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〔Side.A 一人称〕
その晩は、いつものようにマキちゃんと商店街のストリートにいた。
相変わらず指輪を左手にはめるのは憚られて、右手の薬指に指輪をしていた。
彼女はというと僕の右手側に座り込み、瞬きをしながらこちらを見つめていた。左手の薬指にはこの前、僕が買ってあげた指輪が光っている。
いつの間に嫁をもらったんだ──ユースケが生きていたなら、きっとそう揶揄われていたに違いない。だが、肝心のユースケはもうこの世にはいないのだ。
今日はマキちゃんを送った後、寝ないで真紀子とマーコの二人と合流する。
もう僕は一晩中、豪遊するほど若くもなかったが、今日はなぜだがそんなバカげたことをしたい気分だった。
今日、8月14日の早朝、2時半頃から全国で金星食が見えはじめる。
天体を観測してから早朝まで三人で騒ぐ計画だ。オリンピックはもう終わってしまったというのに、僕たちはたいそうなことを仕出かそうとしている。
集合場所は例によってアビィ・ロード。
僕は車の免許がないので自転車での移動になる。初恋の人に会うという高揚感とは裏腹に、心の底では黒い雲の陰が夏の青空を覆い隠していくようだった。
午前中にマーコと会ってきた。
その日は珍しく昼の書き入れ時だというのに、店の前にはシャッターがおりていた。
店を閉めるそうだ。前々から経営は苦しかった。これ以上借金がかさむ前に、店舗を手放す考えらしい。
「東京で一からやり直しだ────」
夏が終わればマーコもまた違う生活が始まる。
心のなかで急にスコールが振りそそぎ、この雨がいつやむのかわからない。
不思議とイメージのなかの空には雲一つかかっていないのに、狐が嫁入りの仕度をしているのか雨がじっとり降り続けた。
それからもう一つ……




