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第148話 チートⅣ 堅牢の加護

 わかったこととして。

 ブロンドの髪の長い女性――カルナと会話できるのは、ものりだけだった。


 カルナは遥人と任の言葉がわからないみたいだった。

 にも関わらず、ものりの言葉はちゃんと理解していた。

 みんな同じ日本語を喋っているにも関わらず。


 そしてもっと謎なことに、


「んもーっ。どうしてわっかんないかなっ。どう聞いたって日本語じゃん」

「どう聞いたって日本語じゃねーよ!」

「はる君……とうとう日本語もしゃべれなくなったの?」

「しゃべれるわ! つーか、しゃべってんだろ!」

「じゃあ、どうしてわかんないの? 日本語だよ? に、ほ、ん、ご」


 ものりはそう言い張るのだ。

 これはどういうことなのか、全くわからないまま、遥人とものりはただひたすらに平行線を辿る主張を繰り返しながら、黙々と馬を引いて歩くカルナの後に続く。


 どこに向かっているのだろうか?

 カルナへ聞こうにもお互いに言葉はわからないし、仮に言葉がわかったとしても任のコミュニケーション能力ではそもそも聞く段階で躊躇してしまう。


 肝心のものりは「とりあえず着いてこーよ」と言うだけだった。


 しばらく進み。

 森を抜け、開けた場所に出た。


「ぅぁ……」


 思わずそんなうめき声が漏れた。

 そこにはカルナと同じようなビキニアーマーを着た女性や、レザーアーマーで逞しい肉体を覆い隠した男性、合わせて数名がたむろしていた。

 みんな思い思いに散らばっていたが、カルナが現れると慌てて一斉に整列していた。


 その光景に、任は声に出来ない驚きを感じていた。


 ――これは……! 間違いない……!


「……映画の撮影か?」

「いや! 異世界召喚ものだって!!」

「あ?」


 遥人の何の捻りもない感想に、思わず大声で上げてしまい、慌てて口を塞ぐ。


 確かに現実的に考えて、異世界召喚なんてありえない。

 だけど、都会のど真ん中から、一瞬で森の中に飛ばされて、兵士数名に取り囲まれるなんて、そもそも現実的な出来事とは思えない。


 ラノベやアニメでよく見る、異世界召喚もの以外に考えられない。


 ただそんな非現実的で、なんなら空想したことだってある世界の中にいて、任の心境としてはワクワク以上に不安の方が勝ってしまった。


 なぜなら目の前に広がる景色があまりにもリアルだったからだ。

 任の空想していた異世界召喚は、もっとふわふわしたものだ。優しさと可愛さで溢れたものだ。

 しかしここは、あえて例えるのなら、洋物のファンタジーゲームの中のような、そんな殺伐とした雰囲気があった。


 兵士たちが任たちを見る目もどこか殺気めいたものを感じる。

 近付けばその腰に携えた大剣で叩き斬られるのではないかという気配。


 カルナが兵士たちの下に近付くと、代わりに一人の兵士がこちらに近付き、警戒するように任の脇に控えた。


「……なぁ、これドッキリかな? カメラどっかに見えるか?」


 そうであって欲しい。

 遥人が耳打ちするのを、任は黙ったまま首を振った。


 カルナは兵士数人と何かを話し合っていた。

 時折、任たちに視線を送るので、彼らをどうするか話し合っているのだと思うが、せめて処分するかどうかの話し合いでないことだけを祈る。


「オイ、なに話してるかわかるか?」

「えー……。遠くてよく聞き取れないよ……。

 でも、魔女が追跡でどうとか……」

「魔女? ものりのことか?」

「ものり、魔女じゃないもん」

「いーや、この中で女って言ったら、ものりだけだろ」

「ね、ねね、ねぇ、あ、あんまり、うるさくしてると……」


 先ほどから兵士たちがこちらを睨みつけてくる頻度が上がっていることに気付き、任が二人に声を掛けると、


「――っ!!」

「ひぃっ」

「ひゃっ、あ、ご、ごめんなさいっ」


 任のすぐ隣に控えていた、兵士が大剣を抜いて恫喝して来た。

 ここに兵士の中では、まだ比較的に幼く、年の頃も任たちとそう変わらない少年兵だったが、とにかく手にした大剣が怖い。

 ものりも即座に謝っていた。


 しかし、この状況に納得がいかない人物が一人。


「なぁ、オイ。そろそろネタばらしがあってもいんじゃないか?」


 遥人は――勇敢なのか、無謀なのか――大剣を抜いた少年兵に対して異議を唱えた。


「ドッキリだって、あんましつけーと笑えねぇだろ。

 大体、オレらシロート捕まえて、こんなことして何が面白れーんだよ。そろそろお開きにしようぜ?」

「――っ、――っ!!」

「あー、もう、そういうのもいいから。日本語話せよ。

 ロボット展のイベントかなんかだろ?

 ものりみたいな天然に仕掛け人頼む時点で、どっか抜けてんぜ」

「は、はる君?」

「――――――――――!!」


 遥人の態度に、少年兵はますます語気を荒らげる。

 何を言っているかわからないが相変わらず怖い。

 任としてはせめて自分を挟んで言い争うのだけは早々に止めて欲しいと願う。


「だからよーっ!」

「――――――!!」

「え――」


 ついに堪え切れなくなったか、少年兵は大剣を掲げた。

 その切っ先は――


 ――え、なんで僕!?


 任がそう思うが否や、大剣は真っすぐに任目掛けて振り下ろされていた。


 咄嗟に両腕を上げて庇う。

 しかも大振りの剣が、その程度で防げるわけがなく。

 大剣は任の両腕に触れて――


「――っ!?」


 鈍い金属音を響かせながら、大剣は根元からぽっきり折れてしまった。


「……………え?」


 その場にいる全員、何が起きたか理解できなかった。

 ただ遥人だけが、


「ほら見ろ、ハリボテなのにそんな振り回すから、簡単に折れちまった」


 勝ち誇ったかのようにそう言うのだった。


「シュルタっ!」


 呆然とする少年兵に慌てて駆け寄るカルナ。

 その後、カルナから二、三、何かを告げられると、少年兵は他の兵士たちとトボトボと合流。

 そして、カルナと一台の荷馬車を残して全員が森へと消えていった。


「……――――――、――――――――――――。――――?」

「あ……うん」


 カルナはものりの返事を確認すると、三人に向けてまるで品定めするかのような視線を向けてから、荷馬車の方へと歩いて行ってしまった。


「ん? 解散?」

「カルナさんが、城に連れってってくれるって。シンデレラ城かな?」

「シンデレラ城? 帰れんのか?」

「わかんない」


 ものりと遥人の会話を聞き流しながら、任は恐る恐る先ほど折れてしまった大剣の穂先に触れる。

 指先には冷たい感触が返ってきた。

 デコピンの要領で突いてみれば、聞き間違いない金属音。

 段ボールのような柔らかさも、発泡スチロールのような軽さもない。

 ハリボテなんかではない。

 そこにあるのは間違いなく金属の塊だった。


 寒気がした。

 任は間違いなくこれで斬られたはずだ。

 死んでてもおかしくない。

 しかし壊れたのは大剣の方だった。


 ――これって……。


 思わず自分の腕を抓ってみる。

 柔らかい肉の感触。

 腕には、確かに、何かが捻じれる感触はある。


「……夢、かな……?」


 しかし、どんなに力強く抓っても、全く痛いとは感じなかった。

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