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〔Side.B 三人称〕
「それは壁みたいなイメージですか?」と医者はいった。白衣の胸元にあるネームプレートには新堂尊と記されてある。「これは受け売りなのだが人間誰しもが自分自身で問題の定義に対してなんらかの解答を用意しているのだけれども、なんらかの理由でその答えにアクセスすることができない場合がおうおうにあり、君の場合は精神の奥深い箇所になんらかの要因をどうやら創りあげてしまったようだ……話を聞く限りは城壁とかね」
「似たようなものを、いつも見ているような気がします」彼はいった。「10個のバツ印の内、3つを線で繋ぐと逆三角形。残りを繋いでいくと、斗の形になります」
「なんだね、それは…………」医者は訝しむ。
「城と城壁のようです。城のなかには胴体があって、城壁の外に首が埋まっている。10個の結界で印を結んでいるので、首と胴体が繋がることはもうありません……」
医者は表情を歪ます。沈黙の後、医者は一気に空気を吸い込み興奮気味にいった。「ちなみに、首と胴体が接続されると一体どうなるんだい?」
「わかりません。たぶん復活するのかな……」
「興味深い検証だね。ちなみに復活するのはどんな人?」
「わかりません……」と、もう一度、彼は声を荒らげいった。「どういうわけだか、その人物はこの世界に復活するのです」
「首と胴体をどうやって繋げるか説明して欲しいな?」医者の手元──すらすら踊るようにペン先がしなっている。カルテの上で文字が踊っていた。「ははははは、まるで、この世の終わりみたいなことをいうじゃないか……」
医者は侮辱するような眼差しをむける。
「僕はどうすればいいんでしょうか?」と彼はいった。
「それはわからない」と医者はいう。「私の仕事はクライアントである君自身がその答えに辿り着くのを助けることしかできないからね。勘違いしてもらっては困るんだけど、基本、君自身の努力にかかっている」
「僕は一体、なにをすればいいのですか?」
「まあ、これを見なさい」
医者は数枚の写真を取りだし、彼の前に並べた。




