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夏の或る夜の夢の続き  作者: 横滑り木偶臣
第5章(PSYCHOTHERAPY)
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5-5

〔Side.B 三人称〕


 山の頂から街を見おろす霊山の一角──神崎美樹はその場所に住んでいる。彼女の家系は代々霊力を受け継ぎ、この街を裏側から実効的に支配している。


 彼は本道に通され、祈祷のようなものを受けていた。


 薄明かりのなかで質素な装飾品が浮かびあがる。


 どこからともなく、雅楽の音色が境内に響き渡った。


 それが幻聴なのか、スピーカーかなにかを仕込んだものなのか、彼には理解することができなかった。


 目の前で美樹がやっている行為──一般的な神社で行われるお祓いとは違うやり方──カルト的というか、古代の宗教的形式を真似たなような儀式──


 神もしくは霊的存在を呼びだす。そして、その存在と直接対話する。巫女の格好──こんな儀式をしていること自体、彼には滑稽に思えた。美樹が──


 対話しているのは自分以外の誰かなのだ……


 海外ドラマのように感じた。精神科医がおこなう催眠療法。全ての動作がそれに近い。お香──煙が境内に漂っている。


 不思議なことに意識ははっきりしていた。だが、彼女の質問に答えているのは得体の知れない何者かなのだ。


 彼女といるこの空間は彼にとって、とても居心地が良いものだった。それなのに──精神は不安定になり──この儀式のことを──不気味に感じてる──だんだんと意識は──遠退き──暗闇のなかに飲み込まれる──


 初恋のこと。いままでの人生。そしてマキのこと。


 聞かれたくないことは、一通り聞かれた。美樹に彼は嘘をつくことができない。彼女は彼の全てを知ってしまった。


     *


 何時間、この儀式はくり返されたのだろう?


 彼が意識を取り戻すと──その場所は──真っ暗な部屋のなかから──灯りのある床の間に移されていた。少しだけ頭が痛い。


「あ……気がついたみたいね」美樹がいった。


 いつものように笑顔で微笑むのだけれども、どこか心配そうな素振り。この対話からなにがわかったというのだろうか?

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