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「どういうことでしょうか?」
「まあ、待ちなさい、順を追って、説明する、ことに、しよう」医者はいった。「うん、そうだろうな、やっぱりな、この小説は時間軸が、君自身の手に、よって意図的に改竄されている、たまたま、海に行った時にフィルムを発見するなんて、ご都合主義に、も、ほどがあるだろ」
「そういわれましても……」
「……だろうな……やっぱりな……うん」医者はいった。「つまり、こういうこと、ネガを見つけて現像したのが先、海に行ったのが後、君はネガを捨てに行き、ネガを捨てたことを忘れた君は、またネガを発見する。この現象を何回もくり返しループさせる……」
「どういうことです……」
「君は思いだしたくないんだけど思いだしたくない自分を許すことができない」医者はいった。「うん、そうだろうな、やっぱりな、記憶の忘却と再生を君はくり返しているのだよ。忘れることによって精神は安定するかもしれないが、自分で自分自身を傷つけないわけにはいけない理由が存在する。ネガを捨てることによって記憶は忘却されるが、ネガを見つけだすことにより君の痛みは再生される。つまり、このネガが君のスイッチになっている」
「一体……なんのことです……」
「うん、そうだろうな、やっぱりな」医者はいった。「だろうな……君が復活させたいのはこの少女だ……だけど、君が殺したのはこの少女だ……」
「僕が……僕が……この少女を殺した……」
「だろうな……やっぱりな……」医者はいった。「うん、君が殺して、バラバラにして、この地図の印の場所に埋めた。そして、そのことを小説に記したのだけれども、そのまま書いてはマズいので、平将門の伝承や生贄にされる巫女の風習を適当に捏ちあげて、ケレンと煙に巻いてしまったのさ。エログロナンセンスと思わせて、実のところは実録犯罪小説だったわけなんだよ」




