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美樹さんはこちらの動揺などお構いなしに、串の焼鳥に七味を振りかけ豪快に口のなかに放り込んでいく。大ジョッキの生ビールを飲み干しいった。
「ねえ、恭司くんって……童貞みたいだね……」
「ち、違いますよ。いきなりなんですか……」と、僕は口のなかのアルコールを吹きだしそうになる。油が染み込んだ狭いカウンター席を汚い店特有の光沢が照り返していた。「酷いな。なんなんですか、もう……」
美樹さんは席を寄せ僕との距離を少し縮めた。意地悪そうな目付きで、僕のことを観察しているようだ。彼女の吐息が僕の耳にそっとかかった。
「へえ、そうなんだ」美樹さんの思考回路は既に複数のネジが外れてしまっている状態。きっと、安いアルコールの所為だろう。「でも恭司くんの浮いた話って、聞いたことないよね」
まるで、悪戯をする猫のようだ。なおも鋭い視線で僕を疑う。
「美樹さん、今日飲み過ぎじゃないですか?」
「はい、はい、わかってますよ。マスター、ビールお代わり!」
そこで会話が止まる──気の聞いた科白をいって美樹さんの関心を引こうと思っても、面白い話のネタなんて持ちあわせていない。
なので普段の話題が尽きてくると、だんだんといつも通りおかしな方向に会話は進んでしまう。
「今年も出たらしいよ……例の変態……」