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月下の狩人  作者: 岡崎佳凪
月の調停者たち
19/19

第十九話 外出先で

長らく期間が空きました。申し込みありません。

それでは十九話です。よろしくお願いします。


 あれからしばらく何事もなく過ごした。

 宿泊客も何組か出入りがあったものの全体的に増えたため忙しくなってきたが、それは嬉しいことだ。何も悪いことはない。


 あの男性は何故あんな忠告をしてきたのだろう。

 夜に一人で出歩くのは確かに危ないが、昼間に人通りが多いところであれば何も問題はないはずだ。



 そう思い普段と変わらない日々を過ごしていた。



「人さらいが発生してる?」

「えぇ。お隣から聞いた話なんだけど」


 母親から聞いた話だと、この街に人さらい集団が混ざり込んでいるらしく、目撃者もいるみたいだ。

 大きな街なだけあり、人数の多い団体が街に入る場合はしっかり管理しているはずだが、いつの間にか入り込んだようだ。

 もしくはこの街で新しく結成されたのか。まだ何も情報が掴めていない状態らしい。


「昼でも人の居ない所には行かないようにね」

「うん、わかった」


 そんな会話をした。

 と言っても気をつけることは一人にならないことくらいしかなかった。


 






「それじゃ行ってくるね~」


 今日は仲の良い友人2人と市へと出掛ける約束をしており、慌ただしく家を出て行った。

 空は快晴。雲ひとつない美しい青空が彼女の心を明るくさせる。


 今日はお出掛けということもあり、普段よりお洒落に気を遣った服装をしている。

 



「お待たせ~!」

「あ、おはよう」  

「おはよう。2人とも待たせちゃった?」

「大丈夫、行こうか」


 待ち合わせの場所に行くとすでに2人とも揃っていた。

 2人は買いたい服があるらしく、せっかく行くのだからと誘ってくれたのだ。自分自身特に買いたいものはなかったが、お喋りを楽しむのが好きなため行くことにした。



 市場は今日も賑わっていた。

 果物や野菜も売っているし、肉もそこかしこで売っている。内陸の町なため魚は珍しい。

 3人は目的の前に何かしらの装飾品を求めて、その手の店や露天商が多くある区域の、大きな通りにいた。


 「これはどうかな?」

 「うん。ちょっと地味だけど、似合ってるよ」

 「私もアリだと思う」


 通りにある大きめの店の中に入り、思い思いのものを手に取って買い物を楽しむ2人に混ざっていたが、ふと目を向けた先に見覚えのあるコートを着た人物がいることに気付いた。

 先日店に来て、不思議な忠告を残して去って行った男性だ。腰には長剣が見える。


 彼は通り沿いの民家に背を預けて周囲を見渡していた。フードをしているので表情は見づらい。だがすぐにこちらからは見づらい場所に移動してしまった。見詰めていることに気付いたのだろうか。

 そこで彼女は彼の動きに違和感を感じた。いや、正確には彼の周囲の人たちの動きだ。


 服や装飾品を求める人で賑わうこの通りはなかなか人が多い。彼はその人混みの中をスイスイと抜けて行ったのだが、周りの人が彼に気付いた様子が見受けられなかったのだ。

 彼が目の前をギリギリぶつかるような歩き方をしても、ぶつかりそうになった相手はまったく気付いた様子がない。まるで何も通ってないかのように素通りしていく。


 何となく気になってしまった。

 「ちょっとごめんね、ここで待ってて」

 友人2人にここに居てもらうように伝え、彼女はあの男性の元へと向かった。


 彼は先ほどのように壁に背を預け、腕組みをしながら周囲を見渡していた。

 何故ずっと眺めているだけなのか気になり、尋ねてみることにした。怪しまれないような早さで歩いて、男性と5歩分の距離まで近付いてみる。


 「ねぇ、何してるの?」

 その一言に彼は大層驚いた顔をした。暫く待っても返事がない。

 「聞こえてる?」

 「君はあの店の……。やっぱり俺に気付いてたのか」

 彼女はさらに近付き、2歩分ほどまで距離を詰めた。

 「当たり前じゃない。うちに来てくれたお客様の顔は忘れないわ」


 彼女は自慢げな表情を浮かべそう言った。

 「いや、それも立派だけど、そういうことじゃなくてね」


 じゃあ何だと言うんだ。そう思ったが、とりあえず気になっていたことを尋ねることにした。


 「さっきから何をしていたの? 買い物をしにきた訳ではなさそうだけど」

 「うん……まぁ観察、かな?」


 歯切れが悪い。表情が見づらいのもあって怪しい。

 最近噂の人さらいかと一瞬思ったが、彼は先日忠告してくれた人だ。いまいち判断に困る。


 「なにを?」

 だからとにかく質問を続けてみた。

 「まいったな……見付かるなんて思ってなかったから」

 「あんな堂々としてて見付からないと思っていたの?」

 「そうだね。ああいや、俺を見付けること自体が普通じゃないんだよ」

 「そうかしら? いかにも怪しい格好してるわよ」


 彼は言い訳が出来ないようだった。困ったように周囲を軽く見回してから彼女の方を再び見た。

 「出歩かないよう言ったんだけど?」

 「友達と居るし、この辺りは人も多いわ」

 「そのおかげで一人一人に注意を向ける人は少ない。完全に安全なわけじゃないよ」

 「そもそもどうしてあんな警告みたいなことを言ったの? あなた、今凄く怪しいわよ」

 「それは分かるけど、言っておくけど悪人じゃないからね」

 「警備隊の詰め所に行こうか迷ってるわ。怪しい人が居るって」

 「何だか君と話してると師匠を思い出すよ」

 

