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夏の或る夜の夢の続き  作者: 横滑り木偶臣
第12章(エンドロール・下)
84/84

12-5

 夏に僕らかしでかした奇行──白いナースの役は真紀子がやるはずだった。


 でも、彼女はあの夏、確かに死んでいた。8月14日の早朝に……


 いまだに原因は不明のままだ。本当なら、文化祭でやる曲は全部、真紀子が歌うはずだった。元々洋楽好きなので、歌詞なんて見なくても耳が音を覚えているんだ。


 彼女の声はビックリするぐらい綺麗で、とてもバンドの音にはあっていた。練習が終わり、例の計画を誰からともなくいい出した。


 10年後の8月14日の金星食。その約束を忘れない為に、例の奇行を実行するというものだ。


「なんで日食じゃなくて、金星食なんだ」


「あんなの面白くないよ。絶対金星食」


「どんだけひねくれてるんだよ」


「まあ、俺らも8月の方が、休みを取りやすいだろうから」


 10年後──今、この瞬間の──自分たちを忘れないこと。そう誓いあい、再会すること──それを真紀子はとても楽しみにしていた。なのに彼女はその夏に突然死んだ。


 真紀子との約束を忘れない為に、その奇行は白昼のアビィ・ロードで実行された。


「待て──逮捕だ──逮捕する──」


「自分──ただの──変態ですから──」


 ラストソングは誰にも歌わせなかった。真紀子が一番好きといっていたその曲だから。歌のない伴奏だけの演奏は場内を鎮めさせた。事情を知っている一部の女子のなかには涙ぐむ者もいた。


 三人の横には真紀子がいてその曲を一緒になって歌っていた。そのときから、心のなかには真紀子がいた。そう、いつも、彼女は僕らの側にいた。


 今まで、それを、ずっと忘れていた──そして三人のラストソングは終わった。


     *


 どこまで走れば、そこにたどり着けるのだろう。たぶん碌な答えは用意されていないはずだ。僕はそんな気がしていた。それでもただひたすらに走るしかなかった。街を包む夜の碧と霧の白が一つに重なり、やがて溶けあい混ざりあっていく。


 気がつけば時計は夜の12時をまわっていた。あと2・3時間もすれば、この難解で論理性を欠く方程式の解は導きだされているはずだ。その答えを僕は知りたくない。それでも、彼女とふたりで走った。アビィ・ロードを目指して。


(了)


本作品は小説投稿サイトTaskeyにも投稿しております。

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