第十七話 語り手交代
うっかり投稿し忘れてました……。
第十七話です。よろしくお願いします。
喉が渇いたらしく、老ファルアルスは紅茶を一口飲んだ。これは先ほどティアナが用意してくれたもので、彼の好みである砂糖なしのミルクのみとなっている。
「あそこに飾ってある剣はお師匠様にいただいたのね」
「ああ。今でも大切にしているよ、他の何よりも」
2人は額縁に飾ってある剣を見た。
やはり目立つのは青白く輝いている剣だが、それよりも大事に扱っているものがあの『祝福の薔薇』だ。
あそこにはイーゼルとの思い出が詰まっている。
彼女との7年間。この7年でファルアルスはとても強くなることが出来た。彼女の元を去ってからも教え通りの訓練をこなし、片時もその教えを忘れなかった。そのおかげで『獣』との戦いで生き残れたと信じて疑わない。
「あなたが今も毎日やっている訓練。あれがお師匠様に教わったものなの?」
「そうだな。毎日欠かさずやっていたらいつの間にか生活の一部になってしまったようだ」
『月の調停者』となった者たちはその特殊な身体のおかげか身体能力の老化が非常に少ない。
現役の頃とまではいかないが、それでも一般の兵士などに負けることはない。
「それで、いつ戻ってきたの? 私と会ったのはここに戻ってすぐ?」
ファルアルスは一度大陸西の国カノセイドへと派遣されたが、またこの地へと帰ってきていた。
「ああ。シダースに移動になってすぐだな」
シダースとはこの国の北にある領地のことだ。ティアナとはそこで出会ったらしい。
と、ティアナも紅茶を飲んでからその手を膝の上に置いた。そして懐かしむ様な顔をしながら呟いた。
「まさかあんな、物語のような出会い方をするとは思わなかったわね」
その呟きに老ファルアルスは笑みを浮かべる。
「そんな浪漫に溢れたものだったとは思えないがな。」
「あら、そうかしら?」
「そうさ。冷や汗しか出なかったよ」
「視点の違いね。私にとっては危機から救ってくれた王子様みたいなものだったわ」
「歳を考えて発言してくれ」
その一言にティアナはむっとしたような表情を浮かべた。
老ファルアルスはやってしまったかと思ったが、すぐにティアナが笑顔になったので安堵した。
「私にはどう見えたのかあなたに教えてあげるわね。じっくりと」
どうやらティアナは先ほどの発言を許したわけではないらしく、そんな失礼な夫にじっくりと語り聞かせて理解してもらうことにしたらしい。
老ファルアルスは内心頭を抱えながらも、律儀に耳を傾けた。
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