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「なんだよ。自警団なんて無鉄砲だ、みたいな顔しやがって」三島がいった。「俺たちは無駄に動きまわったりしないぜ。こういうのは、能率的に作業しなきゃならねえんだよ。あてはある、8月14日だ」
三島がそういうと、一瞬にしてマーコの顔色が曇った。
その日は思いだしたくない日だったから。それは8月の蒸し暑い夏の日の夜だった。
帰宅途中の帰り道にあっけなく死んでしまった。タクシーも拾わずに、家にむかって歩いていたときのことだ。
医者の公式見解は持病の悪化となっている。
次の日の夜にはもうお通夜で、葬儀の後にさっさと火葬されてしまった。もうすぐ8月14日。マーコの父親の命日だ。
「なんだよ、しけた顔しやがって」三島はそういって、僕とマーコのグラスにビールを注ぐ。「中学の時みたいにパアっといこうぜ。パアっと。あの時、俺様のおかげで相当盛りあがっただろうが!」
こいつに、一曲歌わせたことを、僕は今になって相当後悔している……
そういえば、こいつなら、僕たちのラストソングを誰が歌ったのか覚えているかもしれない。僕は三島にそのことを尋ねた。
「嗚呼──あれなあ──」調子よく答えていた三島の表情が固まる。殺気。振り返ると、なぜか、マーコが睨みつけていた。「俺さあ、歌い終わったら、クラスの女子どもにサイン攻めにあっちまってよう。正直、最後の曲は聞いてなかったんだよな……」




