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月下の狩人  作者: 岡崎佳凪
月の調停者たち
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第十八話 シダースの街

 久しぶりの投稿になります。間を空けてしまい申し訳ありません。

 第十八話、よろしくお願いします。


 雲の少ない早朝、まだ太陽が顔を出し始めようかという時間だ。

 薄い朝日に照らされるこの街は北部領シダースの街としては大きく、すでに少なくない数の人が活動を開始している。


 彼らのうちの多くは農業に従事する人たち。その他に狩りに出る者や、見回りに出る兵士達がいる。



 ここは大きい街なだけあり、盗賊や野生動物からの防衛の為に周囲を大きな塀に囲まれている。出入りするには門の詰所にいる兵士の検分を受けなければならない。

 とは言ってもそこまで検分も厳しいわけでもないのが実情。


 今日も狩りに出る中年の男と門番の兵士が談笑していた。


 



 そんな街の表通りに面している大きめの宿屋の扉から顔を出したのは若い女性。

 長い茶色の髪を1本の三つ編みにして背中に流している。大きめの目をしており可愛げのある顔つきだが、頭のよさそうな印象も受ける。

 服装は茶色いスカートに白いTシャツを着ており、その上からエプロンをかけている。宿屋の娘として彼女が日常的に身につけている服装だ。


 彼女は通りを見渡し、そして太陽に目を向けた。太陽は顔を出し始めており直視するととても眩しい。彼女は背伸びをして1つ頷くと気の入った顔をして店内へと戻った。



 宿屋の中は、この街では大きい方なだけあり広い。

 6人掛けの四角いテーブルが2つ、4人掛けの丸いテーブルが4つ置いてある。奥にはカウンターがあり、8脚の椅子が並んでいる。


 彼女はテーブルとカウンターを手にした布で一通り綺麗にすると、カウンター奥の厨房へと入っていった。


「拭き終わったよ、今日もいい天気だね」

「おう、お疲れ様。そうだな」


 彼女は父親にそう告げると厨房で朝食の準備をしている母親の手伝いに行った。

 この宿屋は大きいながらもこの家族3人で回しており、客の入りも良かった。



「新しいお客さんは何人だったっけ?」

「えーと、11人だったわね。まあまあの団体さんね」

「はーい」


 母親に新しい宿泊客の人数を確認すると人数分の朝食を作りにかかる。朝食を食べると昨夜のうちに言われていたからだ。






 忙しい朝の時間が過ぎ、昼時になると途端に暇になる。

 カウンターでのんびりしていると扉の開く音が聞こえた。目を向けると1人の若者が入ってきていた。


 その若者は深緑色のロングコートを身につけており、フードを深く被っている。そのため口元しか見えず、表情はほとんど分からない。口元で若者と判断したが、それが合っているか自信がない。

 コートの上から締めている腰のベルトの左側に片手剣を1本提げていて、背中には大きな片手斧がある。片手サイズにしては剣は長めだし、斧は大きいのだが、彼女には武器のことがよく分からないため、とりあえず武装しているとしか判断できなかった。


