表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の或る夜の夢の続き  作者: 横滑り木偶臣
第8章(葬儀場にて友は焼かれる)
56/84

8-1

〔Side.B 三人称〕


 彼は面会室にいた。付き添いの警官が腕を組んでこちらを観察していた。先に祐介の家族から預かった差し入れを渡す。


 寡黙に祐介はなにも話そうとはしない。脱法ハーブの使用。ある事故を引き起こしていた。


「なあ、らしくないんじゃないか……」と彼はいった。


「会社に知れたら、確実に首だろうな……」祐介は続ける。「ここに来る前にたまってた有給を使って、長い休暇をもらったんだ。休職ってヤツ……このままドロップするのも悪くないかも」


「まあ……そうかも……」彼はいった。「でも、薬なんてなんで使った?」


「すうっと……抜けていくんだよ……嫌なことがなにもかも……」


「僕には、ちょっとわからない……」


「恭司、お前にはきっとわからないよ……会社で働いたことないだろ……」


「まあ……そうかも……」彼はいった。「でも、僕を呼んだってことは、理由をきちんと説明してくれるんだろう?」


「嗚呼……そのつもりだよ……」


 祐介は、吐きだすように言葉を紡いでいった。


     *


「これは個人のプライバシーに関することだから、仮にその人物をミフネさんと呼んでおこう。俺はその人物に大変世話になった。直属の上司であり、仕事のやり方はミフネさんの真似をして学んだといえる。


 ネット全盛期の現在の状況でも、全てのITが儲かっているわけじゃない。実際に、安い給料で扱き使われている人間が大多数だ……


 そういう意味では、うちの会社はかなりやり手だった。給料は高いし、他の会社が真似できない独自性も充分あった。


 うちの会社を引っ張っていたのは、間違いなくミフネさんだった。浮き沈みが激しいこの業界で、ミフネさんの奇抜なアイデアがあったからこそ、うちの会社は急成長することができた。


 だけど決算で赤字が出て、責任を取らされる人間が必要になった。ミフネさんを含むうちの会社のプロジェクトチーム。生贄にされたのはミフネさんだった。会社の幹部連中からすると、ミフネさんが目障りだっただけかもしれない。


 俺が人事部に移動になって一番最初に手がけた仕事──それはミフネさんに解雇を言い渡すことだった。


 本人はけろっとしてたよ。40歳にして新しいチャレンジだってね。新しい仕事を見つけて、ひとヤマ当ててやるって強がってたよ。


 でも知ってるだろ……40歳過ぎの再雇用って……なかなかないんだ……後から調べてわかったんだけど……だいぶ生活はすさんでたみたいだ……俺が最後にあったときは……あの人は死んだ魚のような目をしていたよ。


 ミフネさんには奥さんも子供もいたっけな……


 新居を購入したばかりで、まだ何年も住宅ローンは残ったままだった。子供の為に教育資金も必要だったし、なによりも生活の質を落とすことがあの人にはできなかった。今まであんな高い給料をもらっておいて、今更、他の仕事をやっていけると思うか?……なにもかも八方ふさがりだったはずだ。


 ミフネさんは……この7月に自宅で首を吊って死んだよ……断っておくが、ミフネさんは決して弱い人間じゃなかった……それなのに……自殺したんだ。


 俺は精神や肉体を鍛えれば、人間は強く生きることができるとは思わない。そんな理屈で物事が割り切れるなら、なんで、この国はこんなにも自殺者が多いんだ。


 俺はミフネさんに責任を押しつけて生き残った側の人間だ。どんなに高い給料もらっても俺の仕事は碌でもない……俺は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