表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の或る夜の夢の続き  作者: 横滑り木偶臣
第5章(PSYCHOTHERAPY)
42/84

5-6

「あなたには死相が出ています」唐突に彼女はいった。


 なんの脈略もなく一体なにをいい出すんだ。壷でも、聖水でも、なにか売りつけるつもりなのか?


 だけども、彼女のその表情は真剣で、目の奥には涙がたまっていた。彼女がいうには──人間が生きていく為には生命体(エナジー)を作り出さなければならない。


 その為には、


 栄養を摂取する肉体的行為と──脳を刺激する精神的行為を──


 バランスよく配合して行わなければならないそうだ。


 なんらかの原因でこのバランスが崩された場合、必然的にその人間は死に近づく。


 科学的であるようで宗教的──彼にとっては説明のなにもかもがちんぷんかんぷんだった。もしかして過労で死ぬということなのだろうか?──それとも呪いに祟られるのか?


「恭司くん。無理だと思うけど、元気出してね。今日、明日、死ぬわけじゃないんだから」


 そんなことを美樹にいわれても、なんの慰めにもならなかった。


 本当に死ぬのかどうかも疑わしい。


 こんなカルト的な教養を信じろといわれても無理がある。


 だが最近、身体の調子は頗る悪く、さらに美樹の真剣なまなざしがよりいっそう、彼を不安な気持ちにさせていった。


     *


 すっかり辺り一面を深い闇が覆い隠していた。


 時刻は既に夜の10時をまわっていた。彼の心は奈落の底に引きずり落とされていた。なにも解決はしていない。わかったことといえば──緊急事態──彼が死に取り憑かれているということだけだ。


 彼はこの悶々とした気持ちを抱えたまま、ただ家路につくしかないのである。


 帰り際、暗い参道をふたりで抜けていくと、灯籠が仄かにひかりを放っていた。そこを通り抜ける間も、美樹は彼を質問攻めにした。


 内容は主に初恋の人に対してだ。彼はなぜだが、悲しい気持ちで心がいっぱいになる。


 階段をくだって鳥居を抜けた場所。美樹は彼にお守りを渡した。そしてそのまま彼を抱きしめると、突然、唇と唇を重ねあわせた。


 彼女は説明する──彼が死ぬことを防ぐおまじないのようなものなのだと。呆気にとられている彼を尻目に、照れくさそうに彼女は微笑んだ。


 肌と肌を隔てる衣服を飛び越えて、柔らかい身体の感覚が伝わってくる。


 本来、身を清める為のこの場所で、彼の精神は確実に犯されてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