 扉を閉めるときに背中を見せたので、背に長剣もさしていることがわかった。


「いらっしゃいませ、宿泊ですか? それとも昼食ですか?」


 彼女はとりあえず受付の仕事を全うするためそうたずねる。

 そうすると目の前の男性はフードを取らないまま返事を返してきた。


「はい。えぇと、昼食いただきます」


 やはり声を聞く限りそう老けてはいないようだ。

 彼女は返事をして、厨房にいる父親に客が来たことを知らせた。母は食材の買い出し中で宿にはいない。


「食事の希望はありますか? 肉がいいとか野菜がいいとか」

「そうだなぁ……今は軽くでいいから野菜主体でお願いします」

「わかりました! こちらへどうぞ!」


 彼女は男をカウンター席に案内した。一番目に届く位置だからだ。

 武装している人物を目に付かない位置に置くのは不安だ。


 彼はカウンターに向かいながら腰の剣をベルトごと外して手に持った。

 背中の斧と長剣も同様にベルトごと取り外し、カウンターの真ん中に座った。そして武器を3本とも脇に立てかけた。



 男はフードを外し、両手をカウンターに置くと一息つく。

 それを横目に見つつ、厨房にいる父親に野菜を主体にした料理を出すように声をかけた。

 予想通り男はさほど老けていない。20代後半から30代前半というところだ。



 父親から返事がきたので木のコップに水を注いで男に渡した。

 彼は礼を言って水に口をつける。


「まず水を出してくれるとは、素敵な宿ですね」

「ありがとうございます。庭に井戸がありますので」


 なるほど、と言いつつ水を飲む男を見て頬が緩んでしまった。

 人物像は未だに不明ではあるが、家族3人で頑張って切り盛りしているこの宿をほめてくれたのだ。嬉しくない訳がない。



「この宿は初めて来たはずよね? 旅の方?」

「はい。さっきこの街に来たばかりです」

「ふぅん。ここより南の町から来たの?」

「カノセイドから。ちょっと遠いですけどね」


 西の領から来たと聞いて女性は驚いた表情を見せた。


「そんな遠くから来たんですか!」

「はい。まぁ、仕事の関係で」


 男は苦笑いを浮かべつつそう答えた。

 移動が激しい職業。武器を見るに傭兵か何かだろうか? そう疑問に思ったが、以前この宿に来た傭兵たちのような荒々しい雰囲気は感じない。

 女性はこの客について少し興味が湧いてきたが、詳しく聞いてもいいのか判断に困る。


 目の前の男性は恐らく30かその手前辺りの年齢だ。長めの黒髪を後ろで縛っている。顔は優しそうな印象を受けるが、武器を持つような人間だとは思えない顔つきだ。それに、今まで見てきた人物の中でも武器をこんなに持っているのは珍しい。


 濃い緑色のロングコートは良い素材で出来ていることが分かった。

 鎧は一切身につけず、こんな上等なものを着て戦いに赴くのだろうかと疑問に思ったが、あまり踏み込むのは失礼だと思い口をつぐむ。

 しかし、コートの左右の脇腹にナイフが4本ずつ収まっているのを見るとやはり戦闘に向けて作ったのだろう。どうしても気になって目がいってしまう。


「僕の装いが気になりますか?」

「えっ! え~と、あの、え、装いですか?」

「いや、気になるのはわかります。少々変わった出で立ちなのは自覚してますから」


 そう言って穏やかに微笑む彼からはやはり悪い印象は受けない。

 特に警戒する必要はなさそうだと女性は判断した。



 そうして男性と雑談を続けていると、父親が料理を運んできた。


「お客さんは何しにこの街へ?」


 カウンター越しに料理を出しながらそうたずねる。

 彼は礼を口にしつつ料理に手を付けながら考える仕草を見せる。


「うーん、探し物。ですかね」

「探し物? であれば、よければ手伝いますよ。宿屋や酒場は情報が入ってくるので何かしらお手伝い出来るかもしれませんよ」



 そう言われて男性は再び考え込むが、顔をあげて言った。


「ではお尋ねしますが、この宿にはいま何人ほど宿泊客がいますか?」

「は? 宿泊客?」


 予想外の質問に父親が驚いたようだ。

 女性も驚きの気持ちは隠せない。これが探し物と関係があるのだろうか?


「それが何か関係があるんですか?」

「ええ。手掛かりになります」

「……そうですか」


「わかります。職業柄あまり口にすることはできませんよね」

「ええ、まぁ。そうですね」


 父親は少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。


「詳しくは言えませんが、現在の宿泊客は2人組と3人組が2つずつに11人組が1つです。それ以上は許してください」

「なるほど。いえ、十分です。ありがとうございます」


 父親は言ってしまうことにしたようだ。自分から手伝うと言った手前、何も教えないのも気が引けたのだろう。これだけでも随分譲歩したと言える。


「これでお手伝いが出来たのですか?」

「はい、助かりました」


 男性はいつの間にか昼食を平らげており、席を立った。カウンターの上には銀貨が置いてある。昼食1つに対して異常な値段だ。


「お礼の気持ちです。取っといてください」

「銀貨って……さすがに多過ぎませんか?」

「あぁそれと、1つ覚えておいて欲しいことがあります」


 父親が料金について声をかけてもそれを無視する形で話を変えてきた。すでに男性は立てかけてあった武器を装備し直している。

 ここを譲る気がないのが分かったのか、父親はこれ以上何も言わないことにしたようで、黙って耳を傾けている。


「これからしばらくは不用意に出歩かない方がいいと思います」


 そう言い残し、挨拶をしてその男性は去って行った。


 感想、アドバイスあれば是非お願いします。

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