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天真爛漫なマキちゃんの存在がその当時の真紀子のイメージに重なりあい、僕女の姿に初恋の残像を重ねあわせていた。
マキちゃんが真紀子であれば、どんなにいいだろうか──
そんな僕の妄想とは裏腹に、電話越しに接するその雰囲気は落ち着き払い、それにどこか疲れ切った感じが伝わってくる。
そうマキちゃんとは似ても似つかない女性の声なのだ。
「今年で10年目だね。約束覚えてる?」
思わずはっとさせられた──それはユースケが死ぬ間際にいった言葉──その言葉とまったく同じ科白だったからだ。約束とは一体なんなのだろう?──もしかして呪いかなにかなのか?
「金星食。みんなで見ようっていっていたよね」
驚きと、そんなことかという安堵の気持ちで、思わず床に転げ落ちそうになった。よくよく、考えてみれば、なにもかもが勘違い──思い込みの連鎖反応なのだった。
ユースケがそんな理由で死ぬはずはないし、僕のまわりで起きている奇妙な現象も所詮は、ただの偶然の産物に過ぎないのだろう。
僕自身が人生の苦境に立たせれていた。同時に働き過ぎてもいた。不幸な出来事が偶然重なったとき、そんな呪いとかいう非科学的な事柄が、実際に引き起こされたと信じ込んでしまったのだ……
「マーコには、僕から伝えておくよ」
そういって僕は電話を切った。喉に詰まった魚の骨が一気に取り除かれた。そんな安堵感で心が満たされた。
そういえば真紀子の奴め、結局文化祭のライブは見に来てくれなかったな。あんなに楽しみにしてくれていたのに……




