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〔Side.B 三人称〕
『お前の*****秘密****を*****知っている*****』
郵便受け──開けると──そこには週刊誌から切り取られた文字の羅列──葉書にはこの街から──さっとと出て行け──と、記されている。彼はぞっとした。10年前の奇行について知っている人間が存在する。
その日から街を歩くたびに、やたらと他人の視線が気になった。
なぜ、このタイミングなのだ──帰郷して、すでに3年もの月日が流れていた。
脅迫状をあえて、この時期に送りつけてくる犯人の意図がわからない。
あえて今年を選んだ理由はなんだ──???──彼は考えを巡らす。
もしかすると、今年の異常行動は10年前の奇行を実行した人間をおびきだす罠なのか──
理由はわからないが、自分たちのことを探している人間がいる。
〔Side.A 一人称〕
その日は街全体がどこか浮き足立っていた。年に一度の花火大会が川沿いで催されるからだ。この町に住む老若男女、全ての人間がはしゃいでしまうもんだから、どこもかしこも、もう仕事どころではなかった。
僕はマキちゃんを誘って、花火を見に行くことにした。この陰鬱な気持ちも少しは晴れやかなものに変わるかもしれない。
「ねえ、恭司は、犬と猫と、どっちが好き?」
とても唐突なその質問に少し意地悪をしてやろうと思い──犬だニャーと答えた。犬が好きといっているのに、ニャーと答えているのだから本当は猫が好きなわけなのだが、その答えに彼女は目をまん丸くして──キョトンとしたまま──暫く──沈黙が続いた。
「へえ……そうなんだ……やっぱり変わってるね」
彼女のその回答は揶揄っている僕の行為を軽く斜めに躱しさり、そのようなボケがまるでなかったかのようにしてしまった。
げんに……犬だニャーと答えたから変わっているのか……犬好きを装っているから変わっているのか……まったく……訳がわからないじゃないか……。さらには……見てはいけないものを見てしまった……そんな表情で……僕のことを覗き込んできた……




