12-2
痺れを切らしたかのように──美樹さんは五寸釘を振りかざし──マキちゃんの心臓めがけて一気に振りおろす。僕は必死になってそれを受けとめた。
「恭司くん……なにしてんのよ……私のこと信じられないの?」
嗚呼、この五寸釘を美樹さんのその豊かな胸の左側に突き刺して、永遠にその呼吸が止まってしまうようにするべきなのだろうか?
それともこのまま、美樹さんがマキちゃんの心臓に五寸釘を突き刺すのを黙って見届けるべきなのだろうか?
どちらも──今の──僕にはできない──美樹さんのことを愛してしまっているし──マキちゃんを失うなんて考えられない。
嗚呼……
〔Side.B 三人称〕
意識を失った状態の死神と偽警官を持ちあわせていたロープと手錠で身動きできぬようぐるぐる巻きにした。フロントガラスが木っ端微塵にされたバンに乗り山道を走った。吹きつける夜の風は生ぬるく、どこか甘い感覚がした。
「クソ、ガス欠したみたいだ」彼はいった。
ドアを開け、車体を確認する。燃料タンクからガソリンが漏れだしていた。
「ご免、マキちゃん、降りてくれないか……この車はもう使えない……」
「え……別にいいよ……もう、ここにいるから……別にいいよ……」
「なにいってるんだ」彼はいった。ドアを開けて、マキの手を強引に握る。「こんなところにいたらマズいって……」
彼は車体から無理にマキを引き離した。抱き寄せる。黒くて長いその髪。シャンプーと汗の匂いが混じっていた。




