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〔Side.B 三人称〕
「ふた組の変態のペアが存在する場合……」彼はいった。「どちらも、自分たちのことを本物だと思い込んでいることは充分にありうるはずです……つまり、変態を限定するための絶対条件が示されてはいないことになります」
医者はニヤけながら返答する。
「ふふふ……君がなんでまた……10年前の奇行にそんなにこだわっているのか、私は知らんけどね」手を前で組んでじっとりとした視線をむけた。「実は私……昔……俳優になろうと思っていた時期があってね……」
「どういうことです?」
「私の見立てだと君は優秀な探偵のようだ。だけど……」医者は笑いを押し殺す。「騙されたようだね……すっかり私のことを警官だと思い込んでしまったようだ……」
「やはり……先生……警官はあなただったのか……」
「そういうことだ」医者はいった。「犯行現場は直線上だった。駅から君たちに会った例のストリートまでに限定されていた。たぶん暇人どもの次の犯行は、花火大会当日なんじゃないのかと、私は考えていた。そんなときに、ある筋から確かな情報が入ってきたわけだ」
「どんな情報なんです……」
「それはいえないよ。情報に基づいて……」医者は続ける。「ミイラ男を発見した。海パンの方はダボダボのブルゾンとジャージを着込んでバレないように振る舞っていた」
なおも、脈絡のない話は続く。
「奴らは走った。私は追った。着込んだ服を脱ぎ捨てて、海パンの方は海パン一丁になった。私は奴に追いついた。すると奴はいきなり包帯を脱ぎ捨てた。私たちは余りのことにおののいた。奴は……白一色だった……私は、玩具のピストルを空中にむかって数発発砲した……」




