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第143話 失踪エキシビジョン

 ――思ってたのと、ちげぇ。


 展示会会場を見て回りながら、遥人は内心、来たことを後悔していた。


 ロボット展に着いて早々、ものりは父親に挨拶してくるとのことで、一旦、自由行動となった。

 自由行動と言っても、実際に自由に行動を始めたのは、武蔵とそれを追いかけて行った真姫だけ。

 残りの五人はほとんど固まって行動していた。


「あれが高所作業用遠隔操作ロボット。あれがこの展示会最大のロボット。動力源はリチウムイオン電池。最大五時間稼働可能」

「……ほーん」


 倉知の解説を適当に聞き流す。

 でっかいロボットが見たいと言ったのは確かだが、目の前にあったの遥人が希望したロボットではなく、平たく言えばでっかい腕だった。


「……あれの本体はどこだ?」

「あそこ。人が座ってるとこ」

「……ほーん」


 腕の付け根の部分には、箱とも机とも言い難いものが備え付けられていて、そこには人が座っていた。

 なるほど、コックピットと呼べなくもないが、これもまた遥人が思っていたものとは違った。


 他の面々もまたどう感想を述べたらいいのか悩ましいようで、「でかいね」「すごいね」の一言コメントに留まっていた。


「……なぁ、他に人が乗るようなロボットってないのか?」

「今回の展示物は、去年の震災の影響で、救助活動用が多い。

 危険地帯の作業に特化させるから、必然的にリモートコントロールが多くなってる」

「……つまり?」

「人が乗るのは、これで全部」

「マジかぁ……」


 つまりそれは遥人が望むようなロボットはここにはないことを意味していた。


「でも、あっちに人型ロボットはいっぱいいる」

「……人が乗るやつじゃないんだろ?」

「ん」

「だったら意味ねぇんだ」

「私は興味ある」

「あー、はいはい」


 鼻息荒く、目だけで行きたいと強く訴える倉知に付き合う形で、全員で「ヒューマノイドブース」と呼ばれるエリアへ向かう。


 そこは他のザ・産業用途という雰囲気とは違い、確かに倉知を興奮させるだけのSFの香りがしていた。


 多種多様な人を模したであろうロボットたち。

 サイズもまちまちなら、見た目もまちまちで、ぬいぐるみのようなものもいれば、機械の骨格が剥き出しのものも、人間そっくりの皮膚を持ったロボットもいた。


 ある意味でファンタジーのようにも見えるそのエリアは、人によっては、あるいは、


「……ちょっと、不気味ですね」


 とリオのような感想を持つものもいるだろう。


 斯く言う遥人も、どちらかと言えば内心引き気味ではあった。


「すごい……。

 センサーは全て頭……。

 でも、歩行は……。

 そうすると姿勢制御は……」


 倉知だけは一人、とても堪能しているようだった。


「もしよろしければ、操縦なんかされますか?」

「え、いや、ぼ、僕は……」


 そんな中、最後尾を付いて回っていた任が、係員からコントローラーのようなものを勧められていた。


「操縦――できんのか!?」


 巨大ロボットの操縦。

 遥人がこのロボット展に望んでいたのは、それである。


 ここにあるロボットは一つとして巨大なものはないし、任が勧められていたのは明らかにゲーム機のコントローラーだったけど、それでも何もできないよりよっぽどいい。


 任がやらないなら自分がと、慌てて駆け寄ろうとして、


「あっ――わりぃ!」


 コンパニオンの女性とぶつかってしまった。

 随分と大きな音を立てて倒れた女性に、遥人は一瞬、大怪我を負わせたのではと焦る。

 しかし女性は無表情のまま立ち上がると、そのまま遥人の方へ一礼して、何事もなかったかのように立ち去った。


「……お、怒らせちまったかな」


 その女性があまりにも無表情だったので、そんなことを気にしていると、倉知が近寄って来て、


「あれもロボット」


 そう教えてくれた。


「え、マジで!? あれが!?」


 そう言われて改めて女性の姿を見る。


 他にも人間そっくりなロボットはいる。

 しかしそのどれもがどこか違和感があると言うか、リオの先ほどの感想通り、なんとなく不気味なのだ。


 しかし遥人がぶつかってしまった女性は、どう見ても人間そのものだった。

 強いて言うならば、表情に感情が乏しいくらいだ。


「いや、ありゃ人間だって」

「ううん。あれ、石黒先生のアンドロイド。不気味の谷を越えてきたロボット」

「不気味の谷?」


 遥人が疑問を投げかけると、すでに倉知はそこには居らず、倉知がロボットと言った女性の傍で無遠慮な視線をジロジロと投げかけていた。


 人間ならあそこまで間近に見られれば嫌な顔の一つしそうなものだが、確かにその女性は気にした様子もない。


「マジでロボットなのか……すげぇな……」


 今日一番の驚きを素直に呟きながら、ちょっとだけヒューマノイドに興味を持った遥人は、倉知に倣って女性型ロボットを見に行こうとしたが、


「――あ? 何やってんだ、あいつ?」


 遠くで迷惑にも人を掻き分けながら走る、真姫の姿を見つけた。




      ◇




「武蔵がいなくなった、だぁ?」

「少し目を離した隙に……ううん……あれは、消えたんじゃないかってくらいに、突然で……私……私……」

「だ、大丈夫ですよ、樹先輩。宮本先輩だって、人が多くてちょっとはぐれただけです。少し、落ち着きましょう」

「でも……でも……」


 顔面蒼白で過呼吸になる真姫の手をリオが握る。


 リオの言う通り、ちょっとはぐれただけとは思うが、それでもいなくなったのが二か月前にようやく見つかった武蔵だ。万が一ということもある。


「おい、栄介っ」

「うん、ボクは会場の中を探してくるから、遥人は通路の方をお願い。リオは真姫さんに付いててあげて」

「倉知は、ものりんとこ行って状況説明してこい。ものりの父親にも話して、場合によっちゃ迷子アナウンスしてもらえ」

「わかった」

「え、ぼ、僕は――?」


 一人指示がなくて戸惑う任を置いて、遥人は走り出す。


 苛立ちに思わず舌打ちが出る。

 ちょっとはぐれただけが、真姫をどれだけ不安にさせるか、武蔵だってわからないはずがない。


「あいつ、マジなんなんだよ、くそっ」


 武蔵は、行方不明になる前までは、はっきり言って過保護なんて言葉を通り越して、腹立たしいまでに真姫にべったりだった。

 それはそれでどうかとも思っていたが、それにしたって今の武蔵はまるで別人のようだった。

 あれではいくらなんでもずっと武蔵のことを探していた真姫が可哀想だ。


 ――ああ、くそ、一発ぶん殴ってやんなきゃ、気が済まねぇ。


 そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、遥人は走り回るのだった。

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