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第153話 コロスこと

 シュルタたちの任務は二人の魔女を見つけ次第、殺すこと。


 とある伝手から二人の魔女がムングイ王国へ向けて移動を開始したとの情報があった。

 何のためにムングイ王国へ向かっているのかは定かではないが、魔王と共謀して亡国を企てた魔女である。また同じことを企んでいる可能性が高い。

 よってこれをムングイ王国へ入り込む前に阻止すべく、二人の魔女の予測移動順路上で待機。

 見つけ次第、これを打ち取ること。


 騎士団の中には親バリアン派や中立派もいるため、騎士団の士気は低かった。

 そのため本作成においては、志願者だけで編成された舞台で目標地点に向かった。


 当然、シュルタも志願しての出陣であるが、彼だけが他の騎士団と目的が違った。


 志願制ということもあり、魔女や魔王に恨みを持つ人物は多い中、レヤックを気に掛ける人物はほとんど皆無と言っていい。

 元からレヤックは嫌われ者だ。

 バリアンのついでに殺したところで、誰も気にならない。


 そんな中でシュルタだけが、パールのことを気に掛けていた。


 魔法の杖の毒を治療するためと、パールと別れてから三年以上が経つ。

 子供だったシュルタたちは、パールがレヤックであることはなんとなくわかってはいたが、その危険性というのを理解していなかった。

 大人たちにやんわりと「近付くな」と注意されていたが、パールがサラスの保護下にあったこともあり、あまり強く言うことが憚られていたというのもある。


 レヤックとはなにか?

 それを正しく理解できたのは、パールと別れてからずっと後のことだった。

 その頃には、彼女はもう二人の魔女の片割れとして悪名が轟いていた。


 人を操る魔女。人をたぶらかす魔女。人の魂を貪る魔女。


 おどろおどろしく語られるレヤックの存在は、しかしシュルタの知るパールの印象とは大きくかけ離れていた。

 そして他社と自分の認識が乖離すればするほど、気掛かりになる。


 パールとはなにか?


『別になんだっていいじゃない。パールはパールよ。

 そんなに気になるなら、本人に聞けばいいじゃないのよ。

 あ、パティはムサシとどうなったのかの方が気になるわ』


 幼馴染の少女にはそう言われて突き放された。


 でも気になるのだ。

 人を操る魔女。


 ――果たして、オレの気持ちは、どこまでオレのもんだったのか?


 パールのことは友達だと思っていた。

 だけど、それは操られた気持ちだったのではないのか?


 そしてパティのことは――?


『そんなに気になるなら、本人に聞けばいいじゃないのよ』


 パティの言う通りなのかもしれない。


 シュルタが今回の作戦に志願したのは、パールと会って話がしたい、それだけのために志願したのだ。

 それでもし本当にシュルタもパティも操られていたのだったとしたら……。




「おい、新入り、ぼさっとすんな。現れたぞ」

「――っ!?」


 部隊長の声で我に返り、シュルタは慌てて正面を見据える。

 そこに現れたのはエプロンドレスの機械人形。

 シュルタもよく知っている顔だった。


 サティも一通り人数を確認するように辺りを見回している最中、シュルタにだけははっきりと目を合わせていた。


「これは――うまくやらないとお嬢様に怒られますね」


 そう言ってスカートの中からサティが取り出して構えたのは――


「……すりこぎ棒?」

「素手で殴っても死んでしまうことがありますからね、貴方たちは」

「――なめやがって!!」


 それを目にした一人が、大剣を手にサティに襲い掛かる。


「おい! 待て!」


 彼も決して油断していたわけではないだろう。

 相手は機械人形だ。

 その見た目に反して、猪だって簡単に殴り殺す。


 一人で突っ込めばどんな目に合うか、


「ぐふっ」


 大剣を振り被った隙に、サティは彼の懐に潜り込む。

 空いた脇腹にすりこぎ棒を突っ込まれ、派手に吹き飛んだ。

 地面に叩き付けられた彼は、もんどり打って地味に痛そうだった。


「銃撃隊は距離を取れ! 前衛もむやみに近付くなよ! 攪乱して時間稼ぎする!

 新入り共は散会して辺りの捜索! 目標は機械人形ではなく魔女だ! 見つけ次第、大声か銃声で位置の報告!!」


 一人欠けはしたが、部隊長は冷静だった。

 的確に指示を飛ばす。


「その作戦は厄介ですね。とりあえずは一番頭のいい人を潰しましょう」


 ただ部隊長もそこまでだった。

 獣の瞬発力を思わせる脚力で、部隊長に肉迫したサティは、これまた部隊長をすりこぎ棒の一撃で沈めていた。


 しかし、それでも指示は通っている。


「散会!! 散会!!」


 隊員たちは全員で声を掛け合いながら散り散りにサティから距離を取る。

 ピストルで適度に彼女に向けて発砲する者もいれば、中にはほとんど逃げているのではないかと思うほど全力で彼女から離れている者もいる。


 シュルタも彼らに習って全力で走る。


「……これは、本当に不味いですね」


 後ろでサティがそう呟く声が聞こえたような気がした。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 銃声が少しずつ減ってきている。

 戦闘が徐々に終わろうとしているのだろうか?


 ――サティさんも、パールも、無事だといいけど……。


 栄介は結局、パールの後を追わなかった。


 リオとサラスをもう少し藪の生い茂る場所まで移動させて、少しでも見つかり難くした。

 ただ栄介までそこに隠れてしまっては、パールたちと合流できなくなってしまう可能性もあった。

 なので、自分だけは元居た場所で待機していた。


 一人で待機していると、パールのことを追えばよかったという想いが沸々と沸き上がる。


 栄介はいつもこうだった。

 何をするにしても、後からこうすればよかったと思うことが多い。

 優柔不断なのだ。

 周りから優秀だと言われていても、栄介にはちっともそんな自覚はない。

 だからこそ、スパスパと物事を決めてしまう真姫に憧れたし、ここぞと言うときには思い切りのいい武蔵が羨ましく思えた。


 ――武蔵なら、きっとサティさんが向かったときに、すぐ追っかけただろうな。


 この世界で魔王を倒したであろう武蔵。

 真偽は定かでないとサティは語ったが、栄介は倒したんだと確信している。

 何となく、そういうことをやり遂げてしまう人物であると、栄介は感じていた。

 一か月ぶりに帰って来た武蔵に、剣道で全く歯が立たなくなったのも、そういうことなんだと思う。


 武蔵は――英雄になる素質がある。

 名前の印象だけじゃなく、そう感じる点がいくつもある。


 それは父も感じていたからこそ、武蔵に期待を寄せていたのだ。


 ――義理の息子である、ボクにではなく。


「別に、どうでもいいけどね」


 剣道なんて、最初からやりたくはなかった。

 栄介としては、剣の道よりもミリタリーの方に興味があった。

 それは父もわかっていたことだ。

 だから、剣道を真っ当に取り組んでいた少年――それも”宮本武蔵”を気に掛ける理由もわかる。


 だから――


「……本当に、どうでもいい……ん?」


 何かが動いたような気がして、そちらに目を向ける。

 それが気のせいではないことを証明するように、ガサガサと木の葉が擦れるような音も聞こえた。


 ――パールたちが帰って来たのかな?


 銃声が聞こえる中、一人でいることへの心細さというのもあった。

 栄介は咄嗟的に、無警戒で音のする方へ足を進めた。


「パール?」


 呼び掛けながら、藪の向こうへ声を掛けた。

 しかし、思い浮かべていた少女とは似ても似つかない、レザーアーマー姿の屈強な男がそこにはいた。


「――!?」


 相手も警戒していたのだろう、突然出てきた人影に驚いて、手に持っていた拳銃を咄嗟に向けた。


「あ――」


 ヤバイと思ったときには、もう手遅れだった。

 外すのも難しい距離。

 そんな至近距離で、銃声が響いた。

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