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〔Side.A 一人称〕
「美樹さん」
待った?──そんな表情でこちらに近づいて来る。鉄筋の全面ガラス張りの建物。この会社で美樹さんは働いている。隣には背広を着た背の高い男性が付き添っていた。
「彼氏ですか……?」と、聞いてみる……
上司だか後輩だがわからないその男に、僕は確実に嫉妬している──高学歴・高収入・高身長──僕が逆立ちしたって敵わない相手に違いなかった。
おまけに顔立ちはイケメン──服のセンスも完璧すぎて非の打ち所がなかった。
「恭司くん。違うよ。会社の同僚。お友達です」少し照れくさそうにそういった。
美樹さんと同僚のその男は、楽しそうに会話を続けている。
彼女の吐息がかかるほどの、とても近い距離にその男はいた。ふたりにしかわからない隠語──仕事についての話を続ける。
イケメンの同僚はいかにも仕事ができそうな奴──その癖、育ちがいいのだろうか──厭味がない。
そんな出来過ぎ加減が、僕は本当に気にくわなかった。
「それじゃあ、また後で」そういうと男は美樹さんから離れていった。
彼女が他の男と楽しそうに振る舞っているだけで、なぜだか心のなかが落ち着かない。恋人でもなんでもないのに、僕はこの同僚に激しく嫉妬してしまうのだ。
やりきれない気持ちを必死に押しとどめながら、オフィス周辺の飲食店に、美樹さんと昼食を食べに出かけた。
*
「ねえ、なにが食べたい?」大きな瞳で、いつも通り美樹さんは見つめ返してくる。
ランチをご馳走してくれるのだそうだ。
あまり豪華な食事は気が引けて、ファミレスのランチをリクエストした。
店のランチは安い割にはなかなか豪勢で、ワンコインで満腹まではいかないまでも、相当な満足感を得ることのできる量だった。
隣に美樹さんがいたので、そのことで心が一杯になってしまったのかもしれない。
美樹さんは次から次へと料理をたいらげていった。
マキちゃんと付きあいはじめてからも、ちょくちょくこういう感じで密会してる。
浮気をしているという認識はないし、別に肉体関係があるわけでもないし、特になにか問題があるはずもないのだけれど……なんだろう……




