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月下の狩人  作者: 岡崎佳凪
月の調停者たち
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第十五話 師弟の共演

 第十五話です。

 よろしくお願いします。


--4時間前、『月の調停者』ランザス支部--


「え? いないの?」

「はい、ルイン様とラーイル様は2日前に『獣』の出没を察知してからすぐに出発準備を開始しました。そして今日の朝方に出た次第です」

「ふぅん? 私たちが来るって分かってたはずなのに……ルインの奴」

「師匠、どうかしましたか?」


 ランザス支部に着いたファルスとイーゼルだったが、イーゼルが着いたと同時に詳しく話を聞こうとしたところでこの地区の担当2人が既に居ないことを聞いた。

 イーゼルはそのことに思案顔を浮かべる。


 そこにファルスがどうかしたのかと尋ねた。


「ファルくん、私たち『月の調停者』が『獣』の出現を察知してから最初に行うことは覚えてる?」


 イーゼルは突然復習を始めた。

 意図はわからず首をひねるファルスだがとりあえずそれに答える。


「え? はい、覚えてますよ。まずはその『獣』の調査ですよね?」





 この世界に同じ『獣』は存在しない。毎回どんな『獣』が相手になるのかはまったくの未知なのだ。少しでも勝率を上げるためにはその情報が必要不可欠になる。

 なので『獣』が現れたらまずは帰還を第一目標とした情報収集を行うことになっている。


「でももし撤退を許してくれないような相手だったらそのまま討伐に移行するんですよね」

「そう、調査で一番難しいのは撤退することだよ。相手は人知を越えた化け物。いきなりそんな奴らに戦いを挑んだら簡単に殺されるかもしれないし、その危険性を誰かに伝えることもできない。

 でも少しでも情報を持ち帰ることができたらより効率的な作戦を立てられる。生き残る確率が大きく上がるんだよ。けど残念ながら奴らはそれを簡単に許してくれる相手なんかじゃない」



「それは……そうですね」

「ましてやね」



 イーゼルはファルスの瞳を真っすぐに見た


「狩りの経験がない人間ならなおさら。私が守り切ることが出来ず君は死ぬかもしれない。相手が悪ければ君も、私も、2人とも」


 イーゼルから何度も『獣』との戦いは危険だと聞いていたファルスだが、その危険性を再認識する。7年間本気で修行をした。おかげで『獣』を狩る技術が身についたと思っていたが、技術だけで何とかなるほど『獣』は甘くない。


「情報を持ち帰るために、1人がその場に残ってもう1人が立ち去ることだって珍しくないんだよ」


 その言葉にファルスは声を上げた。


「そんな! 仲間を見捨てて逃げるんですか!?」

「私たちは生き残って、勝たなきゃいけないからね。そのためなら命を懸ける。それが『月の調停者』だよ」



 イーゼルはファルスの声に淡々と応える。


「彼らは君にそんなことをさせないために先んじてくれたんだ」 



 普段笑顔を浮かべているイーゼルがいつになく真面目な表情でファルスを見詰める。


「覚えておいて。君は……私たちは運がよかったんだよ」


 その言葉に彼女のどんな想いがあるのだろうか。ファルスにはイーゼルの奥底までは理解ができない。だが、ランザス領の『月の調停者』がこれから自分たちがやるはずだった危険な仕事を半分請け負ってくれたのだ。

