”が現れたっす」

「五年前かよっ」


 つい昨日現れたばかりの自分たちでないことは間違いない。


「”黄色い人”は”勝利の加護”と呼ばれる力を女神ラトゥ・アディルから授かり、この世界へとやってきたっす。そして、その力で魔王に戦いを挑んだっす。

 戦いは苛烈を極めたっす。この国のお姫様も犠牲となってしまったっす。

 しかし三年前、とうとう魔王は”黄色い人”によって倒されたっす」


 一体なんの話を聞かされているのだろうか?

 遥人が期待したように、自分たちが選ばれた者で、これから魔王を倒せと言われる流れかと思えた。

 しかし魔王がすでに倒されているのであれば、これば本当にただの退屈しのぎの小話に過ぎない。

 だとすれば、そろそろ突っ込むべきか? 退屈な話で退屈しのぎになりません。

 そう思っていた矢先、クリシュナはその名前を告げた。


「”黄色い人”の名はミヤモトムサシと言い、魔王を倒したミヤモトムサシは元居た世界に帰っていきました」

「え、みやむー!?」


 同姓同名の有名人がもう一人いるので紛らわしいが、この場合のミヤモトムサシとは、ものりたちのよく知るミヤモトムサシである。

 昨日、カルナの反応からしても、ここに武蔵がいたことは間違いなかった。

 カルナはそのあと、馬車から落ちてしまった恥ずかしさからか、それとも別の理由かわからないが、難しい顔で黙り込んでしまったので武蔵のことを詳しく聞けなかった。

 まさか魔王退治をしてただなんて――。


「ちょっ、ちょっと待ってよ! それって五年前から三年前の二年間の話なんでしょ!?

 武蔵君って、そのときも行方不明だったの!?」

「……んー?」


 ここまで黙って聞いていた任が叫ぶ。彼にしては珍しく興奮した声だった。


 そして任の言う通り、確かに変な話だった。

 五年前から三年前であれば、武蔵は元気にものりたちと飛び回っていた。

 飛び回りすぎていろいろ壊したり、問題を起こしたりしているので間違いない。


 それをものりからクリシュナに聞くと、


「え、アンタらってミヤモトムサシの知り合いじゃないんすか?」


 クリシュナもまるで騙されたと言うような、そんな驚いた顔をしていた。


「……アルクが三百年で……お兄さんが一年半で……あっちからしたら、もしかして……」

「ええっと……それで、そのー、その話はなんなの……?」


 ぶつぶつ独り言を言うクリシュナに声を掛ける。

 クリシュナも当てが外れたような雰囲気だが、ものりたちからすれば最初から置いてきぼりを食らっている状態である。

 武蔵の名前が出た以上、それは余計に生殺しのような状態になってしまった。


「ま、まあ、今の話の大事な部分はそこじゃないっす」

「あっ! そうか、魔王を倒した武蔵君が元居た世界へ帰ったって――」


 任が再び叫ぶと、遥人もつられるように叫ぶ。


「じゃあ、オレたちも魔王を倒せば帰れるってことか!?」


 ますますゲーム染みたい話になってきて、浮かれる男子二人にものりは付いていけない。

 あまり得意ではないのだ、ゲーム。

 ものりとしては、今の話を聞いた限りでは、やっぱり何かの大型ドッキリイベントに巻き込まれた可能性がますます高まって来たように思えた。


「でも、魔王は倒されたって話だったよね?」

「んなもん、実は生きてたって流れに決まってんだろ! そういうもんだろ?」


 そういうもんなの? よくわかんないけど。

 クリシュナに尋ねる。


「んー、まあ、それでもいいっすけど……」


 それでもいい?


「魔王にはまだ仲間が残っていたっすよ。

 魔王の娘の魔女と、もう一人の魔女。

 二人の魔女は、人を操る能力を持っていて、その力で再びこの国を陥れようとしているっす」


 なんか胡散臭さが増してきたなぁと、半眼で睨むものりに対して、クリシュナは早く通訳と手で催促する。


「つまり、その魔女二人を倒せば帰れるってことか!?」

「――その通りっす」


 遥人が「なるほど」と唸る。

 任からも珍しくワクワクしているような雰囲気が滲み出ていた。

 こういうところだよ、男子が単純だって言うの。


「で、でも、魔女を倒せっていきなり言われても!

 ものり、みやむーやえーちゃんみたいに、武道習ってたわけじゃないよっ?」

「そこは心配いらないっす。

 そのための武器を渡すために、ここまで来てもらったんすよ」

「武器?」


 そのときちょうど森が開けた。

 切り開かれたというよりも、そこへそれを押し込んだために、無理やり開いたという雰囲気だった。


「おっ――」

「え――」


 遥人と任がその姿を目にして、思わず息を呑んでいた。


 そこに横たわっていたのは人型の模型。

 倉知が以前、そんなものを作っていたような気がする。

 ただし、それよりも何倍も何十倍もでかい。

 それは誰が見ても明らかな、巨大人型ロボットだった。


「「おおおおおぉぉぉぉぉっ」」


 遥人と任が二人して興奮のあまり変な声を上げていた。

 だから、そういうところだぞ、男子。


「キミらには、これに乗って魔女と戦ってもらうっす!

 この世界の命運は、キミたちにかかってるっす! 期待してるっす!」

「「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 ものりはこのときになって、ようやく確信した。


 ――あ、これ、百パーセント、ロボット展のイベントだ。

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