10-4
「待て──逮捕だ──逮捕する──」
仮面をしていて、どこの誰だかわからない。
だがその科白には聞き覚えがあった。
しかも、その奇行は10年前のそのままだ。
「自分、ただの変態ですから、お構いなく──」
死神は哀れなその男に止めを刺し、全速力でこちら側に迫ってくる。
構うもなにも、僕たちはただ逃げだす以外に方法がなかった。辺り一面を人の死骸が埋め尽くす。生きた人間は誰もいない、そんな商店街をただひたすら逃げ惑った。
あいつは一体、人を何人殺したんだ。いくらなんでも鬼畜過ぎる。
街には人っ子ひとり──もう、存在してはいない。
このままでは確実にあの死神の餌食だ──奴はただの愉快犯なのか?──それともなにかの模倣犯なのか?──なにか特別に恨みでもあるのか?──だけども、だとしたら、理由は一体なんだ?──一体なにがどうなっているのだろうか?──戸惑いながらもひたすら走った。
脱法ハーブ……
僕は報道かなにかでそれを見たことがあった。
アメリカでそれを使った人間が、無防備なホームレス男性の顔半分を野獣のように喰いちぎったという生々しい類いのニュースだった。規模は比べ物にならないが、どこかこの状況はその事件に似ていた。
これは呪いなのか?──死相が出ているというのはこういうことなのか?
「キー・キ・キ──ĖĖĖĖĖèèèèèËęęęËéééééĒĒĒĒĒŃ」
もはや人間の発する音ではない。それはいつの日にか叩き壊したマーシャルアンプの音そのものだった。謎の男が大鎌を振りまわし近づいてくる。
お前は一体誰なんだ?




