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「ご無沙汰してたけど──私と会ってない間に彼女とラブラブとか?」
美樹さんに対する僕の気持ちを知っていて、このように接してくるのだから悪質である。
僕は──友人が落雷で死んだこと──それがどうやら十年前の約束事に関係していること──さらには呪いのこと──全ての事柄を包み隠さず美樹さんに話した。
「うーん、それだけじゃ、よくわからないなあ……」
美樹さんがいうには──呪いが人から人に感染することはまずないらしい──特定の条件を満たさないで呪いが発動されることもなく──そもそも呪いという概念こそ疑わしい──そんな風に平気で断言する──物事には必ず最初に原因があり──結果として次に現象が生じ──なにか要因があって人は死に至る──はず、なのだ、そうだ……
相変わらず、なにをいっているのかわからない説明だった。こんなカルト的現象をいくら論理的に説明されても、最初から理解できるはずなどなかった。
「私、ちょっとだけ調べてみようか?」
美樹さんは、突然そういって僕にお守りを渡した。
〔Side.B 三人称〕
「これは一体……なんですか?」と彼はいった。
「これは君の現像した写真だよ」と医者はいった。「これは君が中学の時に撮影した写真だ。見覚えはないかね?」
「ありません……」
「うん、そうだろうな、やっぱりな」医者はいった。「そうだろうな。やっぱりな。君の小説に登場するヒロインはこの女性を投影したものだよ。君の記憶のなかにある彼女の残像が色濃く、この小説には作用している」
「わからないんです、その女性のことが……」
「うん、そうだろうな、やっぱりな」医者はいった。「君は彼女に強く惹きつけられているその一方で、彼女のことを強く拒んでいる。それがネックになって彼女のことを思いだすことができないでいる。うん、そうだろうな。それは、トラウマかもしれない。喪失感が伴うものかもしれない。初恋かもしれないし、失恋なのかもしれない」
「先生……僕にはわかりません」
「やっぱりな」医者はいった。もう一方の写真を指差す。「そして、この、写真だ……これは、君の罪の重さを象徴している」




