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〔Side.A 一人称〕
一瞬、なにをいわれているのか、その時の僕にはまったく理解できなかった。
だけども、僕の求婚に対して、答えはNOだと……彼女の唇は強く主張していた。こうなることを……どこか予想してはいたのだ。
マキちゃんが愛していたのは幻想で、僕の作りあげた虚構──メッキがはがれ落ちた偽の主演男優は、彼女の目にはとても醜く映っているに違いない。
それでも形にさえすれば、受け入れてくれて、きっと、愛してくれるに違いない、そう安易に考えてしまっていた。
だけども、神はそれを奪うのだ。
ユースケからは命を。マーコからは築きあげた店を。そして僕からはマキちゃんを。
君を失うぐらいなら、このまま世界が壊れてしまえばいいのに……
「キャ──助けて──!」突然──世界が──反転した──
走ってくる男はいつもストリートで演奏している常連で、面識はなかったがすぐにそいつだとわかった。
だが、次の瞬間、僕とマキちゃんは目をそらさずにはいられなかった。
そして、目の前の光景を疑った……
顔の左半分が存在していないのである。
まるで獰猛な猛獣に喰いちぎられたような人相に成り果てていた。
その傷口から生身の肉と血が滴り落ちている。
そいつの後ろ側、後方を見渡すと、
何者かに刺し殺された死体の山が何層にも積みかさなっていた。
さらに、男の背後には、死神の格好をした輩──大きな鎌を振りおろしながら追いまわす。




