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〔Side.B 三人称〕
山の頂から街を見おろす霊山の一角──神崎美樹はその場所に住んでいる。彼女の家系は代々霊力を受け継ぎ、この街を裏側から実効的に支配している。
彼は本道に通され、祈祷のようなものを受けていた。
薄明かりのなかで質素な装飾品が浮かびあがる。
どこからともなく、雅楽の音色が境内に響き渡った。
それが幻聴なのか、スピーカーかなにかを仕込んだものなのか、彼には理解することができなかった。
目の前で美樹がやっている行為──一般的な神社で行われるお祓いとは違うやり方──カルト的というか、古代の宗教的形式を真似たなような儀式──
神もしくは霊的存在を呼びだす。そして、その存在と直接対話する。巫女の格好──こんな儀式をしていること自体、彼には滑稽に思えた。美樹が──
対話しているのは自分以外の誰かなのだ……
海外ドラマのように感じた。精神科医がおこなう催眠療法。全ての動作がそれに近い。お香──煙が境内に漂っている。
不思議なことに意識ははっきりしていた。だが、彼女の質問に答えているのは得体の知れない何者かなのだ。
彼女といるこの空間は彼にとって、とても居心地が良いものだった。それなのに──精神は不安定になり──この儀式のことを──不気味に感じてる──だんだんと意識は──遠退き──暗闇のなかに飲み込まれる──
初恋のこと。いままでの人生。そしてマキのこと。
聞かれたくないことは、一通り聞かれた。美樹に彼は嘘をつくことができない。彼女は彼の全てを知ってしまった。
*
何時間、この儀式はくり返されたのだろう?
彼が意識を取り戻すと──その場所は──真っ暗な部屋のなかから──灯りのある床の間に移されていた。少しだけ頭が痛い。
「あ……気がついたみたいね」美樹がいった。
いつものように笑顔で微笑むのだけれども、どこか心配そうな素振り。この対話からなにがわかったというのだろうか?




