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第157話 いいところに連れてってあげる

 ――八十パーセントくらい。


 何のことか?

 ものり社比のヤバイ状況指数である。

 任が馬に撥ねられた瞬間が九十五パーセント、そのあとひょっこり起き上がった瞬間が十パーセント、ムングイ王国に辿り着いた瞬間が六十七パーセントである。


 ちなみに人生最高のヤバイ状況指数は、髪の毛をぱっつんにしようとハサミを入れ、結果的には前頭部を伐採した瞬間である。三百パーセントオーバー。


 最初から、おかしいなー、あやしいなーとは思っていた。

 ただ、ものりの中ではドッキリの可能性四十パーセント、イベントの企画である可能性三十パーセント、夢である可能性二十パーセントくらいの配分でオッズしていた。拉致事件である可能性が大穴だった。


 朝が来て、夢である可能性が薄くなってきた今、大穴は夢馬券である可能性が高くなり、こんなところで運を使い果たしたくはなかったと絶望感に苛まれた結果、ものりは一つの境地に達した。


「ナシゴレン、まいうー」


 現実逃避である。


 広めの空間に、広めのテーブル。

 二十人は裕に腰掛けられる木造テーブルに、ものり、遥人、任の三人は並んで座って朝食を頂いていた。

 朝食――なのだと思う。時計がないので、時間間隔に自信がなかった。

 聞けば、城の真正面に括りつけられた大きなものしか、時計はないらしい。

 ケータイは昨晩バッテリー切れ。充電器は持ってきていないし、それ以前に電気がなさそうだった。

 そもそもずっと圏外になっていたし、真っ昼間に夜中の三時を示していたので、とっくに壊れてしまったと思う他なかった。八十五パーセント。 


 正直に言うと、朝食はあまり美味しくはなかった。

 不味いわけではないが、倉知家の定食屋で食べるチャーハンの方がおいしかった。

 添えてある葉っぱは食べていい葉っぱなのかも判断つかない。


 それでも美味しいと言って、がっつかないとやってられない気分だったのだ。


「駄目だこいつ……早く何とかしないと……」


 遥人が冷めた目で見ているが気にしない。

 バカにされるのは慣れているし、それで少しでも楽しい雰囲気が戻ってくるのなら、いくらでもバカをやろう。


「あー、やっぱ、口に合わなかったっすか?」


 ものりたちの正面に座る人物に声を掛けられ、背筋が一瞬で伸びる。

 どこか人懐っこそうな雰囲気でニヤけ顔を浮かべるクリシュナに、慌てて手を振る。


「そんなことないす! とってもおいしい!!」

「無理しなくてもいいっすよ? お嬢さんらはもっと衛生的な場所で、もっと管理された食べ物食べてきたことは知ってるっす。うちもそっちの方が好きっすよ。ほら、あれ、ハンバーガー? あれ、うち、結構好きっす」

「ものりも好き。ものりはモス派でナチュラルカット派」

「うちはだんぜん鷲掴み派っすね。知り合いは汚れるからってナイフで切り分けてたっすけど、あれは邪道っすね」

「わかるー。飛び出たソース付けるのが美味しいんだよ。ツイスターを広げて出てきたソースをチキンに着けて食べると背徳感がある感じ」

「わかるっす。具が飛び出ないように、最初に押しつぶしたりするんすけど、それもまた背徳感があるんすよね」

「……負けた」


 何に? 自分でもよくわからなかった。

 たぶん突っ込み待ち選手権か何かだと思う。


「セコンド、仕事してよー」

「……いや、二重の意味で何言ってるかわかんなかったし」

「ええっと……守さんは、カーネルさん派?」

「二人とも、しっかーく!」


 遥人はますます冷めた目を向け、任はますます狼狽するので、ものりが代わりに笑う。

 少しでも明るく。でないと泣き出しそうになる。

 それなのに、


「三人とも面白いっすね。まっ、うちもお嬢さんの言葉しかわかんないっすけど」


 クリシュナのニヤニヤした顔に、不思議と恐怖を覚える。

 人に笑われるのは、むしろ好きな方である。

 例え馬鹿だなーと笑われても、それで場が和めばものりはオーケーなのだ。


 ただ、クリシュナのニヤけ顔はそういうものと違うように思えた。

 馬鹿してると言うより、小馬鹿にしている。観察して楽しんでいる。

 すれ違うおじさんにジロジロ見られる気持ち悪さに似ていると、ものりは感じた。


「あのー、カルナさんは?」

「カルナはお仕事っす。忙しいから、今日はうちで我慢するっすよ」

「あははは、我慢だなんて」


 ものりの心情は人類、皆、兄弟だ。

 何事も話し合いが解決できると信じている。


 ただ、できることなら、話をするならカルナがいいなと思ったのだ。

 ちなみにムングイ王国へ辿り着いて真っ先に挨拶をした王様は、正直、クリシュナより怖かった。


 ものりの脳内王様は、白馬に乗ったスマートでスタイリッシュなものか、ふくよかで「ふぉっふぉっふぉっ」と笑うようなイメージだった。

 しかし、ここの王様は淀んだ目をした益荒男だった。

 深い目のクマが物語るのは、餓えた獣か、そうでなければ余程心労がたたっている可哀想な人である。

 ものりは前者と判断した。


「無理しなくていいっすよ。

 でも、我慢してくれたら、うちがいいところに連れてってあげるっす」

「い、いいところ?」

「ふっふっふっ」


 うわー、ますます怪しいおじさんだー。


「アンタらも、自分が置かれた境遇が気になる所っしょ。

 まっ、それをうちが教えてあげるってだけっすよ」


 胡散臭さがすごい。

 だけど、クリシュナの言う通りだった。

 それが拒否できないほどに、ものりたちは自分が置かれた境遇というのが気になっていた。

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