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月下の狩人  作者: 岡崎佳凪
月の調停者たち
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第十四話 最後の手段

 えーと…連続更新になります。

 書いているうちに文章が雑にならないように気をつけてはいるんですが、あまり上手くいってません。努力が必要ですね。


 第十四話です。

 よろしくお願いします。

 ルインはメイスを肩に担ぎながらラーイルに話しかける。


「あいつは猫らしく動きが素早い。さっきはたまたま攻撃を入れることができたが、そう何度も運に命かけられるほど俺の心臓には毛が生えてねぇ」

「作戦はあるのか?」


 ラーイルは剣で祈る仕草をしたまま問いかける。


「あぁも素早いとなぁ……それにあの薔薇もいつ来るかわからん」

「やはり本体に速攻を掛けるしかないか」

「だな」


 祈りを解くとラーイルは駆け出した。それにルインも追従する。

 すると『獣』の周りから無造作に薔薇が発生した。


「おい!近づけねぇぞ!」


 そう叫び足を止めるルイン。ラーイルも前進をやめ、警戒し円を描くように『獣』の周りを歩き始める。

 『獣』は高く飛びあがると薔薇の樹の幹に飛び移り、三角跳びの要領でルインに襲い掛かった。

 飛び掛かる『獣』に力で対抗できるはずもないので跳んで避けるルイン。着地した獣はそのままルインに襲い掛かるかと思いきや、また薔薇の樹を発生させた。


 ルインを持ち上げるように発生したそれにまた飛ばされた彼は、薔薇の樹の巨大な葉の上に落下した。

 葉を足場にして立ち上ったルインだが、息をつく暇を与えてくれない。目の前の薔薇の樹の幹から、新たに通常の大きさの薔薇が数本発生して彼の方へ伸びてきたのだ。

 回避しようとしたが、そのうち1本に足を縛り上げられ派手に転ぶ。

 

 ルインは倒れたまま急いで辺りを見渡す。いま『獣』に襲われたら間違いなくやられる。

 『獣』はいた。周囲の葉と幹を足場に跳躍しながらこちらへ向かってくる。ルインは急いで予備の片手剣を抜いて足を縛り上げている薔薇を切り裂いた。

 薔薇の棘にやられ痛む足に鞭を打ち、今いる葉からより低い位置の葉へ飛び降りる。

 

 着地して、その葉の先から下を覗こうとしたら、同時に『獣』が下から現れた。

 『獣』が着地したことで葉が大きく揺れ、ルインは驚き倒れ込んでしまう。四本足で立つ巨大な『獣』の真下にすっぽり収まっている状態だ。

 『獣』はルインを見下ろし、その顔に喰らい付こうとしてくる。ルインは慌てて右横に転がり回避するが、今度は右足で彼を抑え込もうと振り下ろしてきた。それを今度は左に転がることで回避する。


 『獣』が足を叩き付けたことで葉が右側に大きく揺れ、ルインも『獣』もそちらに重心が傾く。『獣』は爪を立てることで問題はないが、ルインはそのまま転がり落ちてしまう。



 「うぉぉおおおおおお!?」


 落下先には薔薇の棘があった。ちょうど自分の首の位置だ。この薔薇の棘は上向きの刃のようになっているので、このまま下りれば彼の首が飛んでしまう。彼は全力で後方にメイスを振った。