 困ってしまったみたいだ。情けない顔をして右手で顔を覆ってしまった。

 そんな彼の様子を見て彼女はまた口を開いた。


 「ふぅ、警備隊に行くのは冗談。あなたは悪い人には見えないわ。まぁ確かに見た目は怪しいけど」

 彼女はそう言うと、男性に近付いて彼の目を覗き込んだ。しっかりと目が合うと、彼女は朗らかに笑って言った。

 「ほら、こんな優しい目をして人さらいなんてしないわよ」

 彼はまた困ったような顔をして、フードを被り直した。

 「あんな発言して、関係者だと疑わないのかい?」

 「疑ってたけど、人を見る目はあるのよ。長く宿屋をやってるから」

 「生まれたときから宿屋を?」

 「そうよ、ずっと手伝ってたわ」


 そこまで会話してから、彼は周りを見渡した。

 「なるほどね、とにかく友達のとこまで送るよ。どこにいるの?」

 「すぐ近くよ。ほらそこの……」


 彼女は振り返りながらある方向を見つつ、言葉を途切らせた。

 「……ジェーン?」

 「……っ。友達は何人?」

 彼は女性の隣に立つと周囲を伺いながら質問した。

 「2人よ。歳は同じくらい。ジェーン! アイサ!」


 走り出そうとしたが、彼に腕を捕まれた。

 「落ち着いて。2人はどこにいたの?」

 「えっと、あそこよ。あの店で耳飾りを見てたわ」

 「いつまで?」

 「あなたに話しかける直前」

 「時間はそう経ってないな、よし行こう」


 彼はそう言うと店の前まで早足で進んだ。

 店はドアがなく、中が見渡せる作りになっていて開放的に感じる。入って奥のところにはカウンターがあり、男が1人座っていた。中肉中背の中年男性で、装飾品を扱っている人らしく小綺麗な服装と、いくつか装飾品を身につけている。

 彼は店内に入るとすぐにカウンターへ行きその男性に尋ねた。


 「さっきまでここにいた女の子2人はどこに行ったかわかるかな? 待ち合わせをしていたんだ」

 カウンターの男は彼を足先から頭まで見てから訝しげに口を開いた。


 「何も買わずに出て行きましたが、何かあったのですか?」

 「私の友達なの! どこに行ったか……」

 「正直に教えてくれ。2人は今どこだ?」

 彼はカウンターに手を着き男性に詰め寄るともう一度問い掛けた。

 「何なんですか一体? 出て行きましたよ」


 彼は一度深くため息をつくと、改めて話し始めた。


 「君の本業は装飾品店なんかじゃない。何か別のものだ」

 すると男性は彼を睨めつけて立ち上がった。

 「私はこの店を20年やっています。親から引き継いだ店です。侮辱しているのですか?」


 「それにしては、自分の商品に愛着がないみたいだな」

 「何ですって?」

 「その身なり」

 言われて男性は自身の身体を見下ろした。

 「これが何か? この服が問題?」

 「いや、身なりに気を遣っているのは正しいよ。客と面と向かって商売をするからね」


 彼は店内を見渡しながら、カウンターを周って男性の前に立った。

 「ただ、この店と同系統の装飾品を付けてないのは何故だ?」

 男性ははっとしたように自身の左手を見た。


 「その指輪。ここのとまったく違う作りをしてるし、耳飾りも違う。ここで売られているものは落ち着いてて趣味がいいけど、あなたが身につけているものはどれも派手で悪趣味だ」

 彼は男性に再び詰め寄るともう一度問い掛けた。

 「あなたの職業は?」

 そう言われた瞬間男性はカウンターの引き出しに手を掛けた。だが引き出しを開く前に彼の手に小型の投げナイフが飛来し、勢いよく突き刺さった。


 「あがぁあああああああっ!」

 男性は突き刺さったナイフを引き抜くことが出来ず、絶叫することしか出来ない。

 「刺さってる! 刺さってる!」

 「刺したんだから当たり前だろう。2人はどこだ?」

 「知らない! もう運ばれてるはずだ!」

 「そうか、どこに?」

 「引き渡し場所だ! 俺は知らない!」


 彼はそこまで聞くと男性から視線を外し、店の奥へと続く扉を見た。

 そして呆然としていた女性に視線を向けた。

「君は先に帰っているんだ。2人は宿まで連れていくから」


 彼女はハッとして男性に詰め寄った。

 「2人ともさらわれたの!?」

 「そうだね。最近耳にする人さらい集団だろう」

 「ねぇ、さらわれたらどうなるの?」

 「うん。急を要するから詳しくは後だよ。とりあえず君は帰るんだ。帰ってからも油断しないようにして」


 そう言って奥の扉を開けて消えてしまった。

 取り残された彼女は2人が心配で、暫くしてあとを追うことにした。


 あとには悲鳴を上げる男が残され、騒ぎを聞き付けた人が集まり始めていた。

 

不定期投稿になりますが続けます。

よろしくお願いします。

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