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〔Side.A 一人称〕
「へ……変態ですか……」
毎年恒例──本当に思いだしたくもない。
奇妙な行為を面白がってつぎつぎと真似を奴らが出てくる。
この街では模倣犯が後を絶たない。今年も海パン野郎と偽警官の追走劇が街中でくり広げられていた。
僕はビールの泡を喉の奥へと流し込む。
「あんなことをしてなにが楽しいんですかね?」
「恭司くん、そんなに荒れたりしないの。この夏の一大イベントじゃない」
そういってビール瓶を美樹さんが僕のグラスに傾ける。
僕は既に出来あがってしまっていた。少し飲み過ぎ。情けないことに、気がついた時にはトイレへ直行──背中を美樹さんに摩られていた。
トイレから戻ると、
「ゲロは呪いだな」と、マスター。「お前、祟られてるぞ」
などと意味不明なことをいわれてしまう。
この人は大のオカルト好きだ。
で、示しあわせたようにグッドタイミングでバッドニュース。情報は備え付けの旧式ブラウン管テレビから──また今日も奇妙なニュースが流れる。
『先日起こった若い男女の無理心中→女の死体はまだ見つかってはいない→大方、女の方は死ねなかっただけなのではないのかと思うのだけれど→現場には何者かが死体を持ち去った痕跡→どこかに遺体を隠蔽した可能性あり』
テレビはそんな風に面白おかしく報道していた。僕とマスターがこのオカルトなニュースに固まっていると、その場の空気をまったく読まずに美樹さんがいった。
「それでさ、例の変態どもを私、捕まえようと思うんだよね」
はい?……なんですか……それ?……海パン男と偽警官を捕まえる?……なぜそうなる?……奴らは単なる愉快犯ですよ……放っておくのが一番なのでは?……などと、僕は思うのだけれど、美樹さんはこういうのだ。
「あいつら毎年懲りずによくやるよね。でも、正直、もう飽きちゃった」内緒話でもするように僕の耳元でそう囁いた。「若い子に悪影響だし、どんなに自分が詰まらない人間なのか、思い知らせてやらないと」