 するとメイスを振った遠心力で彼に回転力が加わり、緩やかに回転することで棘をやり過ごすことができた。


 そしてまた葉の上に落ちたが、端の方だったので葉が傾きまた落ちてしまう。


「んぶぅ!?」


 その先は地面だった。受け身は取ったがドスンッ!と落下し、彼は変な声を上げた。




「ルイン! 無事か!?」


 駆け寄ってきたラーイルにジェスチャーで無事を伝え立ち上ったが、足取りは覚束ない。


「まったくよぉ……厄介なやつばっかだぜ」

「すまない。高所は手が出せなかった」

「んなもん構わねぇよ。それよりあいつをどうするかだ」


 先ほどの葉の上からこちらを見下ろす『獣』。


「薔薇の樹が巨大すぎて回避が出来ねぇ。いずれ真っ二つにされちまうぞ」

「……こいつは厄介だ。最後の手段を取るべきだろう」


 ラーイルのその言葉に思わずルインは彼の方を見る。


「お前まさか!?」

「ああ。俺がやる。後は頼むぞ」


 ラーイルは右手に持った剣を握り締めながら前に進み出た。

 ルインは急いで彼の肩を掴んだ。


「待てよ! そんなの俺に任せろよ!」

「馬鹿を言うな。その怪我で満足に足止めは務まらない」

「お前は家族に会うんだろうが!」


 ラーイルはルインの方を見た。

 その瞳にルインの言葉が詰まる。




「俺は月に誓った。自分がすべきことを見極め、自分に出来ることをする。俺の愛する者を守ることに繋がることに躊躇なんてしない。とな」

「じゃあ俺の誓いはどうするんだよ!?」

「俺の次に譲ってやろう。感謝するんだな」


 その言葉にルインは言葉が出ない。


「行け! そう長い時間止められんぞ!」


 肩に置かれたルインの手を振りほどくとラーイルは前へ進み出る。

 ルインは彼の後ろ姿を見つめた後、振返った。


「頼んだぜ、相棒」


 ルインのその言葉にラーイルは薄く笑いながら答える。


「ああ。後のことはすべて任せる」



 頷いたルインは走り出した。後ろは振り返らない。

 ラーイルはそれを見届けると、前を向き『獣』に剣を向けた。


「さて、いつまで高みの見物を決め込んでいるつもりだ?」


 その言葉を理解したのかは分からないが、『獣』は軽快に下りてくるとラーイルの正面、200メートルほどの地点に立ち止まった。


「……このまま動かないでくれると助かるんだがな」




 だがそんなはずもなく、ラーイルの四方から薔薇の樹が発生した。4本の薔薇の樹から何本もの枝が凄い勢いで伸び、ドームを形作るようにして彼を覆い隠そうとする。

 彼はそれに目をくれずに、こちらを睨んでいる『獣』一転を目指して走った。だが、ドームを形成しつつある四方の樹とその枝から先ほどルインを襲った通常サイズの薔薇が数百本も伸びて来た。


 いまのラーイルの頭には、回避という言葉はない。

 彼がやることは一つ。出来るだけ『獣』の注意を自分に向け続けること。命の限り時間を稼ぐこと。



「うぉぉおあああああああ!」


 彼は伸びてきた薔薇を片端から断ち切りながら前進する。

 しかし途中で右手に持っていた片手剣が何本もの薔薇で絡めとられ、振ることができなくなる。だがまだ剣は3本ある。ラーイルはそれを手放すと背中に差してある長剣を2本とも抜いた。片手に1本ずつ持ち、回転するように周囲の薔薇を切り落とす。

 進む速度は落ちるが、歩みは止めない。











 長い時間をかけ、着実に、着実に『獣』との距離を詰める。

 もう何本薔薇を斬ったか覚えていない。

 身体のあちこちに巻き付こうと薔薇が伸びてくるが、巻かれる前にすべて切り落とす。だがそれでも鋭利な棘による負傷は免れない。


「あぁあぁぁああぁああぁぁぁああああ!」


 獣のような叫び声を上げる。『獣』のすぐ近くまでもう迫っている。だが左手に握っていた長剣が手から抜けて飛んで行ってしまった。握力がなくなってきたのだ。右腰に差してあった片手剣を空いた左手で抜く。


 だが薔薇の数が多く、『獣』の10メートルほど手前でついに右腕を拘束されてしまい、痛みで剣を手放してしまった。左手も同様に剣を取り落とす。

 そして次々に四肢と胴体を縛られ、まったく身動きが取れなくなってしまった。






「くそっ! こんな薔薇の使い方が……」


 だが、もうそれを伝える術はない。

 彼には拘束を解こうと足掻くほどの力も残っておらず、あったとしても食い込む棘がそれを許さない。




「ルイン、生きろよ……」


 ラーイルは、これから再びこの『獣』と戦うであろう相棒の無事を祈った。






「……レナ」


 最後にラーイルは最愛の妻の顔を思い浮かべた。

 

「すまない、許してくれ」


 実は昨日彼女から手紙を貰っていた。彼女は彼との子供が欲しいと言ってきた。さらには子供の名前も考えておいてくれと。女の子だったときの名前は自分が考えておくから、男の子だった場合の名前を考えてくれと。

 ラーイルはもう決めていた。ローランと名付ける予定だ。手紙をもらったその日に一晩かけて考えた。

 それは手紙に書いて自分の私室のテーブルの上に置いておいた。ルインが見付けてレナに送ってくれるだろう。




 美しく華やかな薔薇のドームがほぼ形成されていたが、その一部が開き、そこから『獣』がゆっくりと歩いてくる。

 もうラーイルに戦意はない。そっと目を閉じた。


「月よ。彼女らの人生に、幸福を……」


 陽は傾いているが、月はまだ出ていない。それでも願わずにはいられなかった。

 せめて彼女には、『獣』とは無縁な平和な人生を送ってほしいと。















「いい男だねぇ。ファル君も見習うべきだね!」


 場違いなほど快活な声が響き、すぐ後に『獣』の叫び声が聞こえた。

 『獣』はその場から飛び退くと、襲撃者から距離を取るためにドームを崩して、1本の薔薇の樹の枝に飛び乗った。



 ラーイルを拘束していた薔薇も崩れ去った。崩れた薔薇はすべて光の粒子となって消え、ラーイルはその場に崩れ落ちる。


「おっと! 大丈夫ですか!?」


 彼の肩を1人の青年が支える。年の頃は20代だろう。まだまだ若々しい。


「ああ。すまない……」

「おいラーイル! しっかりしろ!」


 そして目の前に厳つい顔の男、ルインが走ってきた。


「おまえ……なぜ戻ってきた」

「丁度会ったからな! 連れて戻ってきた!」



 会ったというのは自分を助けてくれた者たちのことだろう。ラーイルが目を向けた先には、紺色のロングコートの上に黒い羽根で出来たマントのようなものを纏い、顔の上部を覆う白いオペラマスクを付けた女性がいる。両手にはショートソードが2本握られていた。

 初対面の人からしたら武装した変人だが、彼はこの人物が誰なのか知っている。


「……『夜鷹』」



 そう呼ばれた女性、イーゼルは顔だけを振り向かせる。その口元は苦笑気味に笑っている。


「その呼び名は苦手だなぁ。でもまぁアレだ」


 イーゼルは目の前の『獣』に目を向ける。




「助けに来たよ! あとは任せて!」


 これより『獣』狩りは終盤へと差し掛かる。

 感想、アドバイス等あれば是非お願いします。

 あと、もしよろしければ評価も……。

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