 それを感謝しないわけがない。


「はい。わかりました」


 言葉は少ないが、その返事でファルスが理解したと受け取ったイーゼルは満足そうな笑顔を浮かべ、待っていた連絡員に向き直った。




「もう大丈夫よ、ごめんなさいね」

「いえ。それで、どうされますか?」


 連絡員の言葉にイーゼルは笑顔で応える。


「決まってるじゃない。追いかけるのよ」

「え? 今からですか?」


 その言葉に驚く連絡員。


「そもそも調査の経験をさせなきゃファル君のためにならないからね!」

「た、確かに……」

「師匠? 今からですか?」


「当たり前だよ! ほら行こう!」


 イーゼルは走り出した。2人がいる山の方へ。








--4時間後




「まったく、無茶しちゃって」


 2人はラーイルを助け出すことに成功した。タイミングはかなりギリギリだったが、足の速い2人でこそ成し得たことだ。



「……奴の能力に……情報が」


 ラーイルがイーゼルに対して先ほどの能力の説明をしようとした。がそのタイミングでイーゼルは片手を上げた。


「大丈夫、見ればわかるよ。拘束するのに相当量の薔薇を操るみたいだね」

「他の情報については道中にルインさんから聞きました。」


 ここに来る途中でルインから説明を受けていたとファルスが補足する。あとは奴をどう倒すかだ。



「ラーイルは休んでて! ルインは彼を守ってあげてちょうだい」

「任せろ。ほら、ここを離れるぞ」


 離脱の準備を始めるルイン。ラーイルは心配そうな視線を向けるが、イーゼルは自信に溢れた表情を浮かべている。



「ファル君、私が引き付けるから君は奴を削って!」

「了解です!」


 言うが早いか、彼女は『獣』に向かって駆け出した。

 それに対して『獣』は回避行動を取ろうとするが、ルインに打たれた右後ろ足にさらにイーゼルが斬撃を加えていたたため動きが鈍い。



「師匠! 薔薇が来ます!」

「わかった!」


 ファルスの声から1秒ほど経ってイーゼルの周囲に5本の薔薇の樹が発生し、そこからラーイルを縛り上げた先ほどの薔薇が伸びてきた。




 だが、イーゼルはそれを全て回避していた。時折避けきれないようなものがあれば手にした双剣で切り落とし、身体に1本も触れさせなかった。

 素早さに自信があると何度も聞いていたファルスだが、この光景を見て納得せざるを得なかった。


 ラーイルを見れば普通の『月の調停者』程度の素早さでは捕らえられてしまうのだろう事がわかる。それすらもまったく寄せ付けない彼女の動き。

 襲い来る薔薇を避けるために最も効率の良い動きをしているイーゼルだが、ファルスにはそれが舞を踊っているかのように映った。



 2本の剣と身のこなしだけであの『獣』の攻撃を避け切るイーゼルの姿は、黒い鳥のような、はたまた黒い蝶のようにも見えた。





 と、ここでファルスは頭を切り替えた。今は『獣』との戦いの最中なのだ。初めて見る師匠の戦いぶりも気になるが、今は任務が優先しなければならない。


 ファルスは滑るような動きで『獣』の背後まで潜り込む。『獣』はイーゼルしか見えていないらしく、ファルスに気付いていない。『獣』にとっても彼女は未知の存在に映っているのだろうか。




 その隙を逃さず、ファルスは右後ろ足ではなく今度は左後ろ足に剣を思い切り突き刺した。こちらに気付いてないおかげで全力で刺すことが出来たため、剣は深々と刺さり足を貫通した。そしてそのまま剣を抜かず、刺したままファルスはその場を離れた。


 『獣』は意識の外から突然襲ってきた激痛に悲鳴を上げ、距離を取ろうとするが、後ろ両足とも上手く動かず逃げることが出来ない。左足には今なお剣が刺さっているのだから尚更だろう。





 『獣』はファルスの方を向き、唸りを上げている。

 と、イーゼルがファルスの元へ移動してきた。


「ふぅ、さすがに疲れたね!」

「いや師匠、凄まじかったです」


 どうしても苦笑以外の表情が作れないファルスだった。



「あはは、ありがとう!

 あいつどうやら能力を使っている間は動けないみたいだね」



 イーゼルは回避しながら『獣』の能力の分析まで行っていたようだ。ファルスは再び驚いたが、もうやることは決まったのでそれを優先することにした。


「じゃあ後は動きの鈍ったあいつを追い詰めて、とどめを刺すだけですね」

「そういうことだね」




 イーゼルは振り返ってルインに目を向けた。


「とどめを刺すよ! 手伝って!」


「ん? おう!」


 声をかけられたルインはメイスを持って走ってきた。

 イーゼルとファルスはその間に『獣』に斬りかかる。『獣』は上手く動けず、前足と辛うじて動く右後ろ足で何とか2人を追い払おうとするが、動きの速い2人に次々と傷をつけられていく。




 と、そこへルインがメイスを手放し、背中に背負っていた大斧を構えた。


「動きを止めてくれ!」


 そう叫んだルインに呼応してイーゼルは双剣で『獣』の右前足を突き刺し、地面に縫い止めた。

 もちろん『獣』は振りほどこうとするが、ファルスが獣の左前足の足首の部分を切り払い、体勢を崩させた。


 右足は縫い止められ、左足は肘をつくような姿勢になっている。



 そこでルインが大斧を『獣』の顔面目掛けて振り下ろした。


「どりゃぁああああああ!」


 ゴグチャッ!という音と共に『獣』の身体が大きく跳ね、そしてゆっくりと倒れ込んだ。





 

 これからまた夏期講習に入ります。

 しばらく日曜投稿が出来ないと思います。

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