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〔Side.A 一人称〕
「美樹さん──ご免なさい──」
僕は力一杯、美樹さんを振り払い、その身体を電柱に抱きつかせた。両手に手錠をかけた後、ギターケースからロープを取りだした……亀甲縛り……夢のなかで美樹さんにやられていたことと逆のことをしてしまった……
「もう……バカ……恭司の癖に……」
そんな美樹さんを放ったらかしにしたまま、僕はマキちゃんとひたすら街のなかを走った。走ることでなにか問題が解決される訳ではない。
美樹さんのことだからこの程度の手錠とロープ──すぐに外して──追いかけてくるに違いなかった。
「ねえ、恭司……なんで、手錠とかさ……あんなもの持ちあわせていたの?」
「う……それは……聞かないで……」
マキちゃんは大きく目を──そして、さらに大きく見開いて、その表情に疑問のまなざしを浮かびあがらせる。そして僕のことを疑い、最後にはその事実に気づくのだった。
「ま……ままま……???……まさか?……まさかの?……変態?」
そう、僕は美樹さんに今やった行為を、マキちゃんにするつもりでいた。両手に手錠をかけ、どこまでも連れ去ろうとしていた。
形にさえすればそれはいつか愛に変わると、安易に考えてしまっていた。気まずい雰囲気のなか、ふたりでどこまでも走った。思いだすのは15歳の夏。
マキちゃん──君は本当は真紀子なのか?──それとも、本当に真紀子なのか?
*
中学最後の文化祭は、僕らの計画通り大いに盛りあがった。
運動部の人気者たちを取っ替え引っ替え歌わす訳だから、盛りあがらないはずはない。
決して良い出来ではなかった。歌詞カードを手のなかに丸めて、まるでカンニングでもするように歌っていたし、音痴の連中が変な踊りをしながら歌うのも最悪だった。
だけど観客からしてみたら、人気者たちが舞台の上で歌っているのだから、なんの問題もなかったのだろう。思い出作りには丁度いいイベントだった。




